第5話
「あ、その前に俺らも勇者に挨拶させてくれよ」
「そうですわ、気が急きすぎでしてよ。
先にわたくし、マルロー侯爵家のカロリーナと申します。
わたくしの職業は魔導士。攻撃魔法専門ですわ。これからよろしくお願いしますわ、アイカ様」
「俺は…」
そう言って、男性は徐に目深に被ったローブをバッとかきあげた。そこには金の長い髪で淡く透き通ったブルーの瞳、普通の人間とは違うやや尖った耳と口調に似合わない綺麗な顔。
「見た通りエルフの、ロイだ。呼び捨てで良いぜ。
俺はアーチャー。この二人には劣るが魔法全般も可能だ。よろしく、アイカ嬢」
そして、また黒いローブを被りなおす。
「エルフ!?すごいすごい!ファンタジーの世界~!
あ、改めましてわたしはアイカ。様とかつけなくていいよ。アイカって呼んで!
まだこの世界のことは分からないけど、勇者として魔王を倒してって言われました!
ただ、わたしは学生なので勇者になるのは週末だけなんだけど…よろしくお願いしますっ!」
アイカの挨拶を聞いてカロリーナとロイの二人はカチーンと固まる。
「「し、週末?だ、け?の勇者?」」
「そう!だって、高校は何としても卒業しないといけないから…」
「「そ、そう…」」
アイカが語る言葉すべての意味が分かっているわけでもないため、どう反応して良いか分からず、二人は思わずシュウの方へ顔を向ける。
シュウは困った顔をしながら、カロリーナとロイに説明をする。
魔王の復活により勇者を召喚することになったこと。召喚されたのはアイカだったこと。ガクセイやコウコウとはよく分からないが、おそらくこちらの学園のような場所で、
卒業出来るように配慮しないと勇者になってもらえないこと。その結果が週末だけ勇者としてこの世界に来ることになったこと。
シュウが話すにつれて、二人が徐々に肩を落としていくのが見てとれた。
「そ、そうですの…いろいろ理由がありますのね」
「あー…まぁ、あまり気負わずに過ごせそうで良かったぜ」
「…そんなわけで、アイカの能力を見たいことですし、ダンジョン攻略に行こうと考えています。二人もお付き合いくださいね」
力の抜けた二人は苦笑しながら、シュウの言葉を了承したのであった。
早速、一階の冒険者ギルドへ降りてアイカの冒険者登録をする。職業は散々迷ったが、剣士となった。
剣士を名乗った時に窓口のお姉さんはさすがに不振に思ったが、シュウと他二人がパーティメンバーとして登録するとのことで、特に何も言われずに冒険者登録が出来た。すごい、このメンバー。
その後アイカが使いやすそうな剣を見繕い、今はダンジョンの入口。地下五階までの初心者向けダンジョンである。
ダンジョンにもランクがあり、すでに攻略されているダンジョンは魔物の強さでA~Eでランク付けされている。
未攻略のダンジョンは未知のため特級のSランクに設定されている。ちなみに初心者向けはEランクである。
冒険者も同じくランク付けされており、アイカは登録したてのためEランク。シュウがBランクでカロリーナとロイはAランクの上級冒険者である。
Sランク冒険者はこの国に数名程度、Aランク冒険者は数十名程度でBランクは数百人程度、以下はかなり大人数である。三人はかなりの能力の持ち主ということになる。
実際のところ、シュウはSランクと言っても過言ではない魔力の持ち主だが、補助魔導士ということもあり本人がBのままで良しとしており、それ以上の申請をしていないだけである。
Aランク以上になると国や冒険者ギルドからの強制召集があるため、面倒だということもある。滅多に出ないはずのSランクの魔物が出た際には必ず呼ばれるし、スタンピードが発生すると強制召集となる。あちこちに強制的に行かされる、もとい飛ばされることが多いのである。
アイカは勇者のため本来であればSランク冒険者に匹敵するであろうと思われるが、こればっかりは実績を作らないとどうしようもない。今日はとにかく実力を見るためのダンジョン攻略だ。
「魔物自体はそんなに強くないと思いますので、気楽に行きましょう」
「りょーかいっ!楽しみだよ~」
遠足にでも行くかのように楽しそうなアイカを見ながら、三人は何だか和んでいた。
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