第22話 清く正しいクラス対抗試合
「ってえ……」
「センは無茶しすぎ」
ベッドに横たわりながら、ユフィの光魔法で治療を受けるが、骨にまで達していた右腕の傷は暫く治りそうに無さそうだ。
「それで、襲ってきたアイツらは一体何なんだ?」
傍らに立ったジェイが、腕を組みながら尋ねて来る。
「……今、ミヨコ姉とナナは?」
「ミヨコ嬢ちゃんは隣の病室だ、周辺は部下が固めてるし、ナナちゃんもそっちに居る。医師の診断曰く外傷も無く、背後から気絶させられてただけらしい」
「そうか、良かった」
思わず安堵のため息を吐く。
「襲ってきたアイツらは御使いの園……俺やミヨコ姉、ナナが収容されていた施設の研究者だと思う」
そう告げると、ジェイが目を見開いた。
「連中は団長達が軒並み処理したはずだぞ?用心棒だったグンザークにしたって、未だ収監されている筈だ」
「俺も詳しくは分からない……けど、ミヨコ姉を345号と言うからには間違いなく関係者だろうな」
ゲームでもあんなスーツ姿の男は出てこなかったし、仮面女も出てこなかったのだから正確なところは分からないが、奴自身も自分が関係者だと認めていた。
「そう、か。ミヨコ嬢ちゃん達には伝えるのか?」
「伝えたくは無いけど……伝えるよ。今後奴らがまた攻めて来る可能性は高いしね」
ユフィに右腕を布で吊ってもらいながら、片腕で伸びをする。
「まぁ今回の件で学園側も一層警備を厳しくしてくれるだろうし、もうこの期間中には何も起こらない事を祈るばかりだよ」
「間違いねえな……んじゃ、俺はちょっくら煙草行ってくらぁ」
そう言ってジェイが、ドアへ向かって歩いていく。
「……ジェイ、ありがとう」
ジェイの背中にそう声をかけると、片腕を上げて軽く振りながら去って行った。
……ジェイが去った後、2人きりにになった部屋が気恥ずかしくなり、思わず頬を掻く。
「ユフィも……その、ありがとな」
「ううん、今回は私何も役に立てなかったから」
「それでもありがとう、ユフィ」
俺が笑いかけると、ユフィも笑ってくれた。
……その後俺は学園の医療チームから改めて精密診断を受け、帰宅して良いとのお許しが出たのは、1日目の競技がすっかり終わった18:00過ぎてからの事だった。
◇
翌日、体中を包帯に巻かれた状態で、クラスメイトの前に姿を現した俺は皆から驚かれた。まぁ前日の午前中まではピンピンしてた奴が、突然そんな状態になって驚くのは当然だろう。
幸い昨日の時点で、皆にはユフィやリーフィアから、競技に出場出来なくなったとの知らせを入れていたため、俺が出場予定だった競技の代打は直ぐに用意できたらしい。
「しっかし、何もせずに人が競技しているのを眺めてるだけってのも、退屈だな」
ドーム状になっている会場の観客席で、ボーっとしながら思わずそう漏らすと、リーフィアが笑った。
「確かに、こうやって見てるだけだと退屈よね……折角魔法戦出来ると思って張り切ってたのに、私も障害物競争になったし」
そんなリーフィアからの苦情を聞き流していると、後ろから突如声をかけられた。
「今見てるだけでは退屈、と言ったな?君たち」
声のした方を2人で振り返ると、ソコにはマッチョな先輩が立って居た。
「なんですかマッチョ――レイズ先輩」
「うむ、君たちが暇そうにしていると言う噂を聞きつけて、我々としては捨て置けないとなってな」
「我々?」
「付いて来れば分かる、なーに大したことじゃないさ」
そう言ってレイズ先輩が白い歯を光らせるのを見て、リーフィアの方を見てみると、にこやかに笑いながら頷き返してくる。……あれは、今の退屈な状況以外なら何でもいいと言いたげな顔だな。
このままいても退屈なのも事実であるため、前の席に座っていたティガースに声をかける。
「ちょっと俺達席外すから、もしそれまでにユフィの競技が終わったら念のためレイズ先輩に連れて行かれたと伝えといてくれ」
「あいよ、気いつけてなー」
ティガース達クラスメイトに見送られながら、控えていた近衛の騎士含め移動した先は――クラス対抗試合が行われている競技場の、観客席の上にある放送施設だった。
「ここが、レイズ先輩が案内したかった所なんですか?」
そう言いながら室内を見回すと、各競技会場から送られてくる映像がディスプレイ状の端末に映し出されていた。
