第14話 精霊眼とシスター
店員にからかわれたのか、一層不機嫌に成ったユフィと店を出ると同時、嫌な気配を感じてユフィを抱き寄せると、その場から飛び退った。
「えっ!?」
咄嗟に抱えられたことに混乱したユフィが声を上げるが、構ってる暇はない。
「駆けろ雷撃っ、
狭い路地の中、異様な気配を発するナニカに向けて雷矢を放つが、まるで手ごたえが無い。そして増大して行く嫌な予感に急き立てられるまま、奥へ奥へと追い詰められていき、少し開けた空き地に出る。
「降ろして下さい、状況は把握しました」
先ほどまでとは異なる、感情を感じさせない冷たい声でユフィにそう言われ、周囲を警戒しながらゆっくりと下ろすと、彼女の瞳が既に開眼している事を確認する。
「出てきたらどうですか?それとも、私を欺けると思っているのでしょうか?」
そうユフィが問いかけるも、返答は無い。
「分かりました、では……「ユフィ、俺に指示をくれ」?」
ユフィは薄水色の――世界さえも見通しそうな程深い瞳で俺を暫く見ると、頷いた。
「……130度方向の建物上、60度方向の建物2階、220度方向の柱裏」
ユフィの囁く声を聞くと同時、腰から3本のナイフを引き抜くと、魔法を発動する。
「纏え雷撃三爪、
右手に2本、左手に1本持ったナイフへ雷撃を充填し、言われた方向へ投げつけると、轟音と共にナイフが直進していき、壁を易々と食い破ったのを確認して、雷撃を解放する。
「
ナイフが飛んで行った3か所で、同時に閃光が弾けた。
「やったか?」
「いいえ、未だ一人健在ですね」
ユフィがそう言った直後、正面に轟音と共に何かが突き立ち、瓦礫が舞い上がった。
視界が巻き上げられた煙によって極端に制限された中、ユフィの声が響いた。
――上段からの切り下しっ
「っつ……」
奪われた視界の中、声に導かれるままにナイフを突き出すと、重い衝撃が腕に返って来たのを確認し、全力で弾き返す。
「ふむ……防がれてしまいましたか。なかなか良い目をお持ちで」
煙が晴れると共に、襲撃者の姿が露になっていき――眼前に立っていたのは、病的に痩せた30代程の眼鏡男だと確認できた。
「ちっ」
その姿を見た俺は思わず舌打ちを鳴らす。その男が、誰の手下か知っていたから。
「そちらの少女は聖堂教会のシスターですね?何故この様な少年と一緒に行動しておいでで?返答次第では……」
「彼は赤の他人です」
即座にそう言い切るユフィに思わず苦言を呈しそうになって、次の言葉を聞いてソレを飲み込んだ。
「ですが、少なくとも私はこの方が悪人ではない事を知っています。貴方と違って」
「ふむ……」
――下段からの斬り上げ
男がため息を吐くと共に斬り上げてきた剣を、ユフィの声に導かれ、ナイフで弾く。
上段、下段、突き、払い、斬り上げ、斬り下げと次々繰り出される攻撃を、全て指示通りに弾いていく。
しかし一撃弾くごとに、脳まで痺れさせるような重い一撃が、全身を蝕んでいく。……が、突如その猛攻が停止した。
「成程、これは少しだけ手間がかかりそうですね」
「だったら、どうするんだ?」
「吠えないで下さい、今すぐ殺したくなる……が、まだナニカ秘策があるみたいですしね、今日の所はその命、預けておきましょう」
そう言うと男は剣を腰にしまって、背を向けて去っていく。
奥の手についても存在がバレていたことに歯噛みしながら、警戒を保ち続けていると、直にユフィから完全に相手が立ち去った旨の報告を受けて、思わず大きなため息を吐いた。
――ユフィが居なければ、絶対に殺されていたな。
その事実を知っているからこそ、指先が震えてくるのを押さえられない。
「……貴方は何故」
「ん?」
「貴方は何故、そんなに恐怖を感じていたにも関わらず、先ほど知り合ったばかりの私を信じられたのですか?」
今はもうユフィは目を閉じていたが、それでも彼女が嘘は許さないとばかりに詰め寄って来る。
何故、彼女を信じられたか?
