第23話 登場、第二皇子

 2日目のクラス対抗試合、午後1番に始まったリーフィアの障害物競争だったが、結局競技中に何かが起きる事も無く、1日目とは打って変わって平和に2日目は過ぎていく……筈だった。


「えっ?第二皇子が俺を呼んでる?」


「そうなの、今日2人で放送やったでしょ?アレを弟が聞いてたらしくて、どうしてもセンに会って言いたいことが有るって」


 全ての競技が終わり、学食にでも向かうか……そう思っていた所で、突然リーフィアから声をかけられて、思わず頭を抱える。


 最近リーフィアと親しく成って来たのと、本人があまり問題を起こさないせいで馴れ馴れしくしていたが、ベンデンバーグ皇国の人間は元々軍事力で伸し上がった武闘派集団……その第一皇女が王国の人間から馴れ馴れしい態度を取られてるのを知って、手始めに俺へと文句でも言いに来たのか?


「あー……なんか急に腹が痛くなってきたから、今度で良いか?」


「そうなの?でも、すぐそこに来てるんだけれど」


 そう言ってリーフィアが指さした先には、金色の鎧を着た騎士に周りを固められた、ややくすんだ金髪の少年が立って居る。


 年齢は確か現時点で10歳。ゲーム内では殆ど出番も無く死んでしまったチャールズ第二皇子が、そこにはいた。


「初めまして、セン・アステリオスさん。いつも姉さんの事を守ってくれてるみたいで、感謝します」


 夕日に照らされて笑う彼の顔は友好的に見えたが、周囲の近衛の人間は渋い顔をしているので、油断は出来ない。


 ……こう言う時にユフィが居てくれれば!


「いえいえ、感謝頂けるようなことなんて何も」


 そんな風に返すと、リーフィアが横から声をかけて来る。


「なんで私の時よりもへりくだった態度を取っているのかしら」


 腕を組みながらそう問いかけて来るリーフィアに、思わず頬をかく。


「いやあの時は、敬意を示すとかそんな状況じゃなかっただろ」


「それにしたって、不公平だと思うけれど?」


 そんな会話をしていると、クスクスとチャールズ皇子が笑った。


「ふふ、やっぱりセンさんは面白い方ですね」


 そう言って近づいて来たチャールズ皇子の眼は澄んでいて、緊張してたのが馬鹿らしくなってきた。


「面白い……か。言われたことは案外無いなぁ」


「貴様っ、皇子に向かってなんて口の利き方をっ」


 ぽろっと言葉を溢したせいで、近くに控えていた騎士が腰の剣に手をかけ、一触即発になりかけるが、それを皇子が手で制した。


「別に良いですよ。寧ろ姉さんと同じように、ざっくばらんに話して頂いて構いません」


「いいのか?」


 そうリーフィアに話を振ると、頷き返された。


「了解、じゃあよろしくなチャールズ皇子」


 手を差し出して握手を求めると、小さい手で握り返された。


「ええ、よろしくお願いします」


 苦々しい顔をしている近衛を無視して握手を交わすと、事前に皇子が貸し切りにした学食へと移動して話をする事に成った。


 日中は数百人入る規模の学食に、俺とリーフィア、チャールズ皇子、後は近衛の人間しかいない状況に、アウェイな気分になりながら話をする。


「それで、チャールズ皇子から俺に言いたいことって、どんな事なんだ?」


 そう問いかけると、チャールズ皇子がモジモジとしながら、あるものを取り出した。


 名刺……かと思ったが、カードの表面にはナイフを構えて、スカした顔をしている男が映っていて、思わず頭を抱えた。


「何で、こんなモノもってるんだ?」


 俺が渋い顔をしながら尋ねると、チャールズ皇子は眼を輝かせていた。


「僕実は閃光の……センさんのファンなんです!」


 無邪気に笑いながらそう言われても、正直困るんだが……。


 そう思いながらもペンを渡されたので、仕方無しにカードへとサインする。


「正直、俺なんかより団長のサインの方がよっぽど良いと思うんだが」


 ボソッと呟くと、チャールズ皇子は眼を見開き、首を横に振った。


「確かにジェイル団長は凄い人ですし、英雄カード第1弾から現行の11弾まで全弾で封入されているトップ英雄ですが、僕はそんな凄い人の中でなお、実力で伸し上がって行ったセンさんが好きなんです!」


