第12話 オリエンテーション

 始業の時間が近づくにつれて次第に人が増えてき始め、始業20分前にはユフィとリーフィアが一緒に登校してきた。


 ちなみに俺の左隣がリーフィア、左斜め前がユフィの席となっていた。


――キンコンカーンコーン


 始業のチャイムが鳴り響くと共に、体格のいいリーゼントの男性教諭が教室に入ってくる。


「おっ、今年の新入生はまともだな。全員席についてるな」


 不穏な言葉と共に、男性教諭が入ってきた。


「俺の名前はザックだ、この一年お前らの担任を務める。よろしくな」


 そんな挨拶に、パラパラと拍手が重なる。


「はいありがとう、んでだ早速だがこの学園の最重要ルールを説明する。耳の穴かっぽじって聞けよ?」


 そう言うとザック先生は、黒板に文字を走らせていく。


「まずこの学校で最も重要なルールだが、授業外での魔法、武器の使用は原則禁止だ。授業外で使用する場合は申請の上、必ず決められた場所――主に体育館と運動場で行うこと。もし破った場合は、厳しい処分が下ると心しておけ」


 寮の規則や入学前に配られていた案内でも記載されていたが、これは生徒同士の無謀な決闘や障害事件などを起こさないためにも必要な処置なのだろう。


「加えて、全員にこの腕時計型の端末を配っておく。この端末はお前らが指定箇所以外で魔法を使用してないか検知する物だから、基本外すんじゃねぇぞ!」


 その言葉と共に、クラスメイト全員に対し腕時計型の端末が配布されていく。


 腕に付けた後、横についているボタンに触れてみると、端末の液晶部分に文字が表示された。


――セン・アステリオス、Aランク


 突如現れたランク表記に首を傾げる。


「後この端末は横にあるボタンを触ると、各々の名前とランクが表示される。このランクは魔力量を示しており、常にお前らの魔力残量や成長率を計測してくれる。詳しい操作方法は、今配っている資料を各自確認しておけ」


 そう言われて思わず隣のリーフィアの端末を見てみれば、ランクはB-と表示されていた。よし、何とか護衛としてのメンツは守れたな。


「お前らには在学中ランクCを目指してもらいたいと思う。まぁ、このクラスにはヤバいのも混じってるけどな」


 そう言ってザック先生は俺達一団の方を、チラッと見た。


 俺もリーフィアも、恐らくユフィもジークもC以上だろうしなぁ。


「それじゃぁこの後、学園内の各施設の案内するオリエンテーションを始めるが、その前に廊下側の前の奴から順番に自己紹介していけ」


 そう言われて、廊下側先頭の生徒が苦言を呈しつつも自己紹介を始めていく。


 自己紹介では、自分の趣味を言う者、好き嫌いを言う者、自身の魔力ランクを言う者など様々だったが、俺は無難に自分の名前と、趣味睡眠とだけ伝えておく。


 なお直前のジークは、自分の名前を座ったまま言っただけだった。


 そして順番が回っていき、リーフィアの自己紹介がされた時に、途端に教室内が若干ざわついた。


「おい、お前ら静かにしろ。リーフィア皇女が同級生にいるのは入学式の時に知ってたろうが。すいませんね、皇女様」


「いえ、別に良いわ。後ザック先生も他の生徒と同じ様に読んでいただいて構いませんよ?」


「分かった、バンデンバーグ」


 そんなやりとりを挟んだ後、自己紹介が再開され、一時的にユフィの自己紹介で男子連中が盛り上がりを見せたが、それ以外は滞りなく自己紹介が終わった。


「じゃあ、次は学園内の各施設について紹介していく。校舎内の施設に関しては今から配る地図を確認してくれ」


 回されてきた地図を確認してみると、建物のデフォルメされた外観と各施設の下に空欄が記載されていた。


「今回お前らには、4人一組になってもらってそれぞれの施設を回って、そこに立っている上級生からハンコを貰ってきて、この教室に戻ってきてもらう。制限時間は12:00までだが、早く終わったやつは自習するなり昼飯食うなり好きにしていいぞ」


