第17話 放課後すくーるでいず
「……って言う風に語呂合わせで暗記すると、覚えやすいよ」
「なるほど、凄い分かりやすいです。ありがとうございます。ミヨコ先輩!」
何やら視界の右側ではシャーロットが感激しながらミヨコ姉の手を取り、それに対してミヨコ姉が頬を赤くして照れていた。
一方反対側では……。
「この教科書に書いてある部分を当てはめれば……」
「あっ、解けた! やりましたよ、リーフィアさん!」
「ええ、よくやったわね」
ナナとリーフィアが和気藹々と勉強をして、ハイタッチをかわしている。
……一方、俺がどうなっているかと言うと。
「解けた?」
「すいません、まだです……」
「はぁ……センってば、本当に授業全然聞いて無かったのね」
「……面目有りません」
ユフィから、割と厳しめの指導を受けていた。
最初こそ皆でミヨコ姉に教わっていたのだが……俺のレベルが一人だけ低い事が判明すると、現在のマンツーマンレッスンに切り替わったが、その内容が結構なスパルタだった。
現在の時刻は20時45分。
19時頃に一回軽食を食べた以外は、ぶっ続けの勉強であり、いい加減やり過ぎで頭がゆだって来そうだ。
「そもそもセンは頭が悪い訳でも無いんだし、もう少し普段からちゃんとやってみたら?」
「普段から頑張れないからこうなってるんだよ!」
隣のシャーロットに呆れ気味に言われ、思わずいい訳にもならない事を叫び返すと、教室利用終了10分前のチャイムが鳴り響いた。
「取り敢えず皆、今日はここまでにしようね」
そう言いながらミヨコ姉が手を叩くと、それぞれに伸びをすると軽く頭を下げた。
「お疲れ様でしたー」
ねぎらいの言葉を述べた後、直ぐに片づけの準備を始める。
「ナナは今日の勉強会どうだった?」
俺と同じで余り勉強が好きではないナナだが、リーフィアに教わっている間は割と楽しそうに見えたので聞いてみた。
……すると。
「リーフィアさんの教え方は上手だったし、こう言った機会が無かったら赤点だっただろうから良かったなと思うけど……週末は丸1日やるって言われて、心折れそうになったかな」
後半になるに連れ声のトーンが落ちていき、目のハイライトが消えかかっているナナの頭を、思わず頭を撫でてやる。
「ナナちゃんは筋が良いから、もう少し頑張れば絶対点数は付いてくると思うわ」
「リーフィアさん……私、頑張ります!」
リーフィアに励まされたナナの眼に途端に生気が戻るのを見て……少し褒められただけでやる気になるナナを見て、思わずちょっとほほえましくなる。
「弟君お疲れ様、改めて今日の勉強会はどうだった?」
後片づけを終え、図書室から皆で退出すると、寮に向かって歩きながらミヨコ姉にそう尋ねられた。
「んー、勉強はまぁあんま好きには成れないけど、皆と一緒に何かするのは……悪くないかな」
そう応えると、皆笑い返してくれた。
「それなら、明日からも遠慮なくビシバシいくから、ちゃんと部屋に戻っても復習しといて」
「そりゃないぜ、ユフィ」
ユフィにそう言われて思わず肩を落とすと、更に笑われた。
そんなゆるい空気の中皆と別れ、約2週間ぶりの男子寮へと戻って来る。
「なんか、今日はやたらと静かだな」
普段であれば廊下を歩いていれば誰かと遭遇し、軽い挨拶やら世間話をするのだが、今日に限っては誰ともすれ違わず、どこかの部屋から取っ組み合っている音も聞こえてこない。
「まっ、いいか」
期末試験前だから大人しく勉強してるんだろう……そんな事を考えながら自室の扉のノブに手をかけて扉を開いた……。
――パーンッ
「お帰りなさいませ、ご主人様っ!」
――弾けるクラッカーの音と共に、メイド服姿の野郎どもが野太い声に出迎えられた
「……」
――バタン
「ふぅ、どうやら俺は疲れているらしい。今日は保健室ででも寝るか」
そんな事を呟きながらその場を立ち去ろうとすると、音を立てて扉が開き、ガッと腕や足を捕まれた。
「うおっ、ヤメロ変態共っ! ってか、この狭い部屋に何人集まってんだ!」
無理やり部屋に引きずり込まれると、2人用の部屋に足の踏み場もない程の人数――15人ほどが所せましと居座っていた。
……ってか、下のベッドを占領されてるせいで、ジークの奴上の俺のベッドの方で寝てねぇか?
「いやぁ、帰って来てくれて嬉しいよセン君!」
そう言ってブーメランパンツにカチューシャ姿の完全変質者――もとい、レイズ・マッソー先輩にバシバシと肩を叩かれる。
「いたい、いたい……ってか、ナンスかこの惨状は」
そう言って指さした先には、空になったペットボトルと、開けられた菓子袋が山を築いていた……てか、こいつ等を良く部屋に居れたなジーク。
そう思っていると……。
「俺が入れたんじゃねぇ、こいつ等が合鍵持って勝手に入ってきやがったんだ」
「それはそれでツッコミどころ有るが、テメェはなんで俺のベッドで寝てんだよ」
「安心しろ、マットレスは入れ替えてある」
そんなわけの分からん主張をするジークに、なおも言いつのろうとすると、メイド服姿のティガースに肩をガシッと掴まれた……えっ、キモイ。
「センはん、よう戻って来れたなぁ。ワイは……ワイは、雷魔法入門でこの1週間シャーロットちゃんと2人で組まされて、ホンマ辛かったんや」
「それは……たいへんだったな」
涙ぐみながら話すティガースの髪の毛は、まだアフロの名残が残っている。
「えっと……改めてお帰り、セン君」
そう言いながら現れたのは、やけに短いスカートのメイド服を着させられ、頬を染めたショータだった。
「お前、そう言う趣味だったのか……」
「いや、違うよ! これは先輩方が無理やり着せたんだよ! ねぇ、皆?」
振り返りながらそう答えたショータだったが、皆は首を傾げて口々に、「アレはショータが着たいって言ったんだよな?」なんて事を言っている。
それを聞いた俺は、ショータの肩を軽く叩いてやり、親指を上に向けた。
「お前が女装趣味でも、俺達は友達だぜっ」
ニッと最高の笑顔を向けてやると、「違うって言ってるのに!」と叫びながらその場で崩れ落ちた。
「HEY、セン! お前の復学祝いに、この俺DJゴルドーが最高に熱いナンバーを用意したから、今日は朝まで語り明かそうぜ」
そうゴルドーが言うと共に、ご機嫌な音楽が流れだし、ただでさえ狭い室内で男どもが暴れ始めるが……結局その日は寮長達や教師陣も大目に見ていたのか、朝まで騒ぎまくる事となった。
……結果、その日勉強した内容の復習をして来なかった俺は、翌日ユフィにしこたま怒られたが、それはまた別の話。
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