第11話 騎士団は今日も平常通りです

 ジークとアリアが尋ねてきて、主にジークが先輩達にもみくちゃにされた翌日のこと、何とか車椅子を操作できるまでになった俺は、ミヨコ姉に付き添われながら、皆の待つ訓練場まで移動していた。


「そういえば、ミヨコ姉はレーナ先輩と直接話した事あるの?」


「んー、一応上級生との交流会で会ったのと……」


 そこでミヨコ姉が口の前に指を置いて考え出したので、問い返す。


「他にも何かあるの?」


「んー、どうせならこの話はレーナ先輩と一緒の時にしよっかなって」


 そう言いながら悪戯っぽく笑うミヨコ姉の笑顔に、思わずちょっとドキッとする。


「了解、んじゃ今日の夜の歓迎会にでも」


「うん、そうだね」


 頷きながら笑顔で返してくれるミヨコ姉と一緒に移動していると、既に訓練場には皆が整列していた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん! はやく、はやく!」


 そう言いながらナナが、大きく手を振って俺達を呼んで来たので、ミヨコ姉に車椅子を押して貰いながら最後尾へ移動しようとした所……団長に手招きされたので、最善列へ移動した。


 すると、団長の横に立っているレーナ先輩が、小さく手を振ってくれる。


――今日のレーナ先輩はポニーテールか……いいね!


「うし、セン達も来たみたいだし、自己紹介して貰っていいか?」


「はい、わかりました。……皆さん初めまして、レーナ・ミレーナと申します。この度は体験入隊を快く受け入れて下さり、本当にありがとうございます。まだまだ未熟な身ではありますが、誠心誠意頑張るので、何卒よろしくお願いします」


「レーナちゃん、美人過ぎ! 結婚して―!」


「一生のお願いです! 俺の彼女になってください!!」


「レーナ先輩、声まで綺麗で羨ましー!」


 レーナ先輩が挨拶を終えて一礼すると、大きな拍手が起こると共に、騎士団の先輩方から幾つもヤジが飛んでいる……と言うか、横を見てみれば一緒になってアリアもヤジを飛ばしている。


