第4話
アイカがぶーぶーとシュウに文句を言いながら二人で冒険者ギルドへ入ると、男女のペアに声をかけられる。
男は黒いローブを目深に被っており、長い金の髪が垂れているのは分かるが顔の半分が見えないため表情は分からない。
女はワインレッドでふんわりと少しウェーブがかかった長い髪を高めの位置でひとつに束ねており、冒険者と呼ぶには似つかわしくないフィッシュテールワンピースを身に付けていた。瞳は透き通ったボルドーの色で、少し猫目の美人である。
「シュウ!待ちましてよ。突然集合と言われましても、わたくしにも都合がありますわ」
「おーっす、久しぶりシュウ。そっちのちっこい女性は?」
「カロリーナ、ロイ。お待たせしてすみません。こちらの女性はアイカ…さんです。詳しい話は三階でしましょう」
「ふーん」
「そうですのね。分かりましたわ」
冒険者ギルドの三階は結界魔法が施されている部屋。部屋の外には決して音が漏れることのない密室の部屋である。
三階の部屋を使うということは、誰にも聞こえてはいけない秘密の話があるということ。カロリーナとロイに少しだけ緊張が走るが、シュウと共にいる少女ともいえるくらいの小柄な女性にそんな重要な秘密があるのか?と不思議に思う。
三階へ行きその部屋の扉がぱたんと閉まると、部屋全体が白っぽい靄でおおわれる。
「え!?何これ?すごーい!」
アイカ、と紹介された女性が瞳をキラキラさせながら驚いている。ワクワクしているようにも見える。
「アイカ、大人しくしていてくださいね」
「うっ…はい」
すでにシュウに調教された後のようである。アイカと呼ばれた女性を見て二人は少し憐れんだ。
「では、改めまして。こちらの女性は『勇者』のアイカさんです」
「「…え?」」
きょとんとして二人は目を合わせる。
「はーい!勇者として呼ばれました、アイカと言います!
ね、シュウ。こちらの二人がよくパーティを組んでいるって言ってた人たち?」
「そうですよ、アイカ。だから、大人しくしていてください、ね?」
若干黒