「そうだ。ここが、我らが放送委員の本拠地さ」
その言葉と共に、何人かの室内の生徒が会釈してきたので返す。
「それで、私たちは一体ここで何をすればいいのかしら?」
「それは勿論君たちには、競技の実況をやって貰いたいのさ。安心したまえ、メインのMCはソコに居る彼――DJゴルドー君がやってくれる」
そう言ってレイズ先輩が指差した先に居たのは、緑の髪を剣山の様に立てて、ヘッドホンを首にかけたサングラスの男だった。
「ども、DJゴンドーです」
「あっ、どうもセンです」
「よろしく、リーフィアよ」
思いの外普通に挨拶してきたのに面食らいつつ、各機材の使い方と、この後の競技の流れを伝えられた上で、マイクの前に座らされた。……念のため、ユフィとミヨコ姉には俺達の居場所を伝えるメッセージを送っておく。
「取り敢えず自分が話振りますんで、お二人は適当に相槌打ってもらえればずOKっす。それじゃ、早速行きますよ?」
そんな適当な打ち合わせの下、俺達の初めての校内放送が始まった。
『ようオマエラ、大人しく待ってたか?今日も、DJゴンドーがオマエラの耳をハックしに来てやったぜ』
そんな出だしと共に、昨日のクラス対抗試合の結果などを発表していく。
『現在どのクラスも白熱した展開を繰り広げてるみたいだが、そんなイカシてるオマエラに、スペシャルゲストを紹介するぜっ。まず一人目は、現役の天空騎士団団員にして、次代の英雄との呼び声も高い超有名人。女生徒に手を出すスピードは、正にに電光石火!閃光、セン・アステリオスだーっ』
そう言ってゴンドーが俺の方を見て来るが……ちょっと待て、今のナレーションは可笑しくないか?そう思うが、DJゴンドーがこっちに話せとのジェスチャーをしてくるため、口を開く。
「えー、只今ご紹介に預かりましたセン・アステリオスです。何か色々な妄言が……『では、もう一人のゲストを紹介するぜっ』……っておい」
ゴンドーが俺の話を問答無用で、中断してきた。
『もう一人のゲストは、今年ベンデンバーグ皇国から転校してきた正真正銘のプリンセス、リーフィア・ラ・ベンデンバーグ第一皇女様だあああっ』
ゴンドーが力の限りリーフィアの名前を叫ぶと、俺達の場所まで観客席の叫びに反応して振動した。……俺の時は何ともなかったのに。
「紹介に預かったリーフィアよ、今日はよろしくお願いするわ」
そんなリーフィアの挨拶でも、会場は揺れに揺れた。
『オーケー、オーケー。テメーラの熱いリビドーはココまで伝わって来たぜ。それじゃあ2人に実況して貰うのはこの競技、借り物競争だーっ』
その声と共に、それまでリーフィアの略歴が表示されていたテロップから、グラウンドへと映像が切り替わる。
『2人はどちらも1年Aクラスってことで、イマもこの競技で熱いバトルが繰り広げられてる最中に居るわけだが、気になる選手は誰か居るのかい?』
そんな声と共に、ユフィの顔がドアップで写されてる……何故か機嫌が悪そうだ。
「えー、幼馴染のユフィ・カレリン選手ですね」
俺は無難にそう答えた。
「私も同じく」
『ナルホド―、ちなみに事前に視聴者から貰ったお便りに、ユフィさんは閃光の野郎の彼女なんですか?と言う質問があったんだが、ソコのとこどうなんだぜ?』
ゴルドーが言うと同時、ユフィの真っ白い顔が目に見えて紅潮する――そして外部から、怒声が聞こえて来る。
「あー、根も葉もない……すいません、普通の幼馴染です」
根も葉もない嘘――と言おうとしたところで、ユフィの瞳が開かれかけたので、俺は慌てて言葉を濁した。当たり障りのない回答を返せたな……そう思った所でリーフィアが口を開く、
「因みに、ユフィが今付けてる髪飾りはセンが幼少期贈ったものだそうだ」
「ちょっ、リーフィアさんっ」
完全に要らない情報を喋り出したリーフィアに焦っていると、外から盛大なブーイングが聞こえた気がする……と言うかモニターで、ブーイングしてる奴らの映像を流すな。
『あー、コイツ爆発しねぇかな』
「おいMC、自分で話振っといてそりゃねぇだろ」
そんな下らない実況をしながら、リーフィアの障害物競争が始まるまで俺達は実況を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます