第6話 救出作戦始動
その後ヘイズ侯爵から語られた内容は、ゲット伯爵家へ改めて正式に使者を送り出すと言う内容だった。
元々シャーロットを呼び戻したのは、ゲット伯爵家への使者として向かわせる目的だったようだが、パーヌが来たことで、鉱山の里との共同の使者として向かえるようになったのは政治的に非常に意義が有ると言う。
「ですが、それで仮にシャーロット達が説得したとして、ゲット伯爵家は素直に鉱山の里の人たちを解放するでしょうか?」
「いいや、彼らは間違いなく白を切るだろうね」
俺が尋ねると、ヘイズ侯爵は首を横に振った。
「それじゃあ意味ないじゃねえか!」
パーヌが、怒りの声と共に食卓を叩いた。
「まぁ待ちたまえ、だから今回の作戦は2段構えにする」
「2段構え……ですか?」
ミヨコ姉が不思議そうに首を傾げると、ヘイズ侯爵は頷いた。
「まず第一陣はシャーロットとパーヌさんによる、正式な使者としての会談……そしてもう一つは、セン君を筆頭とした救出作戦だ」
その言葉を聞いて、皆言葉を失う。
だが、これまで強硬姿勢で来ている彼らが、素直に捕虜を解放する可能性は限りなく0である以上、方法はそれしかないのだろう。
「救出班は俺、ミヨコ姉さん、ナナ、ユフィの3人で問題ないですね?」
「ああ、元よりそのつもりで天空騎士団には依頼してたんだよ」
そう侯爵が言った所で、パーヌが声を荒らげた。
「ちょっと待てよ! アタイも当然参加するっての! 親父だって捕まってるんだ、きっと何かでは役に立つはずだ!」
強い意志でパーヌはそう言うが、俺と侯爵は首を縦には振らない。
「すまないが、それには賛同できかねる」
「なんでだよ!」
「それはパーヌ……お前自身がもし捕まった場合、政治的に取り返しのつかないことに成りかねないからだ」
幾ら連中が非道な行いをしているとは言え、仮にも伯爵だ。そんな相手に表向き使者として向かいながら、裏で城へと潜入し仮に捕まったら、鉱山の里の地位は危ういものと成るだろう。
逆に言えば、その点俺達は只の騎士団員で、学生だ。捕まれば当然多くの人に迷惑をかけるし、何をされるか分かったもんじゃないが、それでも被害は最小限だ。
その事を理解したのか、パーヌが唇を噛みしめながら押し黙る。
「そうすると、私は一人で留守番って事に成るのかしら?」
その様子を見ながら、やや不服そうにリーフィアがそう言うが、これも今回ばかりは止むを得ないだろう。リーフィアに何かあった場合は、それこそ国際問題だ。
「悪いがそうなるな」
俺が渋い顔をしながら言うと、リーフィアもやや苦い顔をしながら頷いた。
「まあそうよね、流石に自分の立場は弁えてるつもり……だけど、1人放っておかれるのだから、何か見返りがあっても良いんじゃないかしら?」
悪戯っぽい顔で俺の顔を見て来るリーフィアに、両手を上げて降参の意を示した。
「分かったよ、俺の出来る範囲なら何でも言ってくれ」
「何でもね……ええ、分かったわ。それでお願い」
ニコッと笑ったリーフィアに不穏な物を感じながら、俺達は出発する時間や作戦について細かく詰めていった。
◇
何処からか声が聞こえる気がする。それはどこか懐かしい感覚。
「……くん、弟君」
優しく体を揺すられる様な感触に、瞼を開けてみればミヨコ姉が居た。
「……夢か」
そう言いながら俺は、夢の中のミヨコ姉の手を引っ張った。
「わっ、わわっ……」
ボスンと軽い音と共に手ごろな抱き枕がふってきて、その匂いを嗅ぐと落ち着く匂いがした。
「んー、良い匂い。お休み……」
「ちょ、ちょっと弟君!? こ、こういうのは流石にお姉ちゃん恥ずかしいかなって」
「俺は恥ずかしくないから大丈……「何が、大丈夫なのかしら?」」
それまで夢見心地だった俺の眼が一瞬で覚める程の、絶対零度を思わせる声が扉の方から聞こえて来た。
油の切れた機械の様にぎこちなく声の方へ振り返ると、両目を開いたユフィが仁王立ちしていた。……ヒエッ。
「ユフィ、待ってくれこれには誤解が……」
「あら? 一体どんな言い訳するつもりなの? 私に対して」