 そう熱く語って来るチャールズ皇子に、若干引きながら苦笑いする。


 今、世界各国で謎の人気を博している英雄カード……それには世界各地の猛者たちが写されている。


 一応このカードは騎士や傭兵、冒険者等の戦闘職にある者の中で、魔力値や功績を元にランク付けし、上位3%程の人間だけがカード化されているらしい。


 俺自身がカード化される時に、広報の人間から熱烈な説明を受けた。


 なおウチの騎士団だと団長を筆頭に、副団長、ジェイ、俺、ミヨコ姉がカード化されている。


 ……第10弾のシークレットで封入されていたミヨコ姉のカードを手に入れる為に、カードをカートンで買った所、ユフィに見つかり、盛大に怒られたのは別の話。


「あー、応援ありがとう。じゃあ俺はコレで……」


 そう言いながら席を立とうとすると、チャールズ皇子に腕を捕まれる。


「その、大変恐縮なんですがお願いがありまして……」


 そう言って俯きながら話始める皇子を見てため息を吐くと、珍しくもリーフィアが手を合わせて謝ってきた。





「ここが、今日クラス対抗試合が行われる会場なんですね!」


 コロッセオの様にせり上がった観客席の中段付近、数十人が座れる規模の隔離されたVIP席で、白い正装に身を包んだチャールズ皇子がはしゃいでいる。


「ねぇ、アレってチャールズ第二皇子よね?私、本当に此処に居ていいの?」


 そんな事を小声でシャーロットが聞いて来るが、皆を守る事を考えるなら、一カ所に集めた方が楽なのでしょうがない。


「チャールズ皇子がご友人も一緒にどうぞって言ってたからな、別に良いんじゃねぇの?ジークの奴には断られたけど」


 一応声はかけてみたんだが、「そんだけ面子が揃ってんなら、俺は要らねぇだろ」と昨日寮で話した時に言われた。


「でもお兄ちゃん、私たち自分の学年の席居なくても良いのかな?」


 ナナがそう聞いてきたので、頷き返す。


「どうせ今日はもうクラス対抗って言っても、代表選手による1対1の総当たり戦しか残ってないからな、先生に確認したら今日の試合見に来るのは強制じゃないってさ」


「弟君の言う通り、ウチのクラスでは、何人かは欠席するみたいだったよ。まぁ大体みんなイベントが好きだから、強制じゃなくても来るんだけどね」


 クスリと笑うミヨコ姉を見て笑い返すと、会場の中央で司会者が改めてルールの説明を行っていた。


 試合の予定は午前中が中等部の1年から3年、午後が高等部の1年から3年となっており、各クラスの代表者による総当たりの結果、最も成績が良かった者が優勝とのこと。


 また優勝者の表彰の他にもベストバウト賞や、審査員特別賞などもあり、入賞者には漏れなく学園の売店や食堂で使えるカードが配られるらしい。


「体調が良ければセンもあの場に立って、優勝したかった?」


 ユフィにそう聞かれて一瞬考えるが、俺は首を横に振る。


「他クラスの1年生が相手でも、正直試合になるか微妙だからなぁ……3年生とかならまだしも」


 そう俺が苦笑いすると、ユフィも以前のストー達との模擬戦を思い出したのか、微妙な顔をした。


「センは随分優しい考え方をするのね、歯向かうものは全力で排除するのが普通じゃない?」


 そう言って背後の扉を開け放ち現れたのは、真っ赤なドレス姿のリーフィアだった。


「別に優しいって訳じゃない、どうせ試合するなら楽しめる方が良いだけだ。後、ドレス良く似合ってる」


「ありがとう。本当はこんなの着たくないのだけれど、中等部の優勝者にトロフィーを渡す役割を任されて仕方なくね」


「因みに僕は、高等部の優勝者にトロフィーを渡します」


 そう言った皇子の眼は、試合会場を見ながら期待に膨らんでいた。きっと、戦闘や魔法全般が好きなのだろう。


「あっ、選手紹介をやってます!」


 皇子が身を乗り出しながら、選手一人一人を眺めている。


 その様子に思わず苦笑していると、皆から皇子の相手をする様に視線で促された気がする。


 ……まぁ護衛を除けば、此処に居るのは俺達以外皆女子だからな。


 彼女たちには彼女たちの話が有るのだろうし、大人しく皇子の相手をする事にした。


「それじゃ、一緒に試合見るか」


「えっ、良いんですか?」


「良いも何も無いだろ。それに軽い解説位なら俺にも出来るだろうしな」


「やった」


 そんな風に皇子が喜んでいるのを見て、思わず口元が綻んだ。


 ……ただこの後に起こるちょっとした事件を事前に知っていれば、解説なんてしなかったかもしれない。

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