――アリアは本当、無駄に順応性高いよな……


「それじゃあ顔合わせも済んだことだし、早速訓練入るぞ。アリアの案内は……」


 そこで一旦話を区切って団長が周囲を見回すと、団員たちが一斉に手を上げながら自己アピールし始め……団長が深いため息を吐いた。


「案内は、センたちに任せる」


 そう言った途端、先輩方からブーイングが上がると共に、強烈な嫉妬の眼を向けられる。


 だが、そんなものはいい加減なれてきたので無視した。


「お前ら、取り敢えずセンをシバク算段は後にして、訓練に行くぞー」


 パンッ、と手を叩いた後にジェイが皆に呼びかけると、口々に文句を垂れながらランニングをしに去って行った。


――てか、俺はシバかれるの確定かよ


「あはは……天空騎士団はもっとこう……規律が厳しいイメージがあったけれど、結構フランクな感じなのかな?」


 そうレーナ先輩に聞かれた俺やユフィ達は、思わず恥ずかしさから顔を反らしたくなった。


――あの先輩らめ……


「あー、まぁそうですね。ただ悪い人らではないんで、許してください」


 そう言って頭を掻くと、先輩は頷いてくれた。


「それじゃあ気を取り直して、全員で自己紹介をしない?」


 ユフィがそう音頭を取ると俺達――ユフィ、ミヨコ姉、ナナ、リーフィア、シャーロット、アリア、ジークと順番に自己紹介していく。


「しかし、改めてこのメンバーは凄いな」


 ジークが適当な挨拶をし終わると、レーナ先輩が苦笑いしながら言った。


「ジークの名前しか言わなかった、適当すぎる挨拶に動じなかった所がですか?」


「おい、テメェだって大差ねえだろ!」


 ジークがそう言ってきたので肩を竦めると、「いいや、そうじゃなくて」と言いながらもレーナ先輩が少し笑っている。


「君たち皆、学園で有名な生徒ばかりじゃないか」


 そんな風に言われるが、俺達は思わず首を捻る。


「センやジークの問題児二人組と、リーフィア、アリアが有名なのは分かりますけど、私達もですか?」


「いやシャーロット、問題児具合ならお前も……」


 そう言った所で、ギンッと睨まれたのでそっぽを向くことにする。


「まぁその三人は特に有名だけど、シャーロット君だって元々侯爵家の令嬢で雷魔法の使い手としては学園でも指折りじゃないか」


「……先輩にそれを言われると複雑ですけど、有難うございます」


 シャーロットが少し拗ねた様に言うと、レーナ先輩が「そう言うつもりでは無かったんだが、すまない」と言って頬をかいている。


「ハイハイ! 私やお姉ちゃん達も有名なんですか?」


「そうだね、ナナ君は中等部では最強との呼び声も高いし、ミヨコ君は学園で最高の魔術師と専らの噂で、ユフィ君に関しては……どうしても目立つからね」


 おそらくユフィの眼の事を言おうとして躊躇したのだろう先輩に、ユフィが笑顔を返す。


「別にこの眼の事は気になさらないで下さい、これでも一応日常生活には支障ないので」


「そう……なのか、ただデリカシーが無いことには間違いない、申し訳なかった」


 そう言って深く頭を下げるレーナ先輩の姿に、その心根の誠実さの一端を見た気がした。


「そろそろ皆、移動しない? 結構日差しも強くなってることだし」


 リーフィアがと手で自分の顔を仰ぎながら言うと、皆で騎士団の施設の紹介へと移動開始した。





 騎士団にある施設を移動して解説する――のは良かったんだが、如何せん俺達のグループには3人も車椅子が居た為、移動には意外と難儀する事になった。


 そして、無事一通りの施設の説明が済んで、各々風呂に入るなど自由に時間を過ごし、時計が18:30を回った頃……アリアとレーナ先輩、ついでにジークの歓迎会が開催された。


――なお、リーフィアとシャーロットの歓迎会を、つい4日ほど前にやったばかりである


「皆、杯は持ったなー? それじゃあ、レーナの体験入団とセンの友人達の来訪を祝して……乾杯!!」


「乾杯!!」


 広い食堂の至る所で杯のぶつかる音が聞こえてきて、途端に騒がしくなり始める。


「さて、何から食おうかな……」


「ようセン、お前は俺達の所で話すべきことが有るよな?」


 テーブルに載った食べ物を選んでいた所で声をかけられ、振り向いてみれば俺の車椅子の取っ手を掴んだジェイが立って居た。


「どうせ下らない事だろ? 俺はまず飯食いたいんだけど……」


「バッカ、お前にはレーナちゃんに彼氏が居るかどうかを教えるって言う、最大のミッションが有るだろうが!」


「……はぁ」


 女が絡むと途端にダメになるジェイにため息を吐いてると、ジークが我関せずと飯を食っているのが視界に入った。


「なぁジェイ、ソコに何食わぬ顔で飯食ってる彼女持ちが居るんだが、どう思う?」


「なっ、別にアリアは彼女じゃねぇ!」


 ジークがそう叫ぶと、隣に座っていたアリアがヨヨヨと鳴き真似をする。


「あの時はあんなに熱い告白してくれたって言うのに……嘘だったのね」


「いや、告白とかしてね……」


 そこまでジークが言いかけた所で、ジェイがジークの肩をガッと掴むと頷いた。


「お前も、一緒に来い……なぁに安心しろ、知り合いの可愛い子でも紹介してくれれば釈放してやるから」


 ハハハと、妙に高いテンションのジェイに連行されて、騎士団の魑魅魍魎ちみもうりょう――男達の下へ着くと、身近な女性たちについて根ほり葉ほり聞かれることになった。


 なお歓迎会の終盤、盛大なじゃんけん大会に敗北した結果、レーナ先輩に彼氏がいるか聞きに行かされた俺は……それを見ていたミヨコ姉とユフィから、説教を食らう羽目になったとさ。

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