第10話 バックオン・ザ・ホスピタル!

 軋む体をベッドに横たえながら、ボーっと窓の外を見る。


 すると抜ける様に青い夏空の下、汗を流しながら必死に訓練している騎士団の先輩方が見えた。


 ここは、天空騎士団の病棟の一室。


 先日の遺跡の件でまたもやボロ雑巾の様になった俺は、シャーロット達に引きずり出されて救出されると即座に騎士団へ搬送され……結果、皆も一緒に来ることとなった。


「なに昼間っから黄昏てんのよ?」


 ドアの方から声が聞こえたのでそちらを見てみれば、車椅子に乗ったシャーロットが入って来る所だった。


「別に黄昏てねえよ、足の調子は大丈夫か?」


 そう確認すると、シャーロットが肩をすくめる。


「あと数日で、無理しなければ歩けるようになるって。……ここの医療技術はちょっと不気味なレベルよね」


 苦笑いしながらシャーロットにそう言われ、俺は頬を掻く。


 昔同じ事をここのスタッフに言ったら、騎士団の医療技術が優れてるのは、元々戦闘を生業とする場所だからと言う理由や、ユフィが居るからと言うことの他に……散々俺が怪我して来るせいだ、と言われたことを思い出す。


――ドォンッ


 突然、地面を揺らす程の衝撃が院内に響き渡ったので外を見てみれば、今日もリーフィアが騎士団の先輩――ガッチ・ゲイさんと訓練してるのが見えた。


――あの二人がやり合うと、派手なんだよな……


「ここに来てからリーフィア、随分気合入ってるよな?」


「そりゃあね……遺跡で私達役に立てなかったもの」


「いや、役に立たなかったなんてことは無いだろ。2人が居たおかげで俺はアイツを倒せたし、倒した後も2人がいなきゃ俺は死んでたぞ」


 実際、遺跡を出た時の俺は死んでないのが不思議な状態だったらしい……まぁ黒天使を倒してから数日間の記憶が丸っと抜けてる位なのだから、さもありなんだ。


「そうかもしれないけど……でも、もっと強くなりたいって思った気持ちは、本物だから」


「……そうか、俺に何か出来る事があれば言ってくれ」


 そう言うと、シャーロットがニヤっと笑う。


「魔法使うのを禁止されてるセンに頼む事なんて、当分無さそうだけどね」


 そんな風に軽口を言われ、思わず俺も笑っていると、部屋の扉をノックされる。


「どうぞー」


 そう声をかけると、ユフィが部屋に入って来た。


「あっ、シャルいたんだ」


「うん、ちょっと暇だったから」


 そう言いながらシャーロットがユフィに場所を譲る様に、少し離れた場所へ移動した。


「遺跡で再会した時にはシャル、酷い状態だったんだから、余り無理しないでね?」


「うん、お父さまとお母さまには心配かけちゃったみたいだから、今後は注意する」


 そう言って小さくシャーロットが舌を出し……ユフィが苦笑した後に顔を俺へ移すが、すぐに別の方を向いた。


「本当悪かったって。皆と約束したように今後半年雷天は使わないし、許してくれ」


 お手上げだと両手を上げると、ユフィが盛大にため息を吐いた。


「センはいっつもそうやって煙に巻くけど、今回だって本来の使い方とは違う方法でブースター使ったらしいじゃない?」


「うっ……」


 確かに、本来自身の魔力を全部抜いた状態で、いわば予備電源として使う筈のブースターを、魔力の有る状態で2本同時に使用した暴挙は、幾ら怒られてもしょうがないとは思っている。


「まあ、今技術部の人たちがそんな勝手をさせない様に、研究中みたいだけど」


「うへぇ……すいません」


 色々申し訳ない気持ちになりながら、頭を下げた。


「研究と言えば、遺跡の奥から発見されたコレの研究は進んでるの?」


 シャーロットがそう言いながら指さしたのは、左の人差し指に着けた宝石のはまった指輪。


 一見ただの指輪の様に見えるが……その実、宝石部分には茶、青、銀色、ピンク、金色、黄色と計6色の光が浮かんでいる。


「目下研究中みたいだけど……現時点で使えてる通信機能だけでも、すごい便利よね」


 この指輪、100m以内に居る指輪の着用者と、念じるだけで話が出来る優れモノであったが……。


「こんなもんじゃ、あの黒天使を倒した報酬には物足りないけどなー」


 思わずそうぼやきながら、俺とユフィもはめている指輪を改めて見る。


 黒天使を倒した部屋の先にあった小さな部屋に、複数冊の日記と一緒にこの指輪が6個見つかったらしい。


「確かに、ちょっと物足りないし、ちょっと使いにくい所もあるわよね」


 そうシャーロットが、言葉を漏らした。


 実はこの指輪、一回パスを繋ぐと意図的に切らない限り繋がりっぱなしになると言う仕様がある。


 知っていればなんて事は無い事なんだが、先日これのせいでちょっとしたトラブルが有った。


 そう、時は夕方――彼女たちが風呂に入る……。


「セン? あの時の事は、忘れるって約束したよね?」


「はい、すいません。二度と思い出さないんで、許してください」


 笑顔だけれど、その裏に凄まじい圧を感じて、土下座する勢いで謝る。


「はぁ……今日の午後にはアリア達も来るんだから、シャキッとしてよね?」


 ユフィに大きくため息を吐かれ、その横のシャーロットは苦笑いする。


「そう言えば、今日はアリアとジークが来るけど、明日からは会長――レーナ先輩が来るらしいな」


 そう言うと、2人が目を見開いた。


「えっ、レーナ先輩ってウチの学校のレーナ先輩? なんで?」


「その話、私も全然聞いてなかったんだけど、本当なの?」


 シャーロットは頭に疑問符を浮かべており、ユフィは俺の言っている事が本当か疑っている様に見える。


「あぁ、俺と戦って騎士団に興味持ったらしくて体験入隊するって、昨日団長に聞かされたんだが……もしかしたら、皆を驚かせようとしてたのかもな」


「団長のことだから、あり得そうで困る」


 ユフィが「はぁ……」とため息を吐き、シャーロットがアハハと誤魔化す様に笑った。


 シャーロットも騎士団に1週間位いて、何となく団長の人となりを理解してきたのだろう。


 そんな事を考えていると、途端に廊下が騒がしくなり始めた。


 時刻は11時30分。


 午前中の訓練を終えた皆が、ここまで見舞いにやって来たのだろう。


 その事に胸が暖かくなるのを感じながら、部屋がノックされるのを待った。

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