第2話 崩落

 朝、テレビをつけると昨日の出来事が夢ではないということをはっきりとつげられた。でも、やっぱり僕には到底受け入れることができなくて、僕にとってはまるで世界平和を祈るのと同じくらい実感のわかないことだった。どうせ偉い人が考えたドッキリって落ちなんだろうな、なんてふざけたことも考えていた。

 だってしょうがないだろう?ことの真相を僕みたいな庶民がいくら知ろうとしたところで知りえる情報はほんの一握りもないのである。さらに言うと、その一握りの情報ですら嘘の塊だ。この国は、建前ばかり立派に取り繕うような国だから。テレビも週刊誌も何もかもに嘘が盛り込まれている。もちろんそんなことを続けるのは、なんと言っても、お偉いさん方をそれで揺すれるからね。そして、需要もある。結局の所、他人の不幸は蜜の味ともいうくらい人間は噂話が好きなんだ。


 外はどんな状況かと気になってカーテンを引いてみた。僕は目を見張った。なぜなら今まで見たことのないような光景が広がっていたのだ。まるで動物のように、暴れまわっている人々の姿が、そこにはあった。その姿には知性のかけらも見出すことができなかった。


 普段の喧騒とはまるで違う騒がしさに僕は顔をしかめかけたが、これはきっと、あのくだらない日常で受け続けたストレスのせいなのだろうと考えると、なぜか納得できてしまった。監視するほうもされるほうも、同じくらいストレスを感じていたのかも知れない。

 今は皆、建前も何も無くし本音をぶちまけている。それこそ耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言を叫び散らしている。

 いつも思っていたという不満に、隠していた本性、誰に宛てていいのかわからなかった劣等感、エトセトラ……。

 最後くらいは好きに生きてもいいじゃないか、そういわんばかりの行動を彼らはしていた。


 この光景を見ても僕はどうしても自分を傍観者としかとらえることができずにいた。長い間、自分をさらけ出すということをしてこなかったせいなのだろうか。僕は、もう自分がどんな人間だったのかというのを忘れてしまった。幼いころに思い描いていた夢とともにどこかに置き去ってしまったようだ。 

 僕は少し彼らが羨ましくなった。なぜなら、きっと彼らはわかっているんだ。自分がどんな人間なのか、何のために生きていたのか、自分が本当は何をしたかったのか。たとえはっきりと認識してはおらずとも、本能が叫んでいるのだろう。そして、たった今その本能のままに行動をしているのだろう。

 僕は、みんなのようにはなれない。僕は、やっぱりその光景を見ていることしかできなくて、その事実が途轍もなく悲しく思えた。


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