第5話 決闘の結末と最強の騎士
「何を言っている?」
心底理解できないという風に問いかけて来るグンザークがおかしくて、俺は笑いが止まらない。
「アンタは俺が出した雷槍……何に使ったと思う?」
「攻撃を当てるためのフェイントであろう?」
「違うな、全くの的外れだ……」
そう言うと同時に俺の前方――グンザークの背後が、轟音と共に弾け飛ぶ。
「ノックしてたのさ、ずっとな」
ニヤリと俺が笑うのと、ゲームで聞きなれたあの人の声が聞こえたのは同時だった。
「げほっ、あー……すげぇ音がするから来てみれば、こりゃどういう事だ?」
長剣を片手に、頭をかきながら現れた、蒼い鎧をまとった男――それを見てグンザークが叫んだ。
「……
「あっ?誰だ、俺を呼んだのは……ん?てめぇはグンザークか?……それにこの状況、気に入らねぇな」
部屋の様子を見た男――ジェイル・アステリオスが構えた瞬間、部屋の空気が変わった気がした……。
「ふん、それはこちらの台詞だ……」
グンザークが戦斧を肩に担ぎ、構えようとした所でジェイルがボソリと言った。
「……遅えよ」
言葉と同時、持ち手と刃先が分断されていた――圧倒的、あまりに圧倒的な実力の差に思わず俺も
「俺はガキをイジメる奴が死ぬ程嫌いでね……安心しろ、てめぇには聞きたいことがたんまり有るから殺しはしねぇ」
ジェイルがそう言葉を漏らし、その場で一回剣を振るって背負いなおすと、俺の方へと近づいて来る。
「おい、お前生きてるか?」
そう言って手を伸ばしてくるが、その背後からは俺が先ほどまで対峙していた時のグンザーク以上の、威圧感を感じる……。
だが俺は既に奴が手遅れであることを、知っていた。
「俺を……舐めるなああああああ」
雄たけびを上げたグンザークが、魔力を渦の様に全身から噴出し、ジェイルに手を向けるが……それは悪手だ。
「
ジェイルが起動キーを言うと同時、不可視の刃がグンザークを八つ裂きにすると、一瞬で奴の意識を断った。そこには戦闘などと言うものは無く、一方的な暴力だけが有った。
あまりに自分と隔絶した能力――ゲーム内でチート能力を持っていた男の一端を見て、その
「おい少年大丈夫か、おいっ……」
「……おにいちゃーーん」
遠ざかっていく意識の中で最後に、ナナの声を聴いた気がした。
◇
ふわふわと
部屋でゲームをプレイして居たら、ゲーム内キャラに転生していた……そんな荒唐無稽な物語。
だが、俺の力だけでは彼女たちを救うには至らず、結局他力本願になってしまったそんな話。
……だが俺は、ヒロインを救うための一助と成れた事に満足する。
願わくば、今後の彼女たちの人生に幸あれ――。
「えいっ」
「いってええええええ」
まどろんでいた意識が一気に吹き飛び、脇腹を始点とした激痛は、全身を駆け抜けた。
思わず犯人――驚いて目を見開いているナナを見て、俺は首を傾げる。
「あれ、ナナ……?」
だが何かを言おうとして……、自分が何を言おうとしたのか忘れてしまう。
「えっと……お兄ちゃん、大丈夫?」
恐る恐ると言った様子で顔色を窺ってくるナナを見て、自分の容態……全身包帯に巻かれ、右足を吊るされた様子を確認して聞き返す。
「……大丈夫そうに見えるか?」
「……ごめんなさい」
ペコリと頭を下げて謝るナナに盛大なため息を吐くと、俺は包帯が巻かれただけでまだ動く右手で、彼女の頭を撫でてやった。
「ところでナナ、ここは一体何処なんだ?」
辺りを見回してみれば、コンクリート製の壁や天井を確認出来るが、俺達が入れられていた施設とは違い、ベッドの脇には窓があり、外を見下ろすことも出来た。
「えっと、ここは……」
そうナナが説明しようとした所で、病室のドアが開け放たれ……眼鏡をかけたナース服の女性が現れた。――実にけしからん物をお持ちで。
「あら、もう目覚めたのね。流石若い子は違うわね」
クネクネと色気を振りまきながら歩くその姿に目がくぎ付けに成っていると、隣に座っているナナから服を引っ張られたのでそっちを向けば、頬を膨らませていた。
――いや、これは違うぞ?
