第10話

 宿屋での食事を終えて、早速ドラゴンが居ると言われている洞窟へ向かう。

 洞窟の中はじめじめとしているが、光る苔があちこちに生えているおかげで明るい。魔法の使えないアイカでも、ランプなど使わずに一人でスタスタと歩けるほどだ。


「すごいねー!光ってる!魔法いらずだね」


 のんきなことを言いながら先陣を切っているが、ぶんぶんと鞘に入ったままの剣を振り回している。いや、もはや剣ではない。棒…棍棒か。

 そしてもちろんながら、魔物を倒しながらである。倒した後の魔石はシュウがせっせと拾いながら歩いている。

 アイカは魔物を飛ばし過ぎてしまうことがあるためシュウは空間魔法で調整をしているのだが、これまた見事な調整の仕方だ。道なりに道の真ん中を歩いているままで全ての魔石が回収出来る。にも関わらずアイカの手助けは決してしない。この王子がもしもこの国の王になったら国は滅びる気がする。

 そしてその後ろにカロリーナとロイが続いている。二人は特に何もすることがなく、洞窟内へ散歩に来たと言ったところか。楽だが…手持ち無沙汰でもある。


「暇ですわね」


「暇だな」


 そんなことを言いながらてくてくと二人に着いていく。たまに後ろからやって来る魔物をちょいっと倒しながらしばらく歩くと、この洞窟の最奥であろう入り口に着く。


 少し小さな入り口を覗くと、その場所はとても広く天井もかなり高い。涼しげな水音が聞こえる、何もないが澄んだような空気の場所であった。

 そして奥にある小さな湖の側には巨大な物体。ドラゴンである。目立った動きが見られないので今はどうやら睡眠中のようである。


(静かに行動しましょう)


 シュウが皆に向かってこそっと言ったはずなのだが、一名それを聞いてない勇者がとてててとドラゴンに向かって走って行った。

 想像していない行動に、誰も止められることなど出来なかった。


「ドラゴンさん!触らせてー!!!」


 アイカの声に目が覚めたらしく、ドラゴンがゆっくりと起き上がる。


「我を起こすのは誰だ」


「わたしはアイカ!ドラゴンさんのお名前は?」


「名など無い。お主は…勇者か?聖女か?」


「勇者だよ!」


 何故かドラゴンと会話をし始めたアイカを見て、置いてけぼりの三人は頭を抱えた。


「この数ヶ月で何となく分かっていましたが、アイカは規格外ですよね…」


「シュウの仰る通りですわ…何だか頭が痛くなってきましたわ」


「俺も…」


「ひとまず、アイカに勇者の剣を渡して来ます」


 いまだにドラゴンと会話をして、何だか仲良くなりつつあるアイカに近付くシュウ。ドラゴンと向きあうのは正直怖い。心臓はドキドキと激しく鳴っていたが、顔だけは冷静さを装ってアイカへ勇者の剣を渡した。


「ありがとう、シュウ。ほら!勇者だったでしょ」


 シュウから渡された剣をほらほら!とドラゴンに向かって見せつける。今のところドラゴンが攻撃してくる様子は全くない。


「ふむ…お主はなかなか面白い色をしている。して、今日は何用だ?機嫌が良いのでひとつなら何でも応えてやろう」


「触らせて!」


「アイカ、違いますよ…」


 ドラゴンの問いかけに己の欲望を即答するアイカに呆れながら釘をさすシュウ。アイカのせいでドラゴンの恐怖はもうどこかへ消し飛んでしまった。


「え、えっと………あっ!鱗を分けてください!」


 目的をようやく思い出したアイカにうんうんと首肯くシュウ。いつの間にか近くに来ていたカロリーナとロイはそんな二人を呆れたような冷めたような顔で見ていた。


「良いだろう」


「ありがとう!あ…で、でも痛くない?鱗剥がすの痛かったらいらないよ」


「種族の違う他者に寄り添うか…聖女のような勇者だな。鱗は剥がれるものだから痛くはない。ほら、持っていけ」


 そう言ってドラゴンはアイカに自分の体を差し出した。

 アイカはそれはもうキラキラした瞳でドラゴンの体を触りまくって堪能した頃にそっと鱗を取った。その鱗はアイカの手よりも大きく透き通った水の色をしている美しい鱗だった。本来ならばこんなに簡単に手に入るものでは、ない。


「ドラゴンさん、本当にありがとう!また来ても良い?」


「好きにしろ」


「ありがとう!またね」


 そしてドラゴンに別れを告げて元の道を戻る。


「…って、こんなんで良いのか?!」


「良いんですよ。何たって勇者アイカですから」


「そうですわ。これが現実ですわ、ロイ」


「何か皆、仲良すぎないー?わたしも混ぜてっ!」


「「「アイカの話だからっ」」」


「え?えへへー」


 本日もアイカは絶好調でメンバーを呆れさせるのであった。

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