第13話 模擬戦

 時間ギリギリまでオリエンテーションをしていた俺達は、午後の授業が第1体育館で魔法の模擬戦についての説明である事を聞くと、そのまま急いで食堂へ向かい、4人で飯を食っていた。


 どうせだからこの学園の模擬戦について改めてジークに確認しようとした所で、背後から突然声をかけられる。


「何故君たちみたいな男たちが、姫様の近くにいるのかね?」


 妙に鼻にかかった声だなと思いながら後ろを振り返ってみれば、ソコには腰までもある金髪を束ねたニヒルな男と、その友人と思われる連中が立っていた。


「おい、呼ばれてるぞ陰キャ」


 そう言って、ジークの脇腹を肘で小突く。


「呼ばれてんのは、テメェだろ」


 声がすると同時に脇腹をガードしてると、脛を蹴られる。……コイツ。


「君たち二人に言っているんだ、全く持って品が無いっ」


 ゲシゲシと机の下で熱い攻防を繰り広げていると、そう耳元で怒鳴られた。


 ……地味に耳が痛い。


「全くザック先生も、何でこんな男たちと姫様を同じ班にしたのか理解に苦しむよ。どう考えてもナール伯爵家の次男である僕の方が、姫様と組むのはふさわしいと言うのに」


 ナール伯爵家の次男なる男がそう言うと、周りの連中がはやし立てる。


「その通りですね、ストー様」


「なんたってストー様は既にランクD-ですからね、他のFランク連中とは格が違いますよ」


「ははは、事実だとしてもそんなに褒めるなよ。彼らが震えあがってしまうだろ?」


 何やら勝手に小芝居を始めるストー一行。それを無視して俺はジークに疑問に思ってた事を聞いてみる。


「そう言えばお前ランク何だったんだ?」


「端末に触んなっての」


 そんなやり取りをしていると、俺が手を載せていた机の直ぐ横を叩かれる。


「おい君、聞いているのかね?」


 そう問われて、思わずため息を吐く。この手の輩は構うのも面倒だと思い、立ち去ろうとした所でリーフィアが口を開いた。


「そんなに私と同じ班になりたいなら、そこのセンを倒せれば考えてあげなくも無いわよ」


 突然リーフィアが無茶なことを言い出した……完全に玩具を見る目をしている。


「本当ですか!?」


「ええ、丁度この後模擬戦に関する説明だったわよね?セン」


「……そうだが、いいのか?」


 思わずそう問いかける。なんせジークと違って素手のみでも、こいつらじゃ勝負にならないだろう。


「はっ、怖気づいたか庶民」


「ー……分かった、相手してやるよ」


 だんだん言葉で言うのも面倒くさくなりそう答えると、ストー一行から歓声が上がった後、彼らは食堂から去っていった。


「私、あの人たち嫌い」


 そんな言葉と共にユフィが去っていったストー達に冷やかな目をしているが、俺は笑う。


「いや逆に気の毒なのはアイツらだろ、リーフィアのせいで俺と戦わされるんだから」


「さて、なんの事かしら」


 そんな風に笑うリーフィアだが、まぁ彼女の為にもここら辺で彼女の護衛としてポイント稼いでおくのも良いだろうと頭を切り替える。と、突然横から声が上がった。


「オイ」


「あん?」


 突然ジークが声を上げてそちらを見ると、苦い顔でそっぽ向きながら口を開く。


「どうしても助太刀して欲しければ、言え」


 微妙に顔を赤くしながらそう言うジークに思わず吹き出すと、俺は髪の毛を掻き回す。


「いくらお前でも魔法ありきで俺の心配すんのは、百年はええよ。だが、サンキュな」


「ちっ」


 俺が感謝するとジークは俺の手を払い除け、一人席を離れていった。……らしくない事をして、奴の顔が赤くなっていたのは多分気のせいじゃないだろう。





 昼ご飯を食べ終わり、俺とユフィ、リーフィアの3人は第1体育館へ移動した。


 体育館とは言っても学園の物は地球のソレとは異なり、魔法を放っても問題ない様に障壁と観客席が用意された、室内用の闘技場の様なつくりをしていた。


「さて午後からは魔法を使った模擬戦の説明をすると言っていたが、実際に模擬戦を体験したいとの申し出があったから、急遽予定変更して模擬戦の観賞をすることとする」


 ザック先生の言葉に皆がざわつくが、リーフィアはニヤニヤしており、ユフィはストー達を睨んでいた。


