第19話 打ち上げ会と夏の予定

 テーブルの上にそれぞれが頼んだ食べ物や飲み物が行き渡ったのを確認すると、ミヨコ姉が音頭を取る。


「みんな期末試験お疲れさまでした。今日は皆で盛り上がりましょう」


 そう言ってカフェラテの入ったコップをミヨコ姉が持ちあげると、皆それぞれの飲み物を手に取る。


「じゃあ……乾杯!」


「かんぱーい」


 皆でコップをぶつけ合って注文した飲み物――俺はカフェオレを飲むと、適度な苦みが口の中に広がる。


「これで1学期も残すところ来週頭の答案の返却と、終業式位か。長いようで短かったな」


「センの場合は、赤点取って補修になったらそれが追加になるけどね」


「シャーロット、不安なんだからそう言う事言うのやめろよな」


 からかってきたシャーロットにそう返すと、皆がクスクス笑う。


「皆と出会ってまだ3カ月なのよね……本当、長いようで短かったわ」


「この3カ月色々有りましたからねぇ……」


 珍しくしんみりとそんな事を言うリーフィアへ、隣に座ったナナがしみじみと頷いている。


「入学早々弟君が喧嘩し始めて、その後も騒ぎを起こしたりして……」


 ミヨコ姉がそう言うと、ユフィが後を継ぎ……。


「レクリエーションや模擬戦でも騒ぎを起こして……」


 ユフィの言葉に、リーフィアが首を傾げる。


「……と言うか、センが騒ぎ起こしてなかった日を探す方が少なかったんじゃないかしら?」


「確かにそうかも」


 ユフィに納得されて、思わず頬を掻く。


――まぁ、ちょっとハメを外してた自覚は有るからなぁ


「お兄ちゃんが起こした事件と言えば、私は食堂で開かれた大食い大会が印象的だなぁ」


「ナナちゃん、ほっぺたにアイス付いてるわ。……個人的にはミヨコさんのカードを巡った争奪戦が印象的だったわね」


 リーフィアがナナの顔をナプキンで拭いながら、そんな事を言う。……あったなぁ、そんなのも。


「放送室まで占拠して騒いだせいで、結局アンタたちプール掃除させられたんだったかしら?」


 シャーロットがジト目で俺を見て来たので、思わず目を反らす……。

 

――プール掃除を命じられて最初は真面目にやってたんだが、その内面倒くさく成って騒いでたら、更に怒られたんだよなぁ……


「って、俺の事はもう良いっての。どうせだから夏休みの予定の話しよう」


「露骨に話反らした」


「まぁ、確かにいつまでもコイツの話しててもしょうがないわよユフィ」


 ユフィとシャーロットが肩を竦めてるのを横目に、話題を考える。


「皆は夏休みにやる事とか決まってるのか? 俺は取り敢えず、ジークの連れの所には行ってみようかなと思ってるけど」


「ジークさんの彼女って言うと……シャイン伯爵家のお嬢様のこと? お兄ちゃん」


「よく知ってたな、ナナ?」


「エルちゃんが――同室の子が、事件の事知ってたから」


「その話なら、私もマリーから聞いたかな……酷い話だったって」


 そんな風に話の内容をある程度知っているナナとミヨコ姉に対し、ユフィ達が分かってない様子だったのでザックリと1年前に起こった事件を話すと……三人共ひどく憤慨した。


「何それ、事件を起こした奴らはどうなったの?」


 シャーロットが嫌悪感を前面に出して聞いて来たので、答えてやる。


「学校は当然退学、貴族だった奴は家を継ぐ権利を没収の上、牢屋にぶち込まれたらしいぞ。まぁ、伯爵令嬢に一生モノの傷をつけたんだから、それでも甘い処置だって意見もあるみたいだが」


 学園長に聞いた話では、見せしめに処刑するべきだと言う意見もあったらしいが……被害を被った当人が望まなかったらしく、その話は立ち消えになったそうだ。


「私の国だったら、爵位が上の人間にそんな事したら、打ち首の上被害者に献上するでしょうね」


「……リーフィアの話は置いておくにしても、その、シャインさんの容態はどうなの?」


 ユフィが暗い顔で聞いてきたので、打ち上げの席で話すべきでなかったかと少し後悔する。


「足は残念ながら悪いままらしいが……」


 そう言った所でふと、ガイゼルを思い出す。


――奴なら例え足が壊死してようが、どれだけ時間が経っていても直せるのでは?


