【番外編】ナナの複雑な妹心
時系列的には2章と3章の間位です。
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明日小テストがあるから、寮の自室で同室のエルちゃんと勉強してたんだけど……急にぷっつりと集中力が途切れちゃった。
「もうイヤ! 勉強したくない!」
思わずそう叫びながら自分の机に倒れこむと、隣の机に座ったエルちゃんが一緒に大きく伸びをした。
「同感! 一旦休憩しよ、休憩。ナナは何か飲む?」
「んー、お茶でいいや」
そう答えると、エルちゃんがコップに入れたお茶を二つ持ってきてくれる。
「はいどうぞ」
「ありがとー」
感謝しながら差し出されたお茶を飲んでいると、お茶を飲んだエルちゃんが、そう言えばといいながら、キャスター付きの椅子ごと近づいて来た。
「今日隣のクラスのダニエル君に呼び出されてたよね? ……どうだったの?」
そう聞かれて、思わず首を傾げてしまう。
「どうって何が?」
意味が今一つ分からなくて聞き返すと、ニヤニヤしたエルちゃんが肘でお腹を突いて来る。
「そんなの決まってるじゃん、告白を受け入れたのかどうかって話!」
やや興奮気味に詰め寄ってくるエルちゃんに、思わずため息を吐く。
エルちゃんは一緒に居て楽しいから好きなんだけど、朝起きないのとやたら恋バナしたがるのだけは、ちょっと直して欲しい。
「別にいつも通りだよ、丁寧にお断りしました」
「えー、勿体ない……ダニエル君結構イケメンだから、ワンチャンス有るかなぁとか思ったんだけど」
そんな風に言うエルちゃんに、再度ため息を吐く。
「別に人を好きになるのに顔とか関係ないと思うよ?」
「えー……じゃあナナは、どんな男の人ならOKするの?」
「んー、分かんない」
正直に、そう答える。
そもそも今が凄く楽しいから、誰かとお付き合いしたいなんて考えたこともない。
ミヨコお姉ちゃんが居て、ユフィお姉ちゃんが居て、お兄ちゃんが居て、リーフィアさんやシャーロットさん、エルちゃんや友達の皆が居れば、それで十分幸せだから。
そんな私の考えを
「これからナナに幾つか質問するから、それに該当する人を探してみようよ! 質問内容は、お姉ちゃんにピックアップしてもらうから!」
「えー……」
やたらテンション高いエルちゃんに対し、私のテンションが下がっていると、エルちゃんのお姉さん――高等部2年でミヨコお姉ちゃんと同じクラスのマリーさんに、エルちゃんがメッセージを送り始めた。
「これで良し。あっ、お姉ちゃんから早速質問が来た。じゃあ第一問! 年上、年下、同い年、どれがいいですか?」
目をキラキラさせて問い掛けてくるエルちゃんに一つため息を吐くと、一応真剣に考える。
……まぁ、恋人って考えるなら頼りがいのある人がいいよね?
「年上、かな?」
「ふむふむ。では第二問! 正直に言って、自分より弱い人は嫌だ?」
「……それはまぁ、皆そうだと思うよ?」
やっぱり私も女の子だから、男の子を守るよりは守られたい。
「第三問! 厳しい人より優しい人が好きだ?」
「それもまぁ……そうだね」
10人に聞いたら、10人が多分そう答えるんじゃないかな。
「じゃあ第四問! 魔法は雷属性に限る?」
「え?」
いきなりの突拍子の無い質問に首を傾げていると、エルちゃんはお構いなく質問を続ける。
「最後の質問! 正直、センさんが好き過ぎて他の男は眼中にない!?」
そう言いながらエルちゃんが、お兄ちゃんが変なポーズをとったカードを私にかざしてくる……えー。
「それはエルちゃんの趣味でしょ?」
「だって、ナナより強い男子なんて、そもそもこの学校で数える位しかいないんだもん」
ちょっとむくれながらそう言われて考えてみると……まぁ、確かにそうなのかもしれない。騎士団でも私より強い人は、一杯はいなかったからなぁ……。
「でも真面目に聞くけどさ、ナナとお兄さんの血は繋がってないんでしょ? だったら、ちょっと好きになったりしないの?」
そう聞かれて、ナイナイ――そう即答しようと思ったけれど、言葉に詰まってしまう。
そもそも私はお兄ちゃんのことを……まぁ、好きだ。大好きと言っても良いと思う。
普段は抜けてることが多いけど、全力で何かに取り組んでるお兄ちゃんは素直に尊敬できるし、初めて会った時から私たちの為に全力で頑張るお兄ちゃんには何時も感謝と……少しのじれったさを感じている。
お兄ちゃんは凄い人だけど、いつだって自分1人で解決しようとして、そのせいで大怪我をする事が多い。
それは別に私たちの事を蔑ろにしてるんじゃなくて、全力で私たちを守ろうとしてくれてるのは分かるんだけど……やっぱりちょっと寂しい。
――私がまだ、お兄ちゃんに守られる存在でしか無いと言われている様で……
多分これは、私の凄いわがままだ。お兄ちゃんはきっとそんな事、考えてない。
しかもお兄ちゃんが必死で守ってくれたから、今の私があるのは分かってるんだけど……でも一方でお兄ちゃんには、もっと頼って欲しいと思ってる。
いつも「良くやったね」と褒めてくれるのは凄く嬉しいけど、私が本当にかけて欲しいのは対等な目線での「助かった」なんだと思う。
出会った時からずっと守ってくれてるお兄ちゃんだからこそ、その隣に立ちたい……そう思うのは、やっぱり我がまま過ぎるかな?
「お兄ちゃんの事は好きだけど、エルちゃんの言ってるようなのとは違うかな」
「なーんだ、つまんないの……じゃあさ、仮に私がお兄さんにアタックしても……」
「それはダメ、多分ユフィお姉ちゃんが悲しむから」
そう答えると、エルちゃんは肩をすくめた。まぁエルちゃんの本当に好きな人は別にいるから、心配もしてないけど。
ただそれは置いておくにしてもお兄ちゃんを好きな人は、お姉ちゃんたちを初めとして一杯いる。
だから私は……。
「あっ、もうこんな時間だよ! 勉強再開しなくちゃ!」
そう言って時計を指さすと、時間は夜の9時を回っていた。
「えー……。もとはと言えばナナが勉強したくないって言い始めたのに」
そうブツブツ言いながらも、エルちゃんが自分の机の方へ戻っていく。
それを見ながら、何故か先程から痛み始めた自分の胸元をギュッと掴んで押しとどめると、明日の試験に向けての勉強を再開した。
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