第15話 学院へ戻ってきたけど、また騎士団に帰っちゃダメですか?
約1週間に及ぶ騎士団での休養を終え、俺は再び飛行船に乗ると学園都市へと戻って来た。事前に皆へは帰ってくる時間の目安を伝えていたが、今日は平日であり授業をやっている時間であるため出迎えも無いまま一人街並みを歩いていく。
「騎士団で訓練してんのも悪くないけど、やっぱ学園都市の騒がしさも悪くないよな……」
丁度昼時なのも相まって活気に溢れている街並みを歩いていくと、学園へと続く坂道に差し掛かり、更にしばらく歩いて行けば学園に設けられた柵が見えて来る。
「おっ? あんたは確か、皇女様の護衛の……」
「ご無沙汰してます」
正門に近づいて行くと、入学式にも会った守衛の人に出会い、学生証を提示する。
「高等部1年のセン・アステリオスね……はい、確認取れたから通っていいよ」
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げて通り過ぎようとすると、守衛のおじさんがボソリとつぶやいた。
「しっかし、アノ子も健気なもんだねぇ……」
「……?」
呟かれた内容についてしばらく考えていると、見知った人影が有るのに気付いた。
「アレ……なんでユフィがここに居るんだ? まだ授業中じゃなかったか?」
そう思って時計を見ようとしたところで、丁度昼休み開始のチャイムが鳴り響いた。
「……早めに授業が終わって暇だったから、待っててあげようかなって思って」
「そうか、ありがとう」
わざわざ待っていたらしいユフィに胸が熱くなるのを感じながら、改めて挨拶する。
「ただいま、ユフィ」
そう言って笑いかけると、ユフィは顔を反らした。
「……お帰り、セン」
手で髪を弄びながらも、か細い声を出したユフィの頬は赤くなっていて、思わずそんなユフィの態度に口の端がニヤけてしまう。
「ふむ? ユフィは、そんなに俺が恋しかったのか?」
「なっ、ちがっ」
「いやいや大丈夫、隠さなくても分かってるから」
そんな事を言いながら食堂に向けて歩みを進めると、前からリーフィアとシャーロットが歩いて来るのが見えた。
「おー、2人とも久しぶり」
「久しぶり、セン。体調は……大丈夫そうね」
「あんだけの怪我をしたってのに、アンタは随分軽いわね」
「まっ、良いか悪いかは置いといて、怪我は慣れてるからな」
そう言って笑い返すと、リーフィアとシャーロットが俺の後ろから歩いて来たユフィを見てニヤついている。
「ん? どうかしたのか、2人とも」
そう問いかけると、ユフィが慌てた様に2人の口を塞ごうとする。
「いやー、私のクラスに授業中ずっとソワソワしてた挙句、誰よりも早く教室を出て行った人が居たのよね……」
シャーロットがそう言うと、リーフィアが驚いた……フリをする。
「この由緒正しい学園に、そんなことする生徒が居るのかしら!?」
そのわざとらしい三文芝居の視線の先――ユフィを見てみれば、真っ赤に成って震えている。
「あー……その、あれだ。ユフィ、ありがとうな」
そう言って感謝すると、髪で顔を隠しながらユフィが蚊の鳴くような声でつぶやいた。
「……センのバカ」
◇
一旦寮に荷物だけ置いて行くと、その足で直ぐに食堂へ行き、皆と合流した。
「あー、やっぱ久々に食べるこの学園のうどんは最高だな」
そんな事を言いながらうどんを啜っていると、右隣からため息が漏れ聞こえた。
「お兄ちゃん、アレだけの事があった後なんだから、もっとこう……無いの?」
「いや、さっき再会の挨拶は済ませただろ?」
そう言いながら、ズルズルとうどんを啜ると、再度ため息を吐かれる。
「まぁまぁナナちゃん、弟君も皆を和ませようとしてるんだから、多めに見て上げて」
「ミヨコお姉ちゃんは、お兄ちゃんに甘すぎだよ! 今日こそはハッキリ言わなきゃ!」
そんな風にナナがプリプリ怒り、ミヨコ姉が宥め、ユフィ達がソレを見て笑っている……いつも通りの皆の様子を見て、改めて俺は自分のこれからの行動について思いを馳せる。
「そういえば、皆は期末のペーパー試験に向けた準備は順調?」
「……ん?」
シャーロットが妙なことを口にして、思わず間抜けな声が漏れた。
そしてその間にも、ユフィとリーフィアが妙な会話を始める。
「リーフィアは、王国で学ぶ歴史と皇国で学ぶ歴史が食い違ってて大変って言ってたけど、大丈夫そう?」
「まぁ、苦労してるけど試験までには何とかなりそうね」
「んん?」
当然の様にみんなが話している内容に……嫌な予感がして来る。
「弟君、どうかしたの?」
ミヨコ姉が心配そうに俺に問いかけて来て、意を決して真相を究明する事にした。
「……期末試験って、いつから?」
そう尋ねると、皆一様に唖然とした顔をしていたが、シャーロットが一番初めに口を開いた。
「期末試験は、来週の水曜日からよ」
……。
…………。
…………よしっ。
「俺、もう一回騎士団に戻るわ」
そう言って立ち上がろうとすると、ガシッと隣に座ったユフィに肩を抑えられる。
「ユフィ、後生だ。ここは行かせてくれっ!」
「ダ・メ」
「いや、絶対終わっただろ! 後5日しかないんだぞ!」
魂の限りそう叫ぶと、シャーロットが頭を抱えながらため息をつく。
「はぁ……これが英雄って言うんだから、世の中間違ってるわね」
「うるせぇやい……逃げる事が敵わないなら、ミヨコ姉! 短期間で点数が上がる勉強法を教えてください!」
そう言って机に頭をぶつけんばかりの勢いで、ミヨコ姉に頭を下げる。
「えっと、弟君取り合えず頭あげて……効率よく点数上げる方法とかはちょっとわからないけど、去年の試験で出た問題とか要点位なら教えられるから、それで対策していこっか」
ちょっと困ったように笑うミヨコ姉が、今の俺からは後光がさして見えた。
「是非お願い……「お兄ちゃんばっかりずるい! ミヨコお姉ちゃん、私にもおしえて!」……ちょっ、ナナ!」
俺がミヨコ姉に頼み込もうとすると、ナナが割って入り……それに合わせてシャーロットやユフィ、リーフィアも声を上げる。
「あっ、それなら私も教わりたいかも……。ユフィやリーフィアも一緒にどう?」
「うん……私も、魔術概論がちょっと自信無いし、ミヨコさんに改めて聞きたいかな」
「二人が一緒なら、私もぜひ参加させていただくわ」
そんな風に皆がワイワイ話してるのを見て、思わずため息が漏れる。
ただまぁ、この学院は中間試験は実技のみだし、学年の違うミヨコ姉やナナと一緒に全員で集まって勉強する機会はこれまでに無かったのだから、コレはコレで良いかと考え直す。
「そんじゃ、放課後に皆で図書室にでも集まって勉強会するとしますか」
「やったー!」
そう言ってナナが喜びの声を上げると、ミヨコ姉やユフィとハイタッチをかわしていた。
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