第11話 お前に心配される程やわじゃねぇんだよ
……酷い目にあった。
まさか殴り合いの途中で、巡回している教師に捕まるとは。しかも教師をいち早く発見した観戦者達は、早々に自室へと引き返していた。お陰で俺とジークだけ説教だ。
解放されたのは、深夜の1時。それもこれも、事あるごとにアイツが教師に突っかかったせいだ。俺は早々に謝って、脱出を図ろうとしたと言うのに。
「あー……眠い」
部屋に戻ってからは泥の様に眠ったが、朝食は6:00~7:00までしか食堂が空いてない為、止む無く目を覚まして、制服へと着替えると食堂へ向かっていた。……俺の愛する睡眠を妨害しやがって。
「あっ、お兄ちゃーん」
ナナの声が聞こえたので、そちらを見てみれば、ナナ、ミヨコ姉、ユフィ、リーフィアが固まって座っているのが見えた。
皆に手を振りながら、俺はレイズ先輩から貰った食券の中から一枚を、ポケットから抜き取る。
『ドキッ、心臓が止まるほど辛い!激辛麻婆豆腐』
……商品名を見なかったことにして、黙ってポケットの中からもう一枚抜き取る。
『和と洋の新境地!ラムネ蕎麦』
……黙って俺はゴッソリと、ポケットの中から食券を取り出す。
――
思わず手に持ってた食券を近くのごみ箱に全部ぶち込みそうになるのを抑え、金を払って讃岐うどんを注文して受け取ると、皆の下へ歩いて行く。
「セン、途中どうかしたの?」
ユフィが怪訝そうに尋ねて来るが、俺は首を横に振った。
と言うか、何であんなメニューがこの学食には存在するんだよ!?
普通に考えて頭おかしい、と思ったがゲーム内でもぶっ飛んだメニューが存在していた気がする。
……誰が得するんだよ。
「そう言えば弟君、また何か騒ぎ起こしたって聞いたよ?」
「へぇ、流石在校生だけあってミヨコは耳が早いわね。何が有ったの?」
そうミヨコ姉とリーフィアが尋ねて来たので、俺はため息を吐きながら持っていた箸を置く。
「同室の奴といざこざが有ってな」
「弟君?アレはいざこざってレベル超えてると思うけど?」
「私もミヨコお姉ちゃんだけじゃなく、同室の子からも聞いたよ?男子寮にヤバい人達が入って来たって」
「セン、自重して」
ミヨコ姉、ナナ、ユフィからそれぞれお小言を頂き、俺は心で泣きながらうどんを啜る。
「いや、でもさ、俺だけ小言を言われるのは可笑しくない?」
「だって私たちは弟君しか知らないもの……そう言えば、同室の子は先に朝食食べてたの?」
「ん?あー、まぁ俺が起きた時には既に居なかったよ」
朝ベッドから降りた時には、既にジークの奴はベッドには居らず、どこかへ消えていた。寝坊してたらおちょくろうと思ってたのに……。
「そっか、じゃあ今日のお昼とかは一緒に食べて和解できると良いね」
ミヨコ姉が笑顔でそう言ってくるが、俺がこの学園に居る間にアイツと和解できることが有るのかは、はなはだ疑問だなと思った。
◇
朝ごはんを食べると皆と別れて、自室に引き返し鞄だけ取ると、校舎へと一人で向かっていた。
皆と一緒に行っても良いかとも思ったが、皆支度に時間がかかるという事で、今日は先に行くことにした。
暖かい日差しの中、10分も歩けば昨日入学式を行った建物が見えてきて、前回とは反対の裏門から校舎に入る。
すると入ったロビーにはデカデカと、「クラス分け一覧」と書かれた紙が貼られており、既に何人かの生徒たちがその結果を見て、一喜一憂していた。
新入生のクラス分けは事前に行われた試験の結果によって、各クラスの平均能力値に極端な差が出ない様にクラス分けされるらしい。
なんでも、生徒の多様性を高めるためだとかなんとか。
「どうせ俺とユフィとリーフィアは同じクラスなんだが……」
そう思いながら、他の生徒達をかき分けて、AからFに分類されたクラス分けの中のAクラスを確認すると、事前の情報通り3人が同じクラスになっている事を確認する。
「そう言えば、ジークの奴はどうなってんだ?」
何となく気になって奴の名前を探していると、すぐに見つかった。
「げぇっ、アイツもAクラスか」
思わずそんな事を漏らしながら、1年A組の教室がある5階へと階段を使って移動する。
まだ授業開始まで1時間近く有るというのに、既にそれなりの数の生徒達が登校しており、その事に軽く驚いている内に、1年A組の教室へと到着する。
先ほどまでの光景を見る限り既に何人かの生徒は登校しているだろうと当たりをつけ、一度深呼吸すると勢いよく引き戸を引いた。
「おはようっ」
挨拶しながら教室に入ると、案の定何人かの男女が既に登校しており、銘々話をしていた。
「おはよー」
「おはよう」
そんな声がチラホラ帰って来るのに対し軽く会釈しながら、黒板に張り出された席順を見る。
廊下側の一番後ろと言う微妙なポジションを確保した事を確認しつつ、前の席の奴――突っ伏して寝てるジークに声をかける。
「よう、おはよう」
そう挨拶した途端、それまで会話が有った室内が急に静かに成った。
――ん?何か俺マズイ事したか?
