第4話 猛将との決闘
自動ドアが開いた先には、狭い一本道の通路が伸びている。左右には幾つもの部屋の扉があり――そこからは悲鳴が漏れ聞こえた。
「助けて、誰かっ」
「いたいいたいたいたいたいたいたいたいたい」
聞いているだけで精神が削られそうな音に、耳をふさぎたくなる中、俺は手に持った杖を音がするほど握りしめると、正面にある一際大きな部屋へと歩みを進める。
踏み出す足は鉛の様に重く、体にまとわりつく気配は鎖の様に俺の体を縛り付ける。
――それでも、俺はナナ達を助けたい……例え夢、幻なのだとしても
――バッドエンドは許せない
確かな覚悟を持って観音扉を開くとそこには、巨大な機械に管を通して繋がれたミヨコさんとグンザーク、そして複数の研究者たちが居た。
「なんじゃ、おまえは――」
「駆けろ雷撃っ、
情け
「貴様が入り込んだ鼠か?何故実験体が杖なぞ持っている」
怪訝な顔をして問い返してくるグンザークだが、その問にも俺はサンダーアローを研究者たちに向けて連射して応える。
「笑止っ」
様々な角度で放たれた魔法は、されど一発も研究者に当たる事無く、
加えて弾いた奴の腕には焦げ跡がつくだけで、まるで
「グンザーク殿、これはどういう事じゃ」
禿頭の研究者がグンザークに疑問を投げかけるが、グンザークは首を一回横に振ると、俺の後ろの扉を指さした。
「俺は知らぬ。だが貴様らは逃げておけ、邪魔だ」
そう言ってグンザークが発した覇気に、俺だけじゃなく研究者も気圧されると、逃げる様に俺の脇をすり抜けていった。
「ほぉ?逃がしてしまって良かったのか?大層研究者たちに
「抜かせ、背を向けた瞬間殺すつもりだった癖に」
「はっ、まだチビだと言うのに良く吠える。……久方ぶりの戦場だ、直ぐには死ぬなよ?」
言い終わると同時、グンザークが背中に手を回し、巨大な
――怖い……
夢だと思っていても奴が発する威圧感に、今にも膝を折って縮こまりたくなるが、それでも俺は奴を睨みつけることを辞めない。
――決して挫けるわけにはいかない
「いくぞっ、ガキ」
グンザークがそう吠えるのと同時、ミヨコさんがこちらを見ている事に気づく。
――そんな心配そうな目で見るなよ、今助け出してやるから
――救わなきゃいけないヒロインが目の前に居るんだ、ここで踏ん張らなきゃ男じゃねぇっ
「来いよデカブツ、てめぇなんて前座にも成らねえんだよっ」
振り下ろされる刃を寸での所で交わし吠えたてると、グンザークはニタリと凶悪な笑みを貼り付けたまま、枯れ枝でも握ってるかのように安々と戦斧を振るってくる。
型や優れた技術が有るわけでは無い、フェイントも無いため一撃毎なら躱せない事も無い……だが、奴が繰り出す攻撃は早く、何よりも重かった。
叩きつけられた先の地面は抉れ、その時に舞い上がった
「はっ、てんで大した事ないなアンタも」
あくまでも余裕を装い、隙をみて魔法を打ち込んでいくが効果は無い――だが、時間さえ稼げれば……。
そう思った所で、奴の体から魔力の渦が噴出する。
「ならばこれでどうだ、打ち据えろ、
「がっ……」
避けよう……そう思った次の瞬間には、腹を巨大な塊に打ち据えられて吹き飛ばされ、そのまま背中から壁に衝突した。
今まで感じた事の無い衝撃と、内臓がシェイクされた気持ち悪さから、その場で崩れ落ち嘔吐する。
「威勢だけだったな、ガキ……。まぁいい、他に協力者は居るのかどうか確認して来よう……」
そう言って背を向けたグンザークの首元に、胃液をまき散らしながらもサンダーアローを放ち――後ろ手に防がれる。
……くそっ。
「まだ動くか、ならその手足の2、3本この場でへし折ってやる」
そう言って斧を担いだグンザークが近づいて来るのを見て、足元をふらつかせながらも、杖を構えて対峙する。
『もうやめてっ』
部屋に彼女の――ミヨコさんの声が、響き渡った。
『もういいでしょう?まだその子は子供なのよ?』
機械に繋がれ、絶えず痛みを受け続けているというのに、涙を流しながらもミヨコさんは必死にグンザークに訴えかける――。
そしてそんな彼女に関心を持ったのか、俺の眼前まで来ていたグンザークは引き返し、ミヨコさんの細い首を締め上げ始めた。
――ふざけんな
「うるさいぞ、女。所詮貴様らはモルモットだ、我々の道具に過ぎん貴様に口答えする権利は無い」
グンザークは言葉の端々から怒りをにじませながら、皮膚に指が食い込むほどの力でミヨコさんの首を締め上げていく。
――認めねぇ
『にげ……て』
――何故、彼女達が不幸にならなきゃならい!
心の叫びと同時、俺の中のナニカが弾けた。
「
起動ワードを紡ぐと同時に、ゴッソリと魔力が抜けていく感覚と、体内の神経回路が焼け付く様な――焼けた鉄の棒を入れられるような感触に顔をしかめながらも、四本の槍を空中に顕現させる。
「ほぉ、その歳で雷槍を四本か……実験用としては素晴らしい個体だな」
振り向きながら、俺が出した雷槍を確認したグンザークは、先ほどまでとは違い戦斧を正面に構えて対峙してくる。
「女を、泣かせてんじゃねぇっ」
魔力によって強化した足で地面を蹴って宙に踊り出ると、空中から奴の顎めがけて左拳を振り下ろすと同時に、槍を一本射出する。
「ぐっ」
雷槍を回避するために動いた奴の顎に拳が命中すると同時、俺の何倍も重量がある巨体がのけ反り、それに比例するようにして俺の拳は嫌な音を立てて縦に裂けた。
だが、そんな事は関係ない。今はコイツに勝つ……それだけだ。
先ほど同様、魔力を込めて宙に浮き上がると、今度は右足で奴の側頭部を蹴りに行きながら、槍を射出する。
「がっ」
先ほど同様、槍を回避した際に出来た隙をついて、奴の頭を足で蹴り抜くと、グンザークの巨体がよろめき、俺の足があらぬ方にねじ曲がった。
――同時に空中でその様子を確認した俺は、杖を口に
「狂っているな……」
頭から血を流したグンザークが、そう
「腕や足を壊してまで、貴様はこの娘を助けたいのか?だがそこまでやっても、貴様に俺は倒せない」
突きつけられた言葉を事実と受け止めながらも、それでも俺は勝ち筋を探す。
「その残り二本の槍が無くなった時が、貴様の最後だ」
――あぁ分かってるさ、この二本の槍こそが俺の唯一の勝機……だから。
「あああああああああああっ」
先ほどまでよりも高く跳躍すると、残った左足を突き出して落下しながら、残った二本の槍も射出する。
「笑止っ」
グンザークが掲げた斧の持ち手に、俺の左足は受け止められ……頼りの綱である槍が、二本とも奴に躱されて通り過ぎて行くのを見て――全身の力が抜けると同時、俺は壁へ吹き飛ばされた。
『いやーーーっ』
絹を裂く様な叫び声が
――目は既にどちらもかすれて、殆ど見る事さえかなわない
「愚かな、槍が二本とも当たっていれば、幾ら俺とて深手を負っただろうに」
失望した、そう言いたげな声に――俺は、思わず声をあげて笑う。
「何を笑っている?これから死と言う名の敗北を受けようというのに」
不快そうな声をグンザークが出すが、これが笑わずにいられるだろうか?
奴は……俺に勝ったつもりでいやがる。だから、俺は言ってやった。
「ばーか、負けたのはお前だグンザーク」
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