第6話
実はダンジョンに着くまでの道すがら、アイカの世界のことやガクセイ、コウコウ、週末の数え方や日数などをアイカに尋ね、アイカは剣が入っていた明らかに普通サイズの収納バッグの仕組みやどうして三人で行動していたのかなど、お互いの話をして盛り上がったのだった。
さて、今回の初心者向けダンジョンは洞窟のような入り口で、地下へ降りていく形になっている。中に入ると、やはり洞窟内のように少しひんやりとしていた。そして、暗い。
シュウが≪照明≫と唱えると手の平サイズの明かりの玉がふわふわと空中に浮かんだ。
「おお~!すごい!シュウすごいね!便利!」
「魔法が使える者なら誰でも出来る魔法ですよ。先に進みましょう。魔物はアイカに任せますからね」
「「えっ!?」」
思わず声が出たのはアイカではなく、カロリーナとロイである。
「何ですか?アイカの実力が見たくて来たのに、僕たちが手を出しては意味がないではないですか。
危ないと思ったら助けますから大丈夫ですよ」
「そ、そうですわね」
「任せた…」
勇者が弱いとは思っていないが、見た目が…やはり戦えるような女性には見えず、二人は内心狼狽していた。
何かあったら守ろうと、気を引き締めるのであった。そんな二人のことなど気にする様子もなく、アイカは進んでいく。
「うーん…倒せるかなー?わたしの世界ってさ、殺傷はダメ!なんだよ?切るとか倒すとか出来る気がしないな~」
「ふむ…魔族は別として、魔物は動物よりも狂暴な顔付きをしていたり、明らかに動物とは違う見た目だったりするのでアイカの世界の生き物とは違うと思います。放っておくと人を殺しますし」
「え?それは倒しておかないと危ないね。うーん…頑張ってみるね」
「お願いします…と、早速出ましたよ」
出たと言った前方を向くと、ぷにぷにとした水色の塊がもごもごと動いていた。
「うぇー…何か気持ち悪い。ていっ」
軽い掛け声で鞘に入ったままの剣を横に振った。それはもう、棒を持った子供が飛んできた玉を遠くへ飛ばすかのように振った。
ヒューン………べしゃっっっ
ぷにぷにとした塊がアイカの剣によって飛ばされ、鈍い音を立てた後は動かなくなった。そして、シュンッと物体が消えて、小さな石がその場に落ちていた。
「何これ?」
遠くに飛んだため、小走りでその場までアイカは駆け寄り、落ちていた小さな石を拾ってアイカはシュウに尋ねる。
「それは魔石です。魔物を倒すと魔石という石が手に入るんです。
その魔石は加工して武具に使ったりしますが、一番多いのは日常魔法の代わりに使用することですかね。
手に入れた魔石は色が青いので水魔法の力があるんですよ。水道の蛇口の開閉に使ったりしますね」
「へー!すごいんだね、このちっさい石」
いや、それよりも何よりも何だその剣の使い方は。剣の使い方ってそれで合ってるのか?そのことに突っ込まないシュウもどうなってんだ?と、カロリーナとロイは二人で顔を見合わせたり、アイカとシュウを見たりとキョロキョロとしていた。
そして、耐えきれずに先に言葉を発したのはカロリーナだった。
「ア、アイカ?あああの、その…剣が武器?武器は剣?…で、宜しいのかしら?」
うん。何が言いたいのか分からない。だが、充分に混乱しているのだけは伝わったようだ。ロイはお手上げだといったように両手を上げたポーズを取っている。シュウは何も答えず、アイカのことに関してもう驚きはしないといった態度だ。
アイカはきょとんとしたものの何故か照れた顔になってカロリーナに答えた。
「剣士にしたから武器は剣かな?って。えへへ。
でもね、剣なんて使ったことないし…中学まで野球やってたから、バットみたいに振ればいけるかなーって」
「そ、そうですの」
いや、そこで納得してはいけない。しかし、もう何を言っても聞いてもこれ以上の答えなど意味を持たないだろう。アイカの雰囲気で何となく察したカロリーナはロイと目線を合わせて首を振った。二人はそれ以上のことは話さずただアイカに着いていくだけだった。
しかし、初心者向けのEランクとはいえ魔物は魔物。その魔物をいともあっさりと一振り?で倒したアイカを見て、本当の勇者だったんだ…と改めて実感したのであった。退治方法はアレだけれども。
それから結局、三人の手を借りることなく、ものの数時間で地下五階のダンジョンをクリアしてしまった。
道中の魔物は皆で会話をしながら剣をぶんぶんと振り回して倒していくし、最深部のボスといえる魔物ですら『えいやっ』と少し気合いの入れた一振りで終わった。
アイカの戦い方で問題があるとすれば、魔物が遠くに飛んでいくことだろうか。いや、飛んでいくって…。
そして薄暗かったダンジョンからまだ明るい外へ出た後、アイカの最初の言葉が『お腹減ったぁ』であった。その言葉にシュウは苦笑し、カロリーナとロイはへなへなと力が抜けたのは言うまでもなかった。
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