第20話 クラス対抗試合開幕

 俺とジークは早めに朝食を終えて、学園から空き教室の使用許可を得ると、腕時計型端末を使ってメッセージを飛ばし、ナナ、ミヨコ姉、ユフィ、リーフィアに集まってもらった。


「朝早くから集まってもらって済まない、そしてここ最近心配させてゴメン」


 そう告げながら、皆に頭を下げる。


「今回皆に集まって貰ったのは、クラス対抗試合で問題が起きる可能性が有るという情報が入ったからだ。皆には迷惑をかける事に成るし、根拠は言えないけど……」


 頬をかきながら俺が言うと、ユフィが笑った。


「別にセンが何か隠してるのは今に始まった事じゃないでしょ?それでも、私たちはセンを信じてる。だから続けて」


 その言葉に面食らっていると、ナナやミヨコ姉、リーフィアまでも頷いていた……それに思わず俺は眼がしらが熱くなる。


――本当、俺は何に悩んでたんだろうな?


 そう思いながらジークを見ると、鼻で笑われた。


――考えすぎってことかよ


 思わず笑いを漏らすと、リーフィアが尋ねて来た。


「それで、問題って言うのは具体的にどんなことなのかしら?」


「具体的な相手の人数は分からないが、リーフィアに向けて相当な手練れの刺客が放たれる可能性が高い」


 そう告げると、リーフィアを除いた皆が息を飲んだ。


「なるほど……まぁ、私を快く思っていない者も少なくないものね」


「あぁ、その上相手が何時襲って来るかも分かってない、しかも狙われるのはリーフィアだけじゃないかも知れない」


 ゲーム本来のシナリオで言えば2日目の競技中にリーフィアが狙われたが、そもそも様々な事が変わりすぎてどんなことが発生するかはまるで見通せない。


「じゃあ、私たち皆でリーフィア様の護衛をすればいいの?」


 ナナが首を傾げて聞いて来るが、俺は首を横に振った。


「根本的にはな。ただ今回のイベントではどうしても、それぞれがバラバラに動く機会が多くなってしまうから、そこをそれぞれが狙われないとも限らない」


「じゃあ、一体どうするの?」


 そうユフィが尋ねて来たので、俺は廊下の方へ声をかける。


「今回は助っ人を呼んでてな……ジェイ、入って来てくれ」


 そう言うと廊下で控えていたジェイ達騎士団の仲間が、教室の中に入って来る。


「あっ、ジェイさん!お久しぶり!」


「おー、ナナ。1か月ぶり位だな」


 ジェイとナナがハイタッチするのを見ながら、話を進める。


「今回のクラス対抗試合中は、基本的に全員で行動しながら、最低でも騎士団員とのツーマンセルで動いてもらう」


「なるほど、弟君は騎士団と連絡とる為に、夜中ずっとこそこそやってたんだね?でも、それなら私たちにも教えてくれても良かったのに」


 そうミヨコ姉が言うと、ジェイが苦笑した。


「そう言ってやるなって、コイツだってミヨコ達に苦労かけまいとした結果なんだから」


「余計な事言うなって、ジェイ……後、リーフィアには騎士じゃなく、近衛についてもらう事に成ってる」


 俺が近衛と言うと、リーフィアが途端に渋い顔になった。


「私も騎士団の人間じゃダメなの?人数的には4対4で丁度いいじゃない」


 リーフィアがそう言って渋っているが、俺は首を振る。


「ジェイにはもう一人、守ってほしい人間がいてね、そっちに念のため回ってもらう」


 ……無いとは思うが、シャーロットが襲われる可能性もある以上、護衛を付けない訳にもいかないだろう。


「後ソコに居るジークには、俺のバックアップに回ってもらうから、よろしく頼む」


「ヨロシク」


 机の上に座ってそっぽ向いていたジークが軽くみんなの方を見て、軽く頭を下げる。


「今回は下手すると、皆にも相当危険な目に合わせるかもしれない。だけど、俺に手を貸してくれ」


 深く、深く頭を下げると、ナナが笑った。


「全く、お兄ちゃんは心配性だな。……と言うか、ナナ達はリーフィア様の護衛の為に来たんだから、覚悟の上だよ」


「ナナちゃんの言う通りだよ、弟君は私たちを甘く見過ぎだよ。ね?ユフィちゃん」


「そうですね、センは私たちをもっと信用するべきです」


 皆が笑いながらそう言うと、リーフィアが皆の前に出た。


「皆、私からもお願いするわ。手を貸して貰えるかしら?」


 そうリーフィアに尋ねられ、皆で頷いた。





 その後各学年、各クラスの生徒達が集められるとクラス対抗試合の開幕の宣言が出され、それを皮切りにして招待客達が学園へと次々入って来た。


 総勢数百人を超える招待客達に生徒だけでなく、教師陣にも緊張が走るが、予想に反して各競技は順調に執り行われていった。


「コイツは、俺の予想が外れたかな?」


 そんな事を漏らしながら、ナナのパン食い競争を観察する。……ナナが跳ねると、跳ねるな。


「お兄ちゃん、勝ったよー!」


 1位でゴールしたナナが大きく手を振っているのに振り返すと、横から氷点下の声が聞こえて来た。


「セン、今日の競技が終わったら話が有ります。それはもう色々と」


 何故か開眼しているユフィから目を反らし、リーフィアの方に話を振る。


「コレで俺達の競技は終わりだったよな?」


「ええそうね、所でセンは胸が大きい子の方が好みなのかしら?」


 リーフィアがそう言った瞬間、ピシリとヒビが入る音が聞こえた気がした。……同時に近くに居たクラスメイト達が離れていく。


「セン? ちょっと今すぐ、話をしましょうか?」


――キーンコーンカーンコーン


「おっと、飯の時間だ! 俺はミヨコ姉達を呼んで来る!」


 全力でその場からダッシュして逃走をはかり、ミヨコ姉達の控えている場所へ向かうと、ナナとも一緒に合流できた。


「お兄ちゃん、未だ競技にも出てないのに何でそんな汗かいてるの?」


「本当だ、弟君体調大丈夫?」


 そんな風に2人に心配されるが、俺には曖昧な笑いを返すことしかできなかった。


 その後、何とかリーフィアに宥められたユフィやジェイを始めとした騎士団の兄貴たち、近衛……そして無理やりジークやシャーロットと合流して大所帯になった俺達は、学園の広い中庭へと移動した。


「そう言えば、俺達の分ってあんのか?なければ買って来るけど」


 ジェイが言うが、ミヨコ姉が首を横に振ると、ナナと一緒に幾つものお重を並べ始めた。


「ジェイさんたちだけでなく、近衛の方々の分も用意してあるので、もしよかったらどうぞ」


「ミヨコ姉、今日は一段と凄いね」


 ジェイ達が歓喜の雄たけびを上げる横で、俺は敷物の大半を埋め尽くすばかりに広がったお重に半ば呆れていた。


「あはは、厨房を貸して貰って作ってるうちに楽しく成っちゃって」


「ミヨコお姉ちゃんは、そう言うところあるよね」


 俺とナナが苦笑いしてる間に、全員に箸が行き渡った。


「それじゃ、頂きますか」


 そう俺が声をかけると、皆で「頂きます」とミヨコ姉に頭を下げて一斉に食べ始めた。


「あっ、この卵焼き美味しいわ」


「確かに、美味ですな姫様」


「ありがとうございます」


 リーフィアとゼネットや近衛といった他国の人からも称賛され、ミヨコ姉は嬉しそうだ。


 一方……騎士団の連中はというと。


「あっ、てめ俺が狙ってたつくね取りやがったな」


「はっ、副団長代理が遅いのが悪いんでさあ」


 そんなやり取りを繰り広げていて、身内の事ながら恥ずかしく成って来る。


「ねぇ、何で私がここに居るわけ?」


 肘で脇腹を突きながらシャーロットが聞いて来るが、俺は苦笑いする。……本当のことも言えないしな。


「いやぁ、お前が一人寂しく食う事に成りそうだったから、誘ってやったんだよ。感謝しろよな」


「なっ、なんですって!?」


 そんな下らないやり取りを皆で暫くしていると、ミヨコ姉が立ち上がった。


「どうかしたの、ミヨコ姉?」


「お茶が切れちゃったみたいだから、売店まで買いに行こうかと思って」


「それじゃあ、俺も行くよ」


 そう言うと、ミヨコ姉は笑いながら立ち上がりかけてた俺を押しとどめた。


「いいよいいよ、どうせ行き帰りで5分もかからないし。弟君は皆に食べられちゃう前に、食べといて。午後の種目で勝つ為にも力つけなきゃだしね!」


 そう言って無い力こぶを主張して来るミヨコ姉の姿を見て尚迷っていると、騎士団の一人――レインさんが立ち上がった。


「なら警護の役割を受け持ってるアタイが行ってくるよ、それならいいだろ?セン」


「まぁ……」


 ポリポリと頭を掻きながら頷くと、ミヨコ姉とレインさんは売店のある方へと歩いて行った。


――しかし、2人は10分経っても戻って来る事は無かった。

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