第3話 最期
世界は滅びるのだからと、ここぞとばかりに自らの正義感を振りかざす人が現れた。でもそんなのは、ただの綺麗事で救いようのない、たらればの話でそんなもの僕にとってはただのパフォーマンスにしか見えなかった。
ここまでくると、一周回って結末なんてどうでもいいように感じてしまえてくる。どうせこうなることを偉い人はすべて予測済みだったのだろう、そう思うと僕の頭は一気に冷え切ったように感じられた。どうせこれも想定内の出来事で、この町の地獄絵図とでも呼ぶべき光景も大体予想通り。つまり、この混乱による日常の破滅によって地球は滅ぶのだろうか。
僕にとっての世界とは日常生活だった。それはつまり、僕の日常が壊れることそのものが僕の世界の崩壊なのだ。
だから、日常が壊れた今、僕にとっての滅亡は訪れた。
世界の滅亡を嘆き、喚いたところで世界の崩壊が止まるわけじゃない。だから悲劇のヒロインぶったところで、パフォーマンスにしかならない。しいて言うなら、嘆くほど、この世界が好きだったという人の図が出来上がるということだけだろう。
今日は滅びの前日だからなのか、やけに町を照らす夕日が寂し気に見えた。今日はいつもほとんど見ない空をたくさん見ているような気がした。夕暮れの空に浮かぶ星はとても綺麗で、それを眺めているうちに、漠然とだが、僕の夢と願いを少しだけかなえることができたような気がした。
ついに偉い人も本性をさらし始めた。滅亡予言の前日の深夜のことだ。今まで積もりに積もっていた、汚職の数々が面白いほど出てきた。今までよく気づかれなかったなと思うほど、大きなものもあったのだが、そういうものはやはり週刊誌の記者に見つかるそうで、明らかによくないものは、賄賂を贈ってどうにかしていたらしい。
これら以外にも多くの偉い人(数々の著名人を含む)の虚言が詳らかにされた。
そうして最後の日には嘘が消えて綺麗な世界になった。
誰もが願ったはずの世界は何事もなく朝を迎えた。
「おかえり」
何気なく、僕はつぶやいた。
僕はなんとなく、外の様子が気になった。カーテンを引くと、まぶしい朝日が薄暗い僕の部屋に差し込んだ。世界には日常が戻ってきた。
しかし、町には肩を落とした人たちの姿であふれかえっていた。駅に向かって歩いているサラリーマンは今日も辛そうだ。
誰もが『明日』を望んでいたはずなのに、その明日が来れば、なぜか皆同様に残念そうにしている。昨日号泣していた人たちもなぜか期待が外れた、とでも言いたそうな表情だ。
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