自分の席に鞄を置きながら辺りを見回し、一番手近にいた話しやすそうな男子生徒2人に小声で問いかける。
「あー悪い、俺なんか不味いことした?」
そう言って質問すると、角刈の方が耳打ちして来る。
「お前、もしかしなくても高等部からの編入組か?」
「ああ、そうだけど……」
そう言うと、角刈はガシッと俺の肩を掴むと小声で言った。
「なら悪い事言わん、アイツには関わらん方がええで。中等部時代に上級生や他校と色々な問題起こしとるさかい」
「僕も、あんまり人の悪口とかは言いたく無いけど、ジーク君はその……色々素行とかに問題あるから」
もう一人の坊ちゃん刈りの小さいのも、頬をかきながら俺に忠告して来る。その視線は何処か落ち着かなそうで、確かにジークを恐れているのが透けて見えた。
――なるほど?確かにジークは口悪いし色々絡まれやすそうでは有るな。
「忠告ありがとう」
俺はそう言うと、彼らに手を振って自席に戻り――後ろから、突っ伏してるジークの脇腹を突いた。
「なっ、何やっとるんやあいつは!」
さっきの角刈が大声を上げるが、構いやしない。
「ようジーク、お前嫌われてるらしいな」
「……平和な学園生活を送りたきゃ、俺には関わんな」
呻く様な声でジークが言ったのを聞いて、俺は思わず噴き出し……その場で爆笑した。
平和な学園生活?ああ確かにそいつは大切だ。リーフィアを守ると言う上では、何よりも。
だが、教室の中で浮いてる奴が居る状況が、平和な学園生活か?
と言うかだ、もともとリーフィアは面白そうな事が有れば、勝手に突っ込んでいく核弾頭なんだから、ちょっとやそっと面倒ごとが増えた所で変わりはしない。
フォローさせることに成るだろうユフィ達には申し訳ないが、俺は自分のやりたい様にやりながら、全力でリーフィアを守る。その為の力は、付けて来たつもりだ。
だから、俺からジークに対する返答はたった一つだ。
「バーカ、お前に心配される程やわじゃねぇんだよ」
そう言って立ち上がると、思いっきりジークの紫の髪をかき乱してやる。
どうだ、ざまぁみろ。
「ッチ」
俺がふんぞり返っいてると、舌打ちと共にジーグが立ち上がり、正面から俺を睨みつけてくる。
それを見た女子の一部が引きつった悲鳴を上げたが、ジークは俺から目線を反らして廊下への扉を開けた。
「どこ行くんだよ?」
「便所だ、ダレかさんのせいで髪が乱れたから直してくる」
「一緒に行ってやろうか?」
「キメェッ」
バンッと言う音と共に扉が勢いよく閉められ、それを見て教室内の生徒達が一斉に胸を撫で下ろしていた。
そんな様子に俺は思わず可笑しくなり、皆に問いかけてみる。
「アイツ、面白い奴だろ?」
そう聞いて見るが、教室内の生徒達は揃って首を横に振っていた。
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