第18話 決定、クラス委員!

 シャーロットが入学した翌日から、ただでさえ騒がしかった俺の学園生活は、さらに拍車をかけて喧しくなった。


 腕時計型端末ミレーヌウォッチャーによる魔力測定に始まり、授業中の小テストの点数、果ては学食に並んでいる順番で迄ギャーギャーと騒ぎ始める始末。


 余りにも絡んでくる様子に、ティガースを初めとした一部クラスメイトから、「センはんに気が有るんちゃうんか?」と言われていたが、その後の実技授業にて全員電撃でパンチパーマにされて居た。……南無。


 そんな、シャーロットが段々とクラスに溶け込み始めたある日の事、夕方のホームルームにてザック先生が、再来週から始まるクラス対抗試合に向けて先ずはクラス委員長を一人決めろと言う話になった。


「誰か、やりたい奴はいるかー?」


 その質問に対し速攻でシャーロットが手を上げようとするが、それよりも早くに声が上がった。


「私たちのクラスは皇女殿下がいらっしゃらるのですから、皇女殿下に出て頂くのが一番だと思います!」


 一人の女性とがそう声を上げると、皆が「確かに」と一斉にリーフィアを見て、リーフィアは隣の俺を見てきた。


「セン、クラス委員って何をするものなのかしら?」


「あー、簡単に言えばクラスの雑用だな。先生方から面倒なことが有れば真っ先に押し付けられるのがクラス委員だし、面倒ごとが有れば責任を押し付けられるのも学級委員長だ」


「なるほど……要は小間使いみたいなもの?」


「まぁ、そんなもんだな」


「そうなのね……と言うことは、私は今クラスメイト達から、下僕になれと言われてるって事かしら?」


「当たらずとも遠からずかもな」


 俺がそう答えると、ユフィは盛大なため息と共に頭を抱え……他のクラスメイト達が一斉に悲鳴を上げる地獄絵図になった。


 泣き出す者、天に祈りを捧げる者、俺に向かって藁人形を取り出し、「どうせ死ぬなら、お前もっ」とか言い出す者。


 ……いやいやお前、そんなもんどこから出したんだよ。


「ふふふ、みんな面白過ぎるわ。冗談よ、冗談。クラス委員の役割位分かってるわよ。みんなをからかっただけ」


 リーフィアがそう言って笑うと、皆が胸を撫で下ろしていた。


 同時にそしてそこかしこから、「リーフィア様マジ天使、アステリオスマジ悪魔」……そんな声が聞こえてくる。あん?やんのかこら?


 俺とクラスメイト達が盛大にガンつけ合っていると、間を縫うようにシャーロットが手を上げる。


「皇女殿下がやらないなら、私がやってあげても……「「クラス委員は、アステリオス君がやればいいと思います!」」!?」


 皆が一斉に俺を指さしながらそんな事を言ってきた。いやテメェら、人を指差しちゃいけないって習わなかったのかよ?


