第12話 歓迎会と愉快な仲間たち
ポーリーとの試合が終わった後、部隊全体の徒手空拳による組手や、小隊(俺、ナナ、ミヨコ姉)による連携訓練を終えた俺達は、一度風呂に入った後、部屋着に着替えて寮のロビーに集まっていた。
「ナナ、お祝いされるの初めてだから凄い楽しみ!」
ロビーに置かれた革製のソファの上で、Tシャツ、ショートパンツ姿のナナが足をバタつかせており、その横で白いワンピース姿のミヨコ姉が行儀良く足を揃えて座っている。
……なお、2人の洋服の出所は部隊のお姉さま方である。
それに対し俺は、先輩方から頂いた緑のだぼだぼのジャージを着ている。
――世の中って奴は不公平だ……まあ、俺も2人がおめかししてる方が嬉しいけど
「ふふ、私も退院祝い以来だから、凄い楽しみ……弟君もだよね?」
「そうだね、まぁ騎士団のお金が入ったら3人でまた祝お」
そんな会話をしていると、食堂へと繋がる木製の扉が開き、中からジェイルが出てくる。
「お前ら待たせたな、準備できたから中入っていいぞ」
そう言って連れていかれた先の食堂には、『祝ミヨコちゃん、ナナちゃん入団おめでとう』と言う横断幕が掲げられている。
――俺の名前が……あっ、すげぇ小さい字で(センも)って書かれてる
そして俺が自分の名前を探しているのを見て、してやったりと言う顔をしている先輩方……マジでいい性格してるよ。
「ミヨコちゃん、ナナちゃん、センくん入団おめでとー」
掛け声と共にクラッカーと色とりどりの魔法が打ち上げられ、祝福される。
うん、まぁミヨコ姉とナナが目を輝かせてるし良いか。
「主賓の席はこっちだ」
そう言って団長に連れていかれた先は、川の字に並んでるテーブルの上に、1卓だけ一の字状に置かれたテーブルが有り、そこが主賓席となっていた。
既にテーブルの端にはべノン姐さんが座っており、団長が反対側の端に座る。
「ねぇねぇ、ナナはどこ座ればいい?」
目を輝かせたナナにそう聞かれたので、真ん中の席を引いて座らせてやり、俺は野郎の多いテーブル卓側――ナナと団長の間に座った。
「おいセン、ミヨコちゃんと席の位置変われー」
「むしろ俺と席変われー」
そんな野次が既に酒を飲んでると思しき、クソッタレ先輩方から飛んできたので、俺も言い返してやる。
「うるさいぞー、酔っ払い。だからモテないんだぞー」
そう言うとギャアギャア叫ばれるが、耳を抑えて聞かない様にしてると、隣の団長から号令がかかる。
「それじゃあ主賓も揃ったことだし、皆盃もてー」
団長がビールジョッキを掲げると、皆それぞれの飲み物を掲げる。勿論、俺達はジュースだ。
「ミヨコ、ナナ、センの入団を祝してーっ」
「「「かんぱーいっ」」」
皆で打ち鳴らしたジョッキの音が広い食堂に響き渡り、それからは一気にやかましくなり始めた。
……まぁ、普段からこんなもんなんだろうけど。
「騎士団には慣れたか?」
テーブルの上に乗ったでかいエビを食うために、無心で殻を取っていたら、団長にそう問いかけられる。
「んー、まだ2日ですけど、先輩たちが煩いんで……まぁ」
なんせ入寮初日にして、同室になった先輩が酒を持ち込み、他の先輩方と一緒に飲み会をおっ始めたのだ。
お陰で連日寝不足だが……まあ、そんなノリも嫌いじゃない。
「ははは、まぁお前の同室はジェイドだったよな?アイツは気のいい奴だしな」
ジェイド・グランズ――30半ばの気の良いオッサンで、訓練では刀を持っているのを目にする色黒の男だ。後、モテない。
「そういえば、ナナとミヨコ姉は同室なんだよね?」
そう問いかけると、ナナは肉を頬張りながら頷き、ミヨコ姉は持っていたフォークをテーブルに置いた。
「そうだね、ナナちゃんと同室って初めてだから凄い楽しいよ」
「ベッドもフカフカだし、ミヨコ姉に添い寝して貰えるし、幸せ」
俺と複数の男どもが視線で牽制し合ってると、べノン姐さんが席を立つ。
「しゃあねえ、ちょっくら何人かシバイてくるわ」