「ナール、ドゥーク、ノー、ボウ、それとセンは前に出てこい」


 名前を呼ばれて前に出て行ってみれば、クラスメイト達がざわつく。


「おい、ナールって……あの名門ナール家のストー・ナールか!」


「長男はこの学院でも10指に入る腕らしいからな、弟も凄いんだろ……」


 そんな会話がちらほらと聞こえてきて、ストーが鼻の穴を膨らませているのが見て取れる。


「今回はここにいる5人で試合してもらうことになるが……加減しろよ?」


 そうザック先生が俺の方を見て言ってきたので、肩を竦めた。


 別に最初から学生相手に本気出すつもりなんて、毛頭ない。


「ははは、分かってますよザック先生。貴族の優雅な戦いを見せてあげましょう」


 そんな風に自信満々で言うストーがだんだん、可哀そうな奴に思えてきた。


「ストー達とセン以外は全員2階の観客席に座れ、席は自由で良い」


 ザック先生の指示の下、他の生徒たちが観客席に移動していく。その中にはユフィやリーフィア、ジークの姿が有った。


「それじゃあルールだが、今回は武器や体術なしの純粋な魔法戦だ。安心しろ、この場に限ればお前らの腕に付けている端末が杖と守護球代わりになってくれる。何か質問は有るか?」


「有りません」


 俺がそう答えると、ストーが手を上げた。


「何故僕たちは4人呼ばれたのですか?僕1人でも十分ですが」


 ストーがそう言うと、周りの取り巻き達から同意の声が上がるが、ザック先生が1つため息を吐いた。


「すぐに分かる」


 その言葉にストー達が首を傾げるが、その間に俺は試合開始の所定の位置へ移動する。遅れてストー達も移動するのを確認したザック先生は手を振り上げる。


「模擬戦――開始っ」


 腕が振り下ろされたと共に、ストーが一斉に詠唱を始める。


「走れ風撃、風矢」


 その声と共に、俺へと一本の風の矢が飛んでくる……が、敢えて避けずに、体内の魔力を練った。


「ははは、速攻で試合を終わらせてしまったな」


「流石はストー様!圧勝ですね」


 ストー達が喋ってる声とは別に、上空――2階席からざわついた声が聞こえてくる。


 恐らく上からだと巻き上げられた土煙に邪魔されずに俺達が見下ろせているんだろう。


「なにやら騒がしいな……って、何故お前は立っている!?」


「何故って言われてもな……」


「どういう手品か知らないが、もう一度くらえ!走れ風撃、風矢」


 俺は思わず頬を掻くが、再度眼前で風の矢は眼前で弾かれる。その様子を、注意深く観察していたのだろう。


 ストーが信じられないと言う顔をした後、何度も風矢を打ち込んでくるが状況は変わらない。


 それを見ていた2階席の人間たちから徐々に野次が聞こえてくる。


「おいストー、全然効いてねぇじゃねぇか」


「実はストーは風矢もまともに撃てねぇんじゃねぇのか」


そんな声が聞こえる度にストーの顔が次第に赤くなっていき、疲労と羞恥心で体を震わせていた。


「……皆さん、奴を一斉に攻撃しましょう」


「ストー様、ですがそれは卑怯では?」


「我々が卑怯なのではありません!きっと奴が先になにか既に、卑怯な手を使っているのに違いありません!そうでなければ私の魔法が、あんな凡人に防げるわけが有りません!良いから、詠唱の準備を」


「わっ、わかりました」


 ストーの周りの取り巻き達はやや狼狽えながら、それぞれ詠唱をはじめ、ストーも血走った目で詠唱を始めた。


「なにやら卑怯な手を使っていたようですが、貴方もこれで終わりです」


「そうかい」


「っつ、皆さん、今です!」


 その声と共に、色とりどりの魔力矢が眼前に迫り――直撃した。


「ははは、これで私たちの勝ち――」


「――いい加減飽きて来た。これまで撃たれた分、のし付けて返すぜ」


 もうもうと土煙が上がる中、大気に散っていった魔力を収束させる。


 その様子にストー達が眼を見張るが、構わず突き出した右手の前に人の頭大の球体を出現させ――起動キーをつむぐ。


「解放」


 言葉と同時に放たれた黄色い魔力光は、ストーだけでなくその取り巻きもまとめて呑み込んだ。

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