「ふふ、いくらお姉さんが魅力的だからって、妹さんを蔑ろにしちゃだめよ」
そう言って女性は、俺のおでこを爪弾いた。
「はい……」
「素直なのはいい事ね。さて、君は今の自分の状況が分かってるかしら?」
「……いいえ」
中の俺は凡その予測が付いているけれど、本来研究施設にずっといた子供では知りえない知識のため、黙っておく。
「じゃあ1から説明するわね」
そう言って女性が語り始めたのは、俺とナナ、そしてミヨコさんが居た研究施設と、俺達が今いる天空騎士団が協賛する病院についてだった。
俺達が居た施設――御使いの園は、各国から戦争孤児や親が不在の子供たちを保護するとの名目でかき集められ、使徒と呼ばれるナニカを生み出すための研究をしていたのだと説明される。
ここら辺はゲーム時と同じだったが、唯一違ったのは御使いの園で警護を担当していたグンザークが、捕まったこと位だろう。
「ジェイルが――貴方を助けた青い鎧を着た人ね、あの人が君を褒めていたわよ。あの有名なA級犯罪者グンザーク相手に勇敢に戦ってたって」
「勇敢だなんてそんな……」
ナナと出会わず一人だったら逃げていただろう、ミヨコさんが見ていなかったら、とっくに倒れていただろう……俺はただ、彼女たちを救いたい一心で戦っただけなんだから。
「お兄ちゃんは、ゆうかん?でした!ナナが倒れちゃった時も、運んでくれたし!」
「そっか……ナナちゃんのお兄ちゃんは、凄いのね」
「うんっ」
そう言って元気いっぱいに頷くナナの姿に、初めて会った時とは違う――ゲームの中の
「あっ、そう言えば申し遅れたわね、私の名前はルーラン・フローランス。貴方は?」
ルーランさんが聞いて来て初めて、自分に名前が無い事を思い出す。
……全く思いつかない。ナナ達を真似たいが、1076じゃあ南無みたいで縁起が悪いし。
「せん――閃です」
「セン君……うん、いい名前ね」
「センお兄ちゃんっ」
ななが俺の胸元に飛び込もうとして、慌ててルーランさんに止められる。
「ナナちゃんだめよ、セン君は本当に危ない状態だったんだから……君も、あんな無茶二度としちゃダメよ?」
そう言って告げられたのは、俺の現在の体の容体だった。
左前腕および右
「だけど本当に酷かったのは体じゃなくて、魔力神経の方。体内の魔力を溜める魔力核も含めて、殆どズタズタの状態だったわよ?」
そう言われても、現代人である俺には今一つピンと来ない……そんな顔に気づいたのか、またルーランさんが分かりやすく説明してくれる。
「要は、魔法を使うのに必要なものだから、もし損傷して復旧できないと最悪魔法を使えなくなるわ。そんなの……良いか悪いかは置いといて、貴方達は凄い才能を持ってるのだから勿体ないでしょ?」
「ありがとうございます……」
凄い才能と言われても、主人公の頭おかしい能力と……何よりジェイルさんの戦闘を見た後ではまるで実感がわかない。
「……あの、ひとつ質問しても良いですか?」
「ええ、いいわよ?」
目を覚ましてから、ずっと気になっていたことが1つだけ有る。それは……。
「ミヨコさん……ミヨコ姉さんは無事ですか?」
そう聞くと、隣に居たナナの顔が暗くなる――まさかっ。
「ええ、大丈夫よ。まぁ君とは違う部分で苦労するでしょうけど、退院できるのは貴方より早いんじゃないかしら」
「お姉ちゃんとは暫く会っちゃダメなんだって」
不貞腐れた様に口を尖らせたナナに思わず苦笑しながら、髪の毛を撫でてやる。
「……はぁ、良かっ、いっつ」
安心して思わず大きく伸びをしようとした所で、体の至る所が悲鳴を上げる。
「もう、あまり無理しないの。これから貴方はしっかりリハビリしなきゃなんだから、まずはいい子でちゃんと寝てるのよ?」
「はい……」
言われずとも、ミヨコ姉さんが無事なのを聞いたら、体から一気に疲れが出てきて……そのまま、意識を落とす様にぐっすりと眠った。
――――――――――――――――――――
ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございます。
もし気に入ってくださった方いましたら、↓の♡による応援や、下記URLから☆評価頂けると泣いて喜びます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます