第10話 偏屈爺さんと隠れた才能

「ほい、お疲れさん」

 

 何とか死ぬ思いでランニングから帰って来ると、それまでミヨコ姉達と雑談していたべノン姐さんから、水の入ったボトルを投げられる。


「ありが、とう、ございます」

 

 何度も深呼吸を繰り返しながら水を飲むと、火照った体に染みわたっていく。


 と言うか、未だ11歳(推定)の体に、20㎞も大人と同じスピードで走らせるとか何考えてんだ。


「おっ、まだオレを睨む気力があるとは見上げた根性だな。もう一周行っとくか?」


「いえっ、滅相も有りません、副団長」


 全力で敬礼してそう言うと、べノン姐さんはくつくつと笑った。


「ナナとの試合の時は……まぁ、そんなでもねえなと思ったが、やっぱりジェイルや他の隊員が推しただけはあって根性はあんな」


「……ありがとうございます」


 ナナとの試合について言われると、何とも複雑な気分になるが、取り敢えず感謝しておく。


「ただ、体の方はまだまだだな。お前はなんか得意な事あんのか?ナナやミヨコみたいに」


「そうですね……雷属性の魔法は、まぁ得意です」


 それもミヨコ姉と比べると大した事無いが、まぁ雷属性の適正有るのは割と希少らしいから、アドバンテージは無くもない。


「それは知ってる、他だよ他。ナナの槍みたいな奴だ」


「さぁ、どうなんでしょう」


 そんな事言われても、俺も今一つ分からない。


 確かにミヨコ姉より後に研究開発されており、ナナと同時期の個体なのだから、同等に近いスペックを持って居てもおかしくはないのだが、パッと思いつかない。


 そもそもナナと違って現時点で属性魔法を使えるのは、俺がゲーム知識有るだけだし。


「煮え切らねぇな、ならそこら辺確認するか。おいナナ、ミヨコ」


 遠くで女性隊員の方々と話していたナナとミヨコ姉が呼ばれて、こっちに来る。


「オマエラ、コイツの得意な事なにか知ってるか?」


 そう言ってべノン姐さんが2人に問いかけると一瞬考えた後、初めにミヨコ姉が口を開いた。


「雷魔法が――」


「それは本人に聞いた、次」


「お兄ちゃんの話は面白――」


「悪い、戦闘で役立つことで頼む」


「んー、意思が強いです」


「悪くないが、違うんだよなぁ」


「……」


 他にはもう出ないか――そう思った所で、ナナが手を上げる。


「そう言えば、お兄ちゃんが昔研究所で剣を握ってたのを見かけた様な……」


「それだ、それ!」


 そう言ってべノン姐さんは、ナナの頭を乱暴に撫でる。ナナは褒められて、何処か嬉しそうだ。


 ……と言うか、本来のこの体の持ち主は剣が得意だったのか。


「よし、取り敢えず武器庫行って確認してみるか。ナナとミヨコの武器も探さなきゃだしな」


 そうして俺達は、様々な武器が大量に保管されている天空騎士団の倉庫まで歩いて行くことになった。


「弟君は、剣が得意だったんだね?」


「んー、自分ではあんまり覚えてないけど……その辺どうなの?ナナ」


 何故か自分の得意な事を妹に聞くという謎の構図だったが、ナナも首を捻っている。


「ナナとお兄ちゃんはクラスが別だったから、詳しくは知らないんだよね」


 そう言われて、俺は首を捻ることになる。ナナは研究施設でもかなり優秀な方だったと、ゲームでは描かれている。


 事実ナナの槍の才能は目を見張るものがあるし、今後炎の属性魔法を覚えればそちらもメキメキ上がって行くはずだ。


 だがそんなナナと別クラスだったと言われて、嫌な予感がする。


「ここが、オレらの使ってる武器が保管されてる倉庫だ。他にも武器や防具の整備をしてる職人なんかもいるから、お前らも今後はよく使うと思うぞ」


 そう言うべノン姐さんに連れて来られたのは、体育館並に大きな建造物だった……。


「すごい大っきい!」


「大きいね、ナナちゃん」


 2人がその大きさに驚いている間にも、扉を開けて中へ入っていくベノン姐さんに付いて行ってみれば、鎧を置くための棚がズラリ並んでいる。


 ただ、現在は隊員達が訓練中のため、殆どの棚は空だった。


「あん?べノン、また何ぞ壊しおったか?」


「よう、ジル爺。今日の用は俺じゃなくて、こいつらだ」


「なに?ああ、最近入ったっていうガキンチョ共か」


 そう言ってカウンター越しにべノン姐さんと話をしていた白髪の爺さん――ジル爺が俺達の事を見下ろしてきた。


「初めまして、お爺さん」


「はじめまして、ジルおじいちゃん」


 それまで険しい顔をしていたジル爺は、ミヨコ姉とナナに挨拶され、一転して険しい顔から好々爺然とした顔に変わる。


「うむ、はじめましてじゃな」


 そして、最後一人残った俺の方を見ると、爺さんは再び険しい顔に戻る。


「最近の坊主は挨拶もできんのか」


「……はじめまして」


 突然毒を吐かれて納得いかない気持ちを抱えながら挨拶するが、そっぽを向かれる……紛れも無く糞爺だ。


「取り敢えずミヨコには魔術書、ナナには短めの槍を渡してくれ」


「ミヨコ嬢ちゃんの適正属性は?」


「水と風です」


 そう言うとべノン姐さんは口笛を吹き、ジル爺さんは驚いた顔をする。


「成程な、流石はアヤツが引き入れただけはあるな」


「だろ?因みにナナはこんななりして、槍を結構こなすぜ?」


「お主が結構と言うんなら、その年としては相当なもんじゃろうな」


「えへへ」


 ナナが照れたように笑いながら、俺の方を褒めてほしそうに見て来たので、頭を撫でてやる。うん、可愛い。


「それで、ソコの坊主は何を使うんじゃ?」


「それが本人も今一分からないらしくてな、ナナの記憶だと剣を使ってたらしい」


「なんじゃそりゃ?まぁ良い、適当な剣を見繕ってやる」


 そう言いながら、ジル爺はカウンター奥に一旦引っ込んで行くと、真新しい魔術書と短めの槍……そして薄汚れた鉄の剣を抱えて戻って来た。


「嬢ちゃん二人にはこれが良いじゃろ、坊主は……コレでいいじゃろ」


 鉄の剣を渡された時に鼻で笑われた気がするが、特に気にしない……贔屓ひいきし過ぎだろ。


「んじゃあ取り敢えず、地下で試し切りでも行くか。爺さん、今地下を使ってる奴はいないよな?」


「いるわけなかろう。……おい、坊主」


 ジル爺が呆れた様にそう言うと、べノン姐さん達がカウンター横の階段を下って行き、それに俺もついて行こうとしたところで、呼び止められる。


「お前さんには、剣の才能は無い」


「っつ……」


 いきなり失礼なことを言い出す爺を思わず睨みつけるが、まぁ待てと手で押しとどめて来る。


「剣の才能だけは良く分かるんじゃ。アイツ……、あの剣聖を見とるからの」


 そう言われて沸点の上がっていた俺の頭は、急に冷めた。


 成程、確かにアレ――団長と比べられれば殆どの人間が、才能が無いことに成るだろう。


「じゃがな、恐らく他のナニカなら、まずまずの才能を発揮できるじゃろうて」


 真剣な表情でジル爺にそう言われて、俺は心底驚いた。


 ジル爺はゲームでも出て来る偏屈な爺さんだったが、その口調は辛辣で、主人公をして全武器の才能がまずまずだったのだ。


 団長を除けば並ぶ者の居ない主人公をしてまずまず……それを聞いて俺は、俄然ヤル気が出て来た。


「ありがとな爺さん、色々試してみるよ」


「誰が爺さんじゃ、地下には一通りの武器が並べられておる。使ってみると良い」


 シッシッと手を振られるが、俺は自分でも口角が上がるのを感じながら、急いでべノン姐さん達の後を付いて階段を下りていくと、直ぐに開けた場所――弓道場の様な場所に出る。


 そこには幾つもの案山子が一定間隔で立っている他、壁面には様々な武器が飾られていた。


「セン、お前爺さんと何話してたんだ?」


「自分の武器の才能についてです。……剣は才能無いって言われました」


「そうか……ただまぁ、あの爺さんのいう事は間違ってもねえんだ。腹立つけどよ」


 べノン姐さんは、少し遠い目をしながらそう言ってくる。


 ……この人は、かつてジル爺に剣の才能が無いと言われ、大剣に乗り換えた経緯があった筈だ。


「ただ、他のナニカならまずまずの才能が有ると言われました」


 そう言うと、べノン姐さんは目を見開いた。


「そいつは、マジか?」


「はい」


「……そうか、ならサッサと見つけねぇとな。ミヨコとナナは悪いが、各々そこの案山子で自分の装備の具合を確かめててくれ。俺はコイツの武器探しを手伝う」


 べノン姐さんの言葉に、ミヨコ姉とナナはそれぞれ返事をして、案山子相手に攻撃を加え始める。


「さてセン、テメェには此処にある武器を今日一日で全部触ってもらう。異論は認めねぇ」


「……全部、ですか?」


 ざっと見る限り壁に掛けられている武器の種類は、200を超えるだろう。それを全部使ってみるとなると……。


「安心しろ、日が沈むころには終わんだろ」


 そう言われて俺は、がくっと肩を落とした。


――――――――――――――――――――

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