それはもう冷め切った目で見下ろされて、俺はベッドの上で土下座した。
「すいません、本当すいませんでしたユフィさん」
「……たしが、起こそうと思ったのに」
ボソッと、何かをユフィが呟いた気がする。
「なんか言ったか?」
「何も言ってない!」
何故かそっぽ向いて頬を染めて居るユフィに首を傾げていると、勢いよく扉が開いた。
「お兄ちゃん、朝だよ……って、何でお姉ちゃん達いるの?」
扉近くに立って居るユフィと、俺と一緒になってベッドに正座しているミヨコ姉を見てナナが不思議そうに首を傾げている。
「そ、そう言うナナちゃんはどうしたの?」
真っ赤に成った顔を手で扇ぐミヨコ姉が、ナナに問いかけると、ナナは一層不思議そうな顔をした。
「だって騎士団に居た時はお兄ちゃんを起こしてたの私だったから、てっきり私の役目かな?って思ったんだけど」
「そ、そっか。そうだよね。うん、私は先に食堂行ってるね?」
「ミヨコさん、私も一緒します」
尚も赤面していたミヨコ姉がベッドから降りてそう言うと、ユフィも一緒に出て行った。
「……えっと、お兄ちゃんなにかした?」
「何かした……かも知れん」
「もうっ、お兄ちゃんのバカっ」
そう言うと、ナナが頬を膨らませて出て行った。
嵐が過ぎていき、一人になった部屋でぼうっとしてると、ミヨコ姉の匂いがした気がして邪念を振り払うと、起き上がって準備を整えていく。
ナイフを腰や洋服に仕込んで、部屋を出て行こうと考えた所で、忘れ物をしていた事に気づく。
「まぁ、何かの役には立つかもしれないしな」
そう言って念のため持ってきたジェイから貰った刀を、腰に吊るした。
◇
早めの朝食を終えた俺達は、ヘイズ侯爵夫妻とリーフィアに見送られながら、今度はヘイズ家の家紋が入った馬車へと乗り込んでいた。
「それじゃあ、娘の事を頼むよ」
「ええ、任せてください」
手を差し出されながらヘイズ侯爵にそう言われ、強く握り返しながら応えた。
「セン、約束忘れないようにね?」
「あくまで、俺の出来る範囲だからな?」
「分かってるわよ、皆も気をつけてね」
その後もそれぞれリーフィアやヘイズ侯爵夫妻に挨拶を終えた後、俺達は見送られながらゲット伯爵領に向かって出発した。
「そういえばお兄ちゃん、珍しく刀なんて下げてるんだね?」
「あっ、それは私も思った。弟君、いつから刀を使えるようになったの?」
馬車が動き出してしばらくした所で、ナナとミヨコ姉にそんなことを聞かれる。
「あー、まぁ学校入ってから結構練習してな」
そんな風に答えを返すと、ユフィとシャーロットが横から口を出してくる。
「リーフィアと最初に会った時、ナイフだけじゃ力押しで負けそうになったからって、リーフィアと一緒に刀剣の授業受け始めたのよね?」
「えっ、そうなのユフィ? 私には『剣を使える様になるのは騎士の嗜みだ、お前もやってみたらどうだ?』なんて偉そうな事言ってたのに、そんな理由だったの?」
「シャルは、いつもセンの言う事を真に受けすぎ。半分くらいは冗談なんだから、聞き流していいよ」
そんな俺の学校での暴露話をされつつ苦笑いしてると、一人だけ真剣な顔でナナの顔を注意深く見ているパーヌに声をかける。
「どうしたパーヌ、配下の連中が居ないと調子でないか?」
茶化しながら聞くと、俺の耳元で囁くような声色でパーヌが返してくる。
「アンタは、アイツ――仮面野郎に会ったんだよな? ならあのナナって奴が……」
「その話か……」
考えてみれば、パーヌが仮面の女に会ってる以上、その事に気づく可能性は考えてしかるべきだった。
このまま下手に隠して、作戦中疑心暗鬼に成られても困る。
そう思った俺は、ナナとミヨコ姉に過去の事をパーヌとシャーロットに話していいか確認すると、2人は頷いてくれた。
「それじゃあ、今から5年前。俺達がある研究施設に入れられてた所から話すよ」
そんな風にして、俺達は自分たちが御使いの園出身で有る事、そしてつい最近そいつらに襲撃を受けた事を話した。
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