第16話 光の花
ミヨコ姉達に手招きされて広場に来てみれば、ひと際大行列が出来ている出店が有るのを発見した。
「んだ、この行列は?」
「この先にあるのは……焼きそば屋さん?」
ジークとアリアが首を捻っているが……俺には、この場所の出店に心当たりがあった。
――まさか、ここは……そう思い店の方へ目を向けてみれば、丁度一人の客が売り子から焼きそばを渡されている所だった
「お買い上げ、有難うございましたっ」
よく通る声で客に対応していたのは……レーナ先輩だった。
「……いつもそこそこ売り上げてるが、間違いなく例年以上の売り上げしてるな」
「今年はとても買えそうにないよねー、騎士団特製焼きそば楽しみにしてたのになー」
そう言ってナナが口を尖らせているが、30分待ちというプラカードを持って立ってる団員が居るのを見れば、買う気は失せて来る。
「忙しそうだけど、挨拶だけしておこっか?」
ミヨコ姉にそう言われ、俺達が店の方に近づいて行くと、何やら列がざわつき始める。
「――おい、あれってまさか……」
「――畜生、祭りの規約に書いて無ければ声かけにいくのに……」
そんな声が聞こえてきて、改めて警備している団員に感謝する。
祭りの規約の一つに一般のお客さんから異性の団員への接触はNGという項目があり、先ほどから近寄ろうとする輩が居る度に、先輩方が撃退してくれてるお陰で、目立ってはいるが事なきを得ている。
普段街に居る分にはそんなに気にならないが、今日は天空騎士団主催のお祭りなため、王国中から騎士団のファンが来ている。
当然ファン向けのイベントもやっており、今絶賛サイン会をしている団長は勿論の事、年度によってはミヨコ姉やジェイ、後は一応俺もサインを書いてたりした。
ただ、今年の俺達のサインは事前に書いて抽選会をする形にしたため、比較的気楽に過ごせている。
「こんばんはレーナ先輩、凄い繁盛してますね?」
そう声をかけながら、水を飲む暇さえないレーナ先輩と一時的に売り子を交代すると、行列からブーイングがきた。
――やかましいわ、お前ら!
「そうだね、試食した時にジェイさんの作る焼きそばは美味しいと思ったけれど、まさかここまでだとは想定していなかったよ」
客へ焼きそばと釣りを渡していると、水を飲みながらレーナ先輩が苦笑いした。
――いや、確かにジェイの焼きそばはメチャ美味いが、コイツラ味なんか気にしてないと思いますよ……現に売り子が俺に変わった瞬間、並んでた奴の半分くらいは消えて行きましたし
「あのー……」
目の前の客から控えめに声をかけられて、客を待たせていた事を思い出し、営業スマイルを浮かべながら対応する。
「あぁ、すいません。焼きそば何個ですか?」
「1個ですが……僕は、ソコの銀髪の子に渡してほしいなって」
「は?」
思わず自分の耳に入ったことが理解できず聞き返すと、行列から次々声があがる。
「それなら俺、アノ青髪の子がいい!」
「俺はアッチのピンクの子に蔑まれながら渡されたい!」
「ぼ、ぼくはあの茶髪の子に「お兄ちゃん、買ってくれてありがとう!」って言われたい」
それ以後も何やら行列が喧々囂々の騒ぎになっているが……お前らもしや、俺に喧嘩売ってるな?
「よし、その喧嘩買っ「なに一般のお客さん相手にバカな事言ってんだ、この馬鹿は」」
――ゴンッ、とジェイに頭を殴られたので、恨めしく見上げる
「なにすんだよ、ジェイ」
「そりゃこっちの台詞だ、営業妨害しやがって。ソコに置いてある焼きそばはオマエら用のだから、それ持って嬢ちゃん達と祭り楽しんでこい」
「はぁ……わーったよ、邪魔してゴメン」
そう言って謝ると、出店の裏手から皆と逃げる様に立ち去った。
「今日来ているお客さんは……その、なんて言うか凄いのね」
そうリーフィアが言葉を濁す様に言うと、ユフィが複雑な顔をする。
「毎年割と凄いよ、去年のミヨコさんのサイン会とか、それはもう凄いことになってたから」
「ユフィちゃん、恥ずかしいからやめて……」
赤面してユフィに懇願するミヨコ姉の事を皆で笑いながら、様々な出店を見て回る。
チョコバナナやたこ焼きを初めとして、わたあめを買ったり、金魚すくいやヨーヨーすくいに挑戦したりした。
また他にもアリアが中央広場のイベントで歌を披露した結果、老若男女問わず人々を魅了し、ファンに取り囲まれるなど大変な騒ぎもあったため、あっという間に時間は過ぎて行った。
日も暮れ始め、花火が打ち上げられる時間になると、それまでバラバラだった人が次々川の方へ向かって移動していく。
「お兄ちゃん! そろそろ花火上がるみたいだよ!」
そう言ってナナが花火の見やすいスポットに向けて走り出すと、ミヨコが下駄をカランコロンと言わせながら追いかける。
「ナナちゃん、下駄でそんなに走ったら危ないよ!」
そんな二人を微笑ましく見ていると、アリアがジークに声をかけている。
「ねぇねぇジーク、私達も急いでナナちゃん達おいかけよ?」
「はぁ……ちゃんと捕まっとけよ」
何だかんだでアリアに甘いジークが車椅子の取っ手を握ると、結構なスピードでナナ達を追いかけて行く。
そんな四人を見て、シャーロットが声を上げた。
「この花火が終わったらお祭りも終わりなのね……何か凄く寂しいわ」
「シャル、その恰好で言っても全力で楽しんだようにしか見えないわよ?」
ノスタルジックに言ったシャーロットに対し、リーフィアがそう指摘する。
――まあ確かに、竜のお面を付けて、綿あめやヨーヨーを持ったシャーロットにそう言われても、全力で満喫したようにしか見えないな
そんな事を考えていると、隣を歩くユフィが俺を見上げて来た。
「ねぇ……センは、今年のお祭り楽しめた?」
そう尋ねて来たので、俺は満面の笑みで頷く。
「ああ勿論。途中色んなトラブルもあったけど、何だかんだでソレも含めて楽しめたよ」
「……そっか。じゃあ、来年も皆で来たいね?」
「ああ、そうだな」
――来年も一緒に、か
来年の今頃、俺達がどんなことになっているかはまるで分らない。
現状でも色んなトラブルを抱えている俺達だ……言うほど、全員が無事来年を迎えるのは容易くないだろう。
ただそれでも、皆と一緒にまたこの祭りを楽しみたい……そう強く思う。
「また来年も、皆でこの祭りに来よう」
俺がそう言った直後、空に大きな光の花が咲いた。
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