第11話 新たな力と不穏分子

 200有る武器の中で、最もしっくり来る武器がどれか?なんて聞かれても、そもそもしっくり来るって何さ?と普通の人は思うだろう。


 実際、俺も思ってる。


 いきなり必殺技的なことが出来ればそれが1番合ってる……みたいな?


 だが一つ言わせてもらいたい、必殺技は自分が技術を磨いて会得して覚える物であって、最初から使える様なものではないと!


「で? テメェの能書きはそれで以上か?」


「……」


 日も暮れて、夜の帳が下りた頃、200以上有る武器を振り終わったが……俺には結局どれが一番しっくり来たかなんて、分からなくなっていた。


 そもそも普通は使った武器が得意になるんであって、その逆はあり得ない。伝説の武器に導かれて……なんてことは普通ない筈だ。


 だからそんな怒らないで下さい、べノン姐さん。


「はぁ……だが、テメェの言い分も分かる。俺だって別に大剣が自分に一番合ってるかなんて分かんねぇしな。そしたら、200有る中で一つだけ今選べ、それが今後のお前の武器だ」


「そんな強引な……」


 そう言われて俺はどうしようかと考え、目を瞑る。


 剣はまず除外する、槍や棍、長刀等の長い物も得意では無かった。


 弓やバリスタなども特段精度が良かったわけじゃない上、ミヨコ姉やナナの後ろに隠れて攻撃するのは俺としては論外なので、遠距離や魔術系特化の武器も省いていく。


 そうすると残るのはショートレンジ。加えて手数や用途が多い方が良い……そう考えていたら、俺は一つの武器を手に取っていた。


「それでいいのか?」


 べノン姐さんはそう確認取って来るが、俺は再度握ったそれが妙にしっくり来る気がして、ソレを改めて握り直した。


「多分、これが俺には一番合ってる……様な気がします」


 そう言って手にしたのは――やや幅広のナイフ。それを2本両手に持ち、軽く振ってみると空を切り裂く音が連なった。


「そうかよ、それじゃあさっさと寮に帰って二人に報告してやれ。先に帰らせたから、心配してんだろ」


「分かりました、お先に失礼します」


 そう言って階段を登り、明かりの殆ど無くなった倉庫を出て空を見上げてみれば、月が1人で帰る俺をジッと見ている気がして思わず寒気を覚えた。


「……さっさと帰って、風呂でも入るか」


 季節的には夏だが、汗をかいた体には夜風の冷たさが妙に堪えて、普段とは違う静けさの中、2人の待つ寮まで走って帰った。





 ミヨコ姉とナナに一応武器が決まった事を報告した翌日、朝からべノン姐さんに他の隊員達と同じメニューを課されて、仰向けに倒れながら体力の無さを実感していた時の事だった。


 視界の端に15,6歳位の少年が1人、俺の方へ近寄ってくるのが見えた。


「おい、そこのチビガキ」


「何ですか?先輩」


 一瞬あまりな言い方にカチンと来たが、そのままの姿勢では失礼だろうと、砂ぼこりを払いながら立ち上がり問い返す。


 しかしその視線は俺を見ておらず、どこか別の所を泳いでいた。


「あー……お前の姉ちゃん居るだろ?」


「ミヨコ姉の事ですか?」


「そっ、そうだ。ミ、ミヨコだ」


 彼の視線の先を追ってみれば、べノン姐さんと楽しそうに話している、ミヨコ姉が居た。


 どうやらコイツのお目当ては、ミヨコ姉の様だ。


 まぁ、この様な輩がいずれ出て来る事は想像していた。


 ミヨコ姉はこれまでずっと研究施設に居たため、他の人間と関わってこなかったが、街にでも出れば100人が100人振り返る美少女だ。


「お、お前、ちょっとココへ呼んで来て、俺を紹介しろ」


「……なんで?」


「何でってお前、お、俺が直々に話してやるって言ってるんだ、連れて来るのが当たり前だろ?」


 そう言って少年が、初めて俺の方に視線を寄こす。


 その視線には何処か俺への蔑みを含んでいる様に、見える。


「そもそもお前ら、団長と副団長のお目こぼしで入団した、下賤な親無し子だろ? それなら父さんが多額の出資をしてるこの騎士団で、俺の言う事を聞くのは当たり前だろ? 寧ろ女は自分から俺の部屋に来てもいい位だ」


 余りな言い草に言葉を失っていると、男はなおも言葉を続けた。


「良いから早くしろよ、アレはにするんだから」



――コイツは今、何と言った?


――ボクの、物?


――ミヨコ姉が、コイツの?


