第16話 学院長とご対面
「それじゃ俺は、学院長の所へ行って来るかな」
そう言って立ち上がると、皆は驚いた顔をした。
「あれ? このまま授業受けるんじゃないの?」
シャーロットが首を傾げながら聞いて来るが、否定する。
「期末試験の話した後でアレだが、一応今回の件で学院長に話しとかなきゃいけない事も有るしな」
そう応えると、ユフィが頷き返してきた。
「そっか、じゃあクラスの皆には明日登校する予定って伝えとく」
「よろしく頼んだ」
「じゃー話もまとまった所で、また後でねお兄ちゃん!」
そう言ってナナが手を振ったのを皮切りに、各教室へと向かう皆と別れると、俺は学院長室に向かって歩き始めた。学院長室の場所は、普段授業を受けている校舎の最上階の尖塔に存在する。
これまでもリーフィアの入学時の警備に関する話し合いや、クラス対抗試合の件に関する学園側からの謝罪などで向かう事も有ったが、1対1と言う状況は考えてみれば初めてである為緊張――はしないな。
「アノ学院長だもんなぁ……」
そんな言葉を漏らしながら石の階段を登りきると、一際大きな木製の扉が有り、それをノックした。
「どうぞー」
どこか弾む様な女性の声が、中から反応を返してきた。
「失礼します」
一応軽い会釈と共に入室すると、革製のやけに高価そうな椅子に座った女性がコチラを見ていた。
年の頃はどう見ても20台前半、紫色に輝く髪は窓から差し込む光に照らされて艶やかであり、スリットの入ったスーツの様な服を身にまとっている事も相まって、どこかの頭の緩いOLか受付嬢に見えた。
「やっほ~、セン君。ジェイル君から聞いたよ~、今回は大変だったらし~ね」
団長の事をジェイル君と呼び、机に手を付いて猫の様に伸びをしているこの人こそ、この学院の学院長であり齢数百歳を数えるライラ・ミレーヌその人である。
「もう既に話知ってるとはさすがですね……正直皆が居なければ死んでました」
そう答えると、学院長は眼を大きく見開いた。
「うは~、セン君ほどの実力があってそれじゃあ、他の子達じゃ間違いなくお陀仏だね」
タハハ、と笑いながら言う学院長の顔にはまるで邪気が無く、まるでその様子は近所の気さくなお姉さんの様だ……ただ、俺はゲームで見たこの人の本質を知っている。
魔法によってほぼ不老不死を実現している彼女は、人の見た目をしているが、中身は殆ど人間ではない。加えて彼女の一声があれば、王家の判断すらも翻しかねない程の権力を持った謎多き人物だ。
「まぁ自分の話は良いんです……所で学院長、学院長はミヨコ姉が襲撃された件で俺に借りが有りましたよね?」
そう尋ねると、学院長はポリポリと頬を掻いた。
「まぁ、そんな事も有ったかな~……なぁに? お姉さんとデートでもしたいの?」
そう言って、ウインクを飛ばしてきた学院長を無視する。
「――天ノ御子開発機関、奴らについて教えてください」
俺が真剣な口調でそう言うと、学院長が一瞬目を細めた。
「天ノ御子開発機関ねぇ……うん、私の所にも話は入って来てるし、何よりもセン君達に関係ある事だから、貸し借り抜きに何れは話そうと思ってたけど、正直私も持ってる情報は多くないのよね~」
そう言いながら学院長は、机の引き出しから辞書程の厚みがあるファイルを取り出して差し出してきた。
「これは?」
「私が独自で調べた、天ノ御子開発機関およびその関連施設の資料――って言っても、割とセン君達が知ってること多いと思うけどね~」
そう言われながらファイルの中を確認すると、俺達が5年前に居た研究施設を始めとした各施設の概要と、そこで捕らえた人物たちの証言などがまとめられていた。
しかもファイルの最後の方には、先日発生したゲット伯爵家での一件についても書かれていたが……やはり、ガイゼルの生死については不明と記載されていた。
「その資料については人に見せないなら、持って帰っていいよ。ちゃんと読みたいだろうしね」
そう気軽に学院長は言って来るが、ファイルの表紙には「持ち出し厳禁」と記載されている。
……まぁ、見た限り他人に見られたらマズイ機密情報が記載されている訳でもない為、言葉通り借りていくことにする。
「そうそう、勉強の方はちゃんとやってるのかな~? そろそろ期末試験近いけど」
そう言われて、思わず肩がビクリとはねると、学院長がニヤリと笑った。
「あらあら~、ちゃんと勉強しないとだめだぞ~。もしどうしてもって言うなら、私がおしえてあげても……」
「結構です。失礼します」
そう言って足早に学院長室の扉に手をかけ、サッサと出ていった。アノ人がああいう顔した時は大体面倒なので、さっさと立ち去るに限る。
渡されたファイル片手に螺旋階段をゆっくりと下っていると、既に6時限目に入っており、復学は明日からになりそうだ。
一旦校舎から外に出て寮へ向かっていると、午後の授業が選択科目なのもあって見知った先輩や同級生達を見かける事もあり、軽い挨拶なども交わしていく。
「おっ、やっと戻って来たか。一人だけ休暇伸ばしてずりーな」
「久しぶりじゃん、死んだかと思ってたぜ」
まぁ声かけて来るのなんて100%男なんで、別に嬉しくも無いが。
そんなこんなあって、一旦寮の自室へ戻りファイルを机の引き出しへ仕舞うと、各教科の教科書が入ったカバンを手に図書室へと向かう。
なおこの学院には一般生徒がよく利用する図書室と、滅多に利用されない建物丸ごと本が集められている大図書館が存在する。
大図書館の方は余程の本好きか、教員が調べものをするとき位にしか使用しない。なので、ユフィはたまに使用しているらしいが、勉強会をするだけならまず使うことの無い場所だ。
「そもそも図書室だって、一般生徒にとっては十分過ぎる量あるしな」
図書室へと入ってみれば、壁一面に数多くの本が並べられているのが見てとれた。
図書室内には授業中な事もあって学生の姿は無く、司書の人に軽く会釈すると6人席の机を見つけ、そこに陣取った。
「しっかし、何の勉強から始めるかね」
そう言って首を捻りながら教科書を出していく。
基礎数学、国語、王国史、世界史、魔術概論基礎、魔術戦略基礎、雷魔術入門。
今回ペーパー試験が行われるのはこの7科目であり、ぶっちゃけ魔術関係以外は恥ずかしながらどれも自信は無い。
そもそもこの世界、元いた世界とは違い科学の代わりに魔術で発展してきたせいでかなり特殊な歴史を歩んできている。
大型の魔石を電波塔として考え、一定区間内でのみ使える腕時計型の通信端末やカード認証システムが有るかと思えば、世界中の人が一定量の魔力を持って居るせいで車等が発達せず、飛行船と機関車、馬車、船に限られている。
世界各地で王権政がしかれており、多種族との交流なども歴史をややこしくしている一因だ。
「しかも元日本人には馴染みの無い名前が多くて、覚えにくい」
教科書に出て来る人物は基本横文字だし、早口言葉みたいな名前の人物も居る為、覚えるのにかなり苦労させられる。
そんな風に思いながら王国史の教科書とにらみ合っていると、6限目終了の鐘が鳴り響き、途端に廊下が賑わい出すのを感じた。
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