そう言って、べノン姐さん……いや、姉御が野郎どもに絡みに行った。ありがてぇ。
そんなやり取りをしてると、ミヨコ姉にクスクスと笑われる。
「弟君はすっかり人気者だね」
そう言われて、俺は思わず首をかしげる。
「いや、人気なのはミヨコ姉とナナでしょ」
男どもが騒ぎ立てるのも2人の事だし……そう思って言うが、ナナの口元を拭いてあげてたミヨコ姉が首を横に振る。
「私たちは女性の先輩方とは仲良くさせてもらってるけど、あんまり男性の団員の方とは話せてないから」
ちょっと寂しそうな顔で言われるが、それはべノン姐さんや女性隊員の皆さま――そして何よりも俺が、ミヨコ姉に近づけさせてないだけである。
「だから、弟君が少し羨ましいなって。ね?ナナちゃん」
「うん、お兄ちゃん人気者」
ナナにもそう言われて思わず照れてると、反対側――団長から肩を叩かれる。
「そんな人気者のお前に早速お呼びがかかってるぞ、行ってやれ」
団長が指さした先……ひと際やかましい一角に、早速飲み比べをしているジェイド達の一団があった。
「はぁ……団長、ミヨコ姉たちの事は任せましたよ」
「ああ、安心して行ってこい」
そう言って送り出された先は、それはもう酒臭かった。
「おう、やっと来たか坊主」
「酒臭くて鼻が曲がりそうだよ、ジェイ」
「細かい事は気にすんなって、ほらお前も飲め――ないから、飯食え飯。そんなんじゃデカくなれねぇぞ」
バシバシと、背中に跡が付きそうな勢いで叩かれながら、ベンチ型の椅子の開いた箇所に座る。
「そういえばお前、昼間ポーリーの奴ボコボコにしたそうじゃねぇか」
「ボコボコは語弊があるけど……まぁ」
そう言うと、ジェイにバシバシと背中を叩かれる。
……いや、だから普通に痛いって。
「良くやった、俺はアイツがなんか気に食わなかったんだよな。団長以外を見下してるっていうか」
ジェイがそう言うと、周りにいた別の団員達からも「俺も」と言う声が複数上がる……いや、嫌われ過ぎじゃない?
「まぁアイツの親は国の偉いさんだし、うち等がこうして装備や食い物潤沢でいられるのもそのお陰ではあるんだが、やっぱ気に入らねぇもんは気に入らねぇんだよな」
陰口言うみたいで気が引けるけどさ――ジェイや周りの団員がそう言うのを聞いて、そういえばポーリーの姿を見かけてないと思って探してみるが、やっぱり居ない。
……まぁ、あまりこう言った宴会事が好きじゃない人は他にもいる様で、ちらほら空席も見られるから、気にしてもしょうがない。
「センちゅああん、こっち向いてー」
考え方をしていると、遠くの席から野太い声が上がったのが耳に入り、俺は思わずジェイの後ろへ隠れる。
「ジェイ、俺の身代わりになってくれ」
そう言うと、ジェイが苦笑いする。
「いや、アイツも悪い奴じゃないんだよ……恰好が奇抜なだけで」
ジェイの視線の先、野太い声を上げている元を辿っていくと、ソコにはメイド服姿のガタイの良いオッサン――ガッチ・ゲイが座っていた。
「いやいやいや、普通に大変な変態でしょあんなの」
そう言って拒絶するが、ジェイからは背中を押される。
「まぁ、一回話してみれば分かるさ」
グッと親指を立てて後押しされるが、周りの隊員の口の端がヒクついてるのは気のせいだろうか?
ただまぁ、一応挨拶位は行ってみるかと足を運んでみる。
「えっとガッチさん……ども」
そう声をかけると、ガシッと腕を掴まれる。
「やっと来てくれたのね、マイエンジェル。さぁ、私と一杯お話しましょ」
本能的にヤバい――そう思ってジェイたちの方を見ると……連中は大爆笑してた。ふざけやがって!!
「あー、ちょっと俺トイレに……」
「あら?なら私も一緒にお供するけど?」
……何故かは知らないけれどゾワッと寒気がして、俺はポーリ―と戦った時よりも遥かに真剣に、その場からの脱出を試みることになった。
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