 ザック先生がそう言うと、一部の生徒から歓声が上がった。まぁ、中等部から上がってきた奴らはこの広い敷地内でも迷うことはないだろうし、楽だわな。


「なお班員は前後左右の奴らで4人一組だ。一応裏面に班組は書いてあるから、班員の顔と名前くらいは覚えろよ」


 そう言われて裏面を確認してみれば、俺、リーフィア、ユフィ、ジークで1班になっていた。


「んじゃ、解散」


 その言葉とともに、クラスの各所がざわめきだす。


「俺らの場合は……おいジーク、起きろ」


 自己紹介以後ずっと突っ伏していたジークを後ろから突いて起こすと、盛大に舌打ちされる。


「んだよ」


「お前も班員なんだから一応改めて自己紹介くらいしろよ。俺とお前は知り合いだが、リーフィア達はお前のこと知らねぇんだからよ」


「しゃあねぇな」


 そう言いながらもジークはリーフィア達の方を向くと、「ジーク・シュナイザーだ」と言ったきり黙る。それに対し、2人が俺の方を困惑した目で見てきた。


「おい、他になんか言うことねぇのかよ」


「テメェだってさっきは、名前と趣味は睡眠とかフザケタことしか言ってねぇだろ」


「ばっか、アレは小粋なジョークだよ」


「失笑されてただろうが」


 そんな俺たちを見て、二人が呆れた様な顔で見てくる。


「なるほどね、ようはセンと同じタイプの人間と思えばいいのかしら?」


「私もそんな感想を抱いてました、リーフィア様」


「「いや、コイツと一緒にすんなよ」」





 その後俺たちは紆余曲折ありつつも教室を出ると、まずは近場の寮から足を運んでいく。


「なぁジーク、お前中等部の時もこんなことやったのか?」


 そう言って訪ねてみるが、一人でさっさと歩く奴は振り返りもしない。……コイツ。


「セン、そんなにカリカリするものじゃないわ。ハーフの人が人族を嫌う理由位、センも知ってるでしょ?」


 ユフィに諭すような声を出され、俺は苦笑する。


「ハーフってだけで差別して、職や人権を与えなかったって話だろ?でもそれって100年も前の話じゃないのか?」


「あら、それは認識が甘いわよセン」


 リーフィアが横から割って入って、指摘してくる。


……というか、認識が甘いってどういうことだ?


「ハーフに対する差別は、現在進行形で行われているわ……昔ほど露骨では無いだけでね」


 その言葉とともにリーフィアから語られたのは、皇国内のハーフの就職率とその職種、そして貰っている賃金の、人族との比較についてだった。


「まぁ今言ったみたいに、労働環境ひとつとっても私たちと彼らは決して平等ではない。まぁ、これでも皇国はこの国よりはましだと思うけどね」


 サラッと毒を吐くリーフィアに呆れながらも、俺も自身の認識が誤っていたことを知る。


 ゲームの知識ではハーフが虐げられていたという設定は出てきても、その後の彼らが現状どうなのかなんて話は出てこなかったし、騎士団に居たころに習った内容も一般的な歴史や文化などが中心だったのだから。


「そうは言っても、アレは根性曲がり過ぎじゃないか?」


 既に一人で寮の前に立った先輩のところへ行き、何やら揉めている様子のジークを指さすと、二人は苦笑いした。






 結局、俺たちが全部のポイントの空白を埋め終わって教室に戻ったのは、12時になる直前だった。


「おうお疲れさん、お前らが一番最後だ」


 そう言ってザック先生が、4人分の地図を回収する。


「お前らは何でこんな時間かかったんだ?中等部から居たシュナイザーが居たんだ、まさか道に迷った何てことはないだろう?」


 ザック先生が不思議そうな顔で聞いてきて、ユフィとリーフィアが俺とジークをジト目しながら頷いている。


 いや、そんな目で見ないで欲しい。


「じゃあ、一体どうしたんだ?」


「「センとジークが逐一トラブルを引き起こしました」」


 そう言われて、俺は思わず窓の外を見る。ジークの奴は舌打ちをした。


 俺たちはポイントへの移動自体は、もともと地図が頭に入っていたから、何も困らなかった。


……ただ、ハンコを貰うためのミニゲームが良くなかった。


「なんなんだよ、2人で肩を抱き合いながらピースサインだの、2人で組体操だの……」


 学園側の意図はわかる。


 簡単なゲームをする事で、まだ打ち解けてない学生同士を交流させて仲良くしようと言う事なんだろう。


 だがそれを、俺とコイツに求めないで欲しい。


 ……肩を抱こうとしたらコイツなんて、顔面殴ってきやがったからな。


「チッ、やってらんねぇ」


「俺がだよ!」


 そう叫び返すと、2つのため息が返ってきた。

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