それは、彼女の目の性能を知っていたからと言う理由は当然あるだろう、加えてヒロインが言う事は絶対に信じてやると言う意地もあっただろう……だが一番は。
「俺はユフィと出会って少しの時間しかたってないけれど、君が人の事を考えられる人だと知ってるから……」
引退するシスターの為にロザリオを買い、見知らぬミヨコ姉とナナの為に助言を送り、俺の為に一緒に買い物するのを躊躇する……。
ゲームの中だけじゃなくて、現実に成っても人の為に動ける、そんな君だから。
「だから、俺は君を信じて戦えたんだ」
「そんな、理由で?」
そう言って彼女は問いかけて来るが、そもそもこの問い自体が間違っている。
「そんな理由で問題あるか?それに、ユフィだって俺を信じて指示を出してくれただろ?俺が失敗すれば自分の身が危ないのに」
もしユフィが自分の保身だけを考えていたなら、俺を見捨てて逃げれば良かった。
それをしなかったのは、彼女が俺を信じてくれてたからだ。
「それはこの目が教えて……「そんなの関係ないっ、最終的に決めたのはユフィ、君だ」」
「っ、そんなことで人を信じられるならっ……」
それまでの落ち着いた口調とは違い、殴りつける様に叫んだユフィだったが、唇を噛みしめると背を向けて走っていった。
「待っつ……」
急いで追いかけようとするが、疲労が来ていた足がもつれ、頭から地面に突っ込む。
「……ユフィ」
思わず再度彼女の名前を呼ぶが、当然帰って来る声は無かった。
◇
「よーう帰ったか坊主、なんか急に雨降り出したな……って、なんかあったのか?」
ユフィと別れてからも暫くの間街の中で彼女を探していたが、突然大雨が降り出したため、止む無く寮の自室へと戻って来た。
「いいや、なんも無いよジェイ」
「……そうか、じゃあ昼飯前に風呂でも入ってこい。ミヨコちゃん達も、そんな面でお土産貰いたくねえだろうからよ」
「……ありがとう」
深く詮索せずに居てくれるジェイに感謝しながら、俺は着替えとタオルを持って大浴場へ向かった。
雨でぬれた洋服をまとめて洗濯機に入れると、体を洗って風呂に入る。普段であれば湯船に浸かれば抜けていく疲れも抜けていかず、考えるのは先ほど逃げる様に去って行ったユフィのこと。
彼女は、精霊眼と言うものを5歳の頃、ある精霊から譲り受け――それに伴って様々な迫害を受けて来た。
精霊眼は契約した精霊によってその効果を変えるが、ユフィの場合は感情を読み取ることに特化した目だった。
そう聞くと便利な物に思えるだろうし、実際それを人から隠し、制御出来て居れば問題なかったのだろう。
だが、彼女が譲りうけたのは5歳の時だ……そんな分別を持てという方が無理だろう。
最初の頃は、人の嘘を見抜けることで重宝されていたユフィだったが……次第にその能力に恐怖する者たちが現れ始め、彼女の根も葉もない悪い噂が広がって行き、最終的には両親さえも彼女を忌み子として扱った。
当然彼女は自分が何も悪いことをしていないと、必要が無ければ勝手に人の心を覗いてなどいないと主張していたが、結局彼女の言う事は全く信じてもらえず、聖堂教会へと預け入れらることに成った……。
そんな彼女がゲーム内でどんな結末を迎えたかと言うと……主人公の力によって精霊眼を無理やり破壊し、以後の人生を盲目として過ごすというものだった。
正直彼女のその後の人生が幸せなのか不幸なのか、俺には分からない。
だが俺には、作中の彼女は、自身を信じてくれる誰かを求めている様に感じた。
……そう、今彼女が大切に思っているシスターの様なそんな存在を。
だが今がゲームの時系列から7年前とは言え、ゲーム内にそのシスターは登場しなかった。それが何を示しているのか、今の俺には分からない。
だけれど俺は、ユフィに伝えてやりたかったのだ――。
――俺は決して君を裏切ったりしないと
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