――上等だっ



 咄嗟に腰に差したナイフへと手を伸ばそうとして――団長に手を抑えられる。


「熱くなるのは分かるが、このままだとお前殺しかねない顔してるぞ。せめて守護球を使った試合で決着をつけろ」


「だ、団長!」


 目の前の奴は団長の姿を見て姿勢を正すが、俺は内心の怒りを抱えたまま黙って守護球を受け取ると、相手から距離を取る。


「ポーリー、お前も準備を進めろ。今のやり取りを見てたが、決して褒められたものじゃないぞ」


 そう団長が苦言を呈するが、目の前の男――ポーリーは、首をかしげる。


「俺、なんか言いましたかね?」


「……分からないなら、後で教えてやる。とりあえず、試合をしてからだ」


「そんな、僕があんなチビと「さっさとしろ」……」


 大きく何度も深呼吸しながら、何とか平静を保つように努力していると、団長が近づいてくる。


「すまん……」


「今はただアイツが許せない、それだけです」


 俺がそう言うと団長は静かに離れていき、ポーリーと俺の間に立つ。


「武器の使用は自由、先に守護球が割れた方の敗北だ……準備は良いな?」


 そう問いかけられ、俺達が頷いたのを確認すると、団長は手を上げて……振り下ろす。


「試合開始っ」


 声と同時にポーリーが走りだし、剣を突き出して来るのを見て……しゃがんで躱すと、すれ違い様に逆手に持ったナイフで腋の下を斬り上げる。


「うおっ」


 ポーリーの声と、守護球にひびが入る音が重なるのを聞きながら、振るった腕の勢いを殺さずに回転すると、ついでに首筋を切り付ける。


「ちょこまかウザいんだよっ」


 叫び声を上げながら剣を振り回して来たため、一旦距離を離すと、緑色の魔法陣が展開される。


「走れ風撃、風矢ウインドアローっ」


 剣先から吐き出された風矢が眼前に飛んでくるが、それを横に飛び退いて躱した後、奴の足から始まり指、首、腿、腕、膝と斬り付けた所で、ポーリーが両手を上げた。


「っ……まっ、待った!」


 突然の意味不明な行動に思わず追撃の手を止めると、奴は叫び始める。


「俺の負けだ、だから攻撃をやめろっ!」


 顔を真っ赤にしながら、試合中に謎の主張を始めたポーリーに戸惑い、団長の方を確認したら首を横に振っていた。それを見て、再度ナイフを構え――。


「馬鹿が、目を離したなっ」



――声と共に眼前に白刃が迫り……



 その刃を右手のナイフで弾き、それまで使ってなかったもう左手のナイフを、ポーリーの首筋に突き込んだ。


「ぐぇっ」


 カエルが鳴くような声と共に、守護球の割れる甲高い音が周囲に響き渡った。


――パチパチパチ


 そんな音が周囲から聞こえて来て見てみれば、団長の後ろに大勢の団員達が立っており、拍手を送ってくれた。


「勝負ありだな、俺の部下が迷惑をかけた」


 改めて団長が頭を下げてくるのに対し、俺は苦笑いする。


 本来であれば、質の悪い団員を入団させた団長に文句を言うべきなんだろうが、ポーリーの父親がゲーム内の大物であると知っている俺は、団長に強く言う事ができなかった。


「とりあえず、ソイツを誰か医務室に連れてってやれ」


 団長がそう言うと、団員たちは複雑な顔をしながら、担架にポーリーを乗せて運んでいく。


「弟君っ」


「お兄ちゃんっ」


 一直線に俺の胸に飛び込んでくるナナを受け止めながら、心配そうな顔をして近寄ってくるミヨコ姉に右手を上げる。


「弟君、ケガしてない?何か痛むところは?」


「いや、全然大丈夫だよ」


「お兄ちゃん、強かった」


「ありがとう、ナナ」


 そんな会話を二人としていると、べノン姐さんが寄ってくる。


「武器の調子、良さそうだな?」


「はい、お蔭さまで」


 そう言うと、べノン姐さんも俺に頭を下げてきた。


「すまねぇな、本来ならオレ達で注意しなきゃいけない所だったんだが……今までは最年少ってのもあったのか、奴も割と大人しくしててな」


「まぁ……しょうがないですよ」


 ゲーム内では騎士団員としては出て来なかったが、対峙した際には相当に面倒な男であったことを覚えている。


「わりぃな。あー後、今日はお前らの入団祝いするから、19:00に食堂集合な」


 そう言い残して去っていくべノン姐さんを見送ると、ナナとミヨコ姉が満面の笑みになって、手を打ち合わせた。


「お祝いだって、お姉ちゃん!楽しみだね!」


「そうだねっ、ナナちゃん」


 年相応にはしゃぐ二人の声を聞きながら、俺はポーリーが運ばれて行った方をジッと見続けた。


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