 そんな考えが頭を過るが、奴の生死が不明な以上意味のない思考だと振り払う。


「ただ、結構元気らしいってのは聞いてるな。と言うか、ジーク曰く先日病院で入院してる子供たちを引き連れて車椅子で走り回った結果、病院の人に説教されてたらしい」


「そう言う人だったんだ。私もっとこう……お淑やかな人かと思ってた」


 面食らったユフィがそう言うのを聞いて、俺も思わずうなずく。


 アノ性格のジークと付き合えるんだから、天使の様に懐の深い人かと思っていただけに聞かされた時には驚いたが……まぁ、アイツと付き合うためにはそれ位心臓が強くないといけないのかも知れない。


「シャインさんなら私も去年の中等部との交流会で何回か見たけど、凄くかわいらしくて快活な人だったのを覚えてるかな」


「中等部ではカリスマ的な人気があったって聞いてるよ……ねぇお兄ちゃん、私もシャインさんの所行ってみてもいいかな?」


 ナナに突然言われて一瞬考えるが、頷き返す。


「わかった、じゃあジークに聞いてみるよ。皆も行くか?」


 そう尋ねると、ナナ以外の皆も頷いて来た。


「じゃあ、夏休み初日の予定はソレとして他は何をするの? 私、リーフィアの国に一度行ってみたいんだけど」


 そうシャーロットが言うと、リーフィアが肩をすくめた。


「ウチの国か……チャールズはセンに会えて喜ぶと思うけれど、私はそれよりも学園のアルバイト――ダンジョンに行ってみたいかな」


「あっ、ソレは俺も行きたいな。色々試したいことも有るし」


「試したいこと?」


 ユフィが疑問に感じたのか聞き返してくるが、何でもないと答える。


 ゲームの中で学園側から貰えた報酬の話とかしても、しょうがないしな。


「私は久々に騎士団の先輩たちに会いたいかな?」


「……副団長の赤ちゃんに、久々に会いたい」


 ユフィがそう言うと、リーフィアが食いつく。


「天空騎士団に、赤ちゃんがいるの!?」


「ああ、まだ生後6か月とか言ってたかな?」


 あやふやな記憶を掘り起こしながら言うと、リーフィアがガッと手を掴んできた。


「私も見に行ってもいいかしら?」


「あ、ああ……」


 突然のリーフィアの気合の入り様にたじろいでいると、シャーロットが横でため息を吐いている。


「相変わらず、リーフィアは年下に目が無いわね」


「べ、別にそんな事無いと思うわ?」


「ううん、リーフィアは年下に甘い。現にナナちゃんに対しては凄く甘いと思う」


 そうユフィが言うと、ナナが照れたように笑っている。


「えへへ、リーフィアさんには良くしてもらってます」


「そうすると、病院と騎士団とダンジョンと暫定で皇国と……他は?」


 そう尋ねると、ナナが元気よく挙手する。


「はい! 海とか夏祭り行きたい!」


「あっ、それは私も行きたいなぁ」


 ミヨコ姉が賛同すると、ナナと2人でキャイキャイと話を始める。


――この面子で海……か


 そう思いながら皆の事を見回し、胸が熱くなるのを感じていると、ユフィがこっちを向いているのに気付いた。


「……センのエッチ」


 そう小声で言われたので、俺は大人しく謝っとくことにした。

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