第8話

 そんな週末を何度か過ごし、アイカが召喚されて二ヶ月が過ぎたある日。アイカは見るからにしょんぼりとして異世界へ来ていた。


「どうされました?アイカ」


 カロリーナがそっとアイカの頭を撫でながら質問する。


「それがね…テストの結果が悪すぎて…夏休みが来週からの一週間しかないの!

あとはずーっと夏期講習が入っちゃった…。ごめんね、みんな…。

一カ月はこっちで勇者やれると思ったんだけど、一週間しかなくなっちゃった。

でも、休みの一週間はこっちで過ごすよ!」


「あら?一週間もご一緒出来ますの!?どこに行きましょう!」


 アイカの大事な言葉はそこではないはずなのだが、いつもは二日しか滞在しないアイカが一週間もこちらで過ごせるのは長期休みの期間しかない。カロリーナの反応にも頷ける。


「カロリーナ、はしゃぎすぎです。…とはいえ、せっかくの機会ですから少し遠出をしましょうか。

隣国が海の向こうに見える、海の側である水の都オーキアスへ」


 思っていた以上にシュウもアイカが長期間こちらに来ることが楽しみだったようだ。


「わーい!海の近くっ!楽しみー。水着でも準備しようかな」


「それは良い案ですわ!アイカの分もわたくしが準備しておきますわ!お揃いにしましょう」


「いいの!?ありがとう、カロリーナ!楽しみだね~」


「…遊びに行くのではないのですが」


 女性二人が楽しそうに話しているのを微妙な顔で見ながらぽつりと小さく呟いたシュウの言葉を、ロイだけは聞き逃さなかった。楽しみなのかと思っていたがそうではなかったようだ。


「ちょっと聞くが…もしや依頼か?」


 ロイの質問にシュウは言葉に出さず、こくりと頷いた。


「素材の依頼なんですけどね。…ドラゴンの鱗」


「!?!!?」


 ロイは驚きすぎて言葉が出せず、すーはーと何度か深呼吸してからシュウに向きなおす。


「あー…それはちょっと…冒険しすぎじゃないか?」


 この二ヶ月で高レベルのダンジョンや素材集めを積極的に行い、アイカは超最短最速でシュウと同じBランクにまでなっていた。シュウの身分を利用したズルもほんのちょっと…したのだが。

 しかし、ドラゴンはレベルが段違いである。


 ドラゴンは洞窟の奥にある湖を守る神ともいわれている竜族である。ちなみに竜族の他には人族、魔族、エルフ族、ドワーフ族などである。

 そしてドラゴンの守る湖の地下には宝石のような金属が眠ると言われている。

 その金属は『ハーネット』と呼ばれ、水晶のように透き通った石のようで金属の性質を持つ特殊な素材である。

 ハーネットは最強で最高の素材と言われており、誰しも一度は目にしてみたいSランクの特殊素材だ。

 湖に入るには守り神であるドラゴンの許可を得られないと入れない。一部例外はいるものの、非常に好戦的なドラゴンの許可を得るにはたいていドラゴン自身に力を見せることである。要はドラゴンと戦えということだ。


 …金属の話はこれくらいにして、素材の依頼はドラゴンの鱗である。ドラゴンは年齢に応じて体格も大きくなり、強い。

 冒険者ギルドで依頼がある場合はSランクとなる。


 そう、Sランクなのである。今までとは段違いのレベルである。

 現在のアイカ率いるパーティのランクはA。冒険者ランクAが二人とBが二人なのだが、シュウの実力を鑑みるとパーティランクとしてはAとのギルドの判断だ。

 パーティでAということはSランクの依頼を行うには挑戦にしても難易度が高すぎるランクと言える。


「勇者の剣があるので大丈夫でしょう…と、奮発してしまったんですよね」


「言いたいことは分かるが言葉の使い方違うぞ…」


 殊勝な言葉を吐きつつもにこやかな笑みを浮かべるシュウとは対照的にがっくりと肩

を落とすロイであった。

 女性は女性で盛り上がり、男性は男性で話がついたようである。

 翌週が楽しみなメンバーであった。(一人除く)

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