「ふざけんな、誰がそんな面倒な……「えー、でもリーフィア様のお付きとしては、リーフィア様が出ないなら、代わりに出るのが当然じゃない?」」


 そんな言葉に、俺は思わず声を詰まらせる。


「いやー、やっぱモテる男は器がちゃうわなー……きっと、別のクラスの可愛い子とかも出てくるんやろうなぁ」


「マジで?」


 俺が思わずティガースを見ると、コクリと頷いてくる。


「多分、眼鏡かけた黒髪ロングのバインバインの子が居ると思うで?」


「ふむ……」


 クラスの女子たちから「サイテー」だの「不潔ー」だの声が上がるが、俺は考える。それはもう真剣に。なんかユフィからの見えない視線が痛い気がするが、今は無視する。


 なんせこの学校の元になったのはゲームだ……未だ見ぬ純朴清楚委員長系はわわヒロインが居てもおかしくはない。いや、寧ろいてしかるべきだろう。


「なるほど……先生、不肖セン・アステリオス。クラス委員に立候補します」


「いや、本当に不肖の生徒だなお前は」


 そんな会話をザック先生としていると、前の方の席でぼそりと「また負けた」と言う声が聞こえた気がした……。





 俺がクラス委員になった翌日の事、早速授業終わりにザック先生から呼び出され、各クラス委員との話し合いの場へと向かっていた。


「さて、一体どんなヒロインたちが待っているのだろうか」


 定番路線で行くなら眼鏡キャラかクーデレキャラ、次点で言えばドジっ子キャラかあざとい系ギャル……意表の突いたのであればメイド何てのもあるだろう。


「いやまあ、どんな子が出てきても皆の方が大事なんだけど、それはソレ……男の――ゲーマーの性と言いますか」


 などと言い訳をしていると、指定された扉の前に着く。


 一回大きく深呼吸すると、ゴクリと唾を呑み込んで扉をノックした。


「おー、入っていいぞ」


 そんなザック先生の声が聞こえて扉を開けるとソコは桃源郷――ではなく、男の園だった。


「あっらー、私好みのカワイ子ちゃんが来たわ」


「僕が奴に勝てる確率……0%」


「ヒャッハー、新しい獲物が来たぜ!」


「……ふへっ」


――スッ


 俺は黙って扉を閉めると、元来た道を戻ろうとして、部屋の中から伸びてきた腕に肩を掴まれた。


「何逃げてんだ、お前?」


「いや先生、これはナイ。おかし過ぎるだろっ」


 再び教室の中へと連れ戻されるが、教室に居る面子を見て改めて頭を抱えた。


 左から青髭の凄いゲイ、測定系眼鏡、世紀末野郎、フード被ってうつろな目をした怪しい奴……そして、栗色の髪の小動物系美少女がいた。


「ふむ」


 俺は黙って、彼女の隣……の席は無かったから、ゲイの隣に置いてあった椅子を持って移動した。


「おいお前、自由過ぎるだろ」


「さぁ先生、早く話し合いを始めましょう!」


 バッと俺は腕を振るうと、出せる限りのイケボでそう言った。


「はぁ……それじゃあ話し合いを始めるぞ」


 ザック先生は頭を抱えて一度ため息を吐くと、再来週に行われるクラス対抗試合について話し始める。


 そこでは魔法学園ものの鉄板である1対1の試合に始まり、浮き球転がしや、魔法の矢による射撃競争と言った魔力を使ったものから、短距離走などの魔力を用いないものまで様々だった。


 ゲーム内では魔法戦による試合しか取り上げられなかったため、こんな体育祭じみたものだなんて想像もしていなかった。


「あの……質問いいですか?」


「あん?なんだ、ソーシ」


 隣の女子が恐る恐ると言った風に手を上げると、ザック先生が問いかけた。


「えっと……この競技は、みんな一つは出ないといけないんですか?」


「ああ、全員何か一つには出てもらう決まりになってる」


 そうザック先生が言うと、ソーシちゃんは涙目になっていた。


「ボク、運動とか自信ないよぅ」


 成程、この子はボクッ子か……そんな事を思いながら、彼女を視線で愛でる。


「あと本対抗試合には、外部の人間も来るから気を引き締めるように」


 俺に向けて取り分け強く視線を向けてくる先生に、思わず頬を掻く。別に俺だって常にふざけているわけではない。


 事前に今回の行事で外部の人間が来ることは承知していたため、リーフィアを通じて近衛に来て貰える様打診していたし、天空騎士団側にも助っ人を頼んである。


 リーフィアがどの競技に出るかはまだ決まっていない為、会場側への対応はしていないが、競技さえ決まればそれにも取り掛かる予定だ。


 まぁ、最近の俺がふざけて見えるのも止むを得ないだろうが、常に気を張っていてもいい結果が出るわけでもない事はこの5年で痛い程学んだ。


「まぁ良い、今回のクラス委員は全員男だからな、連携も取りやすいだろう」


「ん?」


 今、先生は何て言った?


「先生、冗談はよしてくださいよ。ソーシちゃんは、どっからどう見ても女の子じゃないですか」


 そう俺が言うと、ザック先生が可哀そうな奴を見る目で俺を見てきて……思わずソーシちゃんの方を見ると、潤んだ瞳で頷かれた。


「僕は、正真正銘男ですよぅ」


――その日、俺は性別の神秘を知った。

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