第5話 入城と同調

 ゼネットとの打ち合わせを終え、白城の前に立った時……改めてその大きさに圧倒された。


 白城と言う名前が示す通り、真っ白な石で形作られたその城は、ダンジョンと言う限定的な空間の中に有るにも関わらず、そり立つ城壁は、先日登ったゲット伯爵家の物より遥かに高い。


「皆、準備は良いな?」


 扉の前で再度そう問いかけると、各々の武器を手にした皆が、頷き返して来る。


「行くぞっ」


 短く自分自身に気合を入れて、勢いよく扉を押し開いた。


――汝に資格は、ありやなしや


 そう書かれた扉を開いた先に見えたのは、数百人は優に集まれそうな大きさの広間と、一定間隔で配置された天使の石像。


 ……だが石像は何れも完全な状態ではく、羽がもがれた物や、首の欠けた物、腕が無くなった物などどこか欠損した状態で並んでいた。


「気味が悪いわね」


 ぼそりとシャーロットが呟いたのに対し、思わず同意しようとしたところで、ユフィの声が聞こえて来た。


「上空から敵が3体っ」


 そう言われて頭上を見上げてみれば、全身真っ黒い人型の体に、コウモリの様な羽を生やした敵――ガーゴイルが、天使像の腕や首を手にして、こちらを睥睨へいげいしているのが見えた。


「全員、散開っ」


 そう叫ぶと同時、俺達が居た中心部目掛けて勢いよく石像が放たれるが、ソコには既に誰も居ない。


「水槍っ」


 躱すと同時に展開されていたミヨコ姉の水槍が6本射出されると、それぞれのガーゴイルに直進していき……内1体の羽を貫くと体勢を崩させた。


「その一体は、まかせてっ!」


 言うが早いかナナが天使の像を蹴って、傷を負ったガーゴイル目掛けて飛び上がると、その頭上から炎を纏った槍を振り下ろし――地上に縫い付けたと同時、炎が巻き上がった。


「コイツをお前らに躱せるか?」


 ナナが動いている間にチャージし終えたナイフ――計8本を室内の四方八方へ投げると……石の床や壁を反射したナイフは、時間差でガーゴイル達に襲い掛かり、奴らを地上へと引き摺り下ろす。


「リーフィアッ、シャーロットッ」


 そう声を上げた時には既に2人は、落下して来るガーゴイルの下へと移動しており……それぞれの武器でもって的確に急所を穿った。


「……この部屋に、他の敵の反応はないわ」


 両目を開いたユフィがそう告げると、皆が一度大きくため息をつく。


 城に入って早々、まさかこんな手荒な歓迎を受けるとは思っていなかった為、皆で問題なく対処出来て俺も一安心する。


 ただとっくに分かっていた事だが、ゲームでこの城を訪れた時とはまるで違う攻撃のされ方や状況に、改めてゲームの知識が役立たない事を実感する。


「皆特に怪我無いよな?」


 念のためそう尋ねると、全員が頷き返してきたので、死んだガーゴイルから魔石を回収していく。


 すると魔石を抜き取られた遺体は即座に崩れ、灰となって消えた。


 ……元々ガーゴイルは石像の魔物であるため、再び石へと帰ったのだろう。


 その後、安全になったこの部屋を改めて調べたが、特に目ぼしい物を見つける事は出来なかった。


 ただ、戦闘により発生した城への損傷が時間経過で復旧していたため、他の遺跡同様に元の形へ復元しようとする力が働いている事は確認した。


「それじゃあ、この部屋を起点に城内部をマッピングしていく……ユフィ、地図の作成は頼んだ」


「私は何時でも大丈夫」


 声をかけた時には既にユフィは、愛用している杖を腰に下げ、紙とペンを取り出している。


――流石はユフィだな


 普段から感覚のズレや、視覚情報の歪み等が発生しやすいダンジョンで、何時も地図の作成を任せているだけ有って手馴れている。


「まずは本命の正面扉から調査して行こう」


 了解、の声が皆から上がったのを確認し、慎重に扉を開けると、今度は幾つもの全身鎧が飾られているのを確認できた。


「これは……ただの鎧?」


 そう言いながらリーフィアが近づいた所で――その脇にあった鎧が動き出し、剣を上段に構えて――。


「やらせるかよっ」


 思わず叫びながら、雷撃を込めたナイフを投擲すると、剣を持った鎧の中心部に突き刺さり、前方へと鎧を弾き飛ばす。


 だがそれが引き金となったのか、次々と全身鎧――リビングメイルが奥から湧き出して来る。


――こんな数のリビングメイル、とてもDランクのダンジョンじゃねぇぞ


 そんな心の叫びを上げながらも、頭の中では適切な対応を模索する。


「ミヨコ姉、しばらくの間足止めを頼む。ナナはシャーロットと、前衛を交代してくれ。ユフィと近衛の人たちは前線のバックアップを頼む」


「任せて、弟君」


「分かったよ、お兄ちゃん!」


「セン、無理はしないでね……」


「任されよう」


 濁流の様に押し寄せてくるリビングメイルに対し、皆が疑問を抱くこともなく、俺の指示通りに動いてくれる事に……その信頼に感謝する。


――期待は、裏切れねぇな


 そう考えていた所で、俺の隣に来たシャーロットが真剣な面持ちで問いかけてきた。


「この状況で私を後ろに下げたってことは……例のアレ、やるのね?」


「ああ、ただ多少ミスっても俺が全部カバーしてやる。だから、リラックスしていけよ?」


 そう言って笑いかけると、震えていたシャーロットの手が止まり、代わりにニッと笑い返してくる。


「任せてっ。実は私、本番に強いタイプなんだからっ」


 視覚的にも、心情的にも急かされ、不安を感じているこの状況でなお、ソレを押し殺したシャーロットの心意気に熱いモノを感じながら、ゆっくりと、2人の動きを同調シンクロさせる様に掌を突き出す。


 展開した2つの魔法陣が繋がり合い、複雑に絡まり合っていくのを見ながら、思わずほくそ笑む。


――本番に強いのは、マジだな


 学園で練習したどの時よりも高い同調率に身をゆだねながら、魔法陣の安定に努め……完成する。


「皆、俺達の後ろに下がれっ」


 そう声をかけると、前線にいた皆が一斉に振りの大きな技を繰り出して、一瞬だけリビングメイルの足を止めると、全員俺達の後ろへと回る。


 直後、100を超えるリビングメイル達が一気に俺達2人に向けてなだれ込んでくるが、そこに不安は無かった。


 ――蹂躙せよ雷双四閃


 トリガーワードを紡ぐと共に、雷槍より数倍は巨大な紫電の槍が俺達とリビングメイルの間に出現すると、引き絞られ……。


――紫電槍双


 ……解き放たれた。


「っつ……」


 轟音を立てながら眼前に有る物全てを呑み込む紫の稲妻に、後ろに立つ皆が息を飲んだのを肌で感じる。


 ……蹂躙と呼ぶに相応しい光景が終わった時、そこにはリビングメイルの影も形も無く、数十メートル先まで赤化した床や壁だけが存在していた。


――――――――――――――――――――

投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません。また、私情により明日投稿がちゃんと出来るか怪しい状況です。


明後日からは再度朝8時に投稿しますので、何卒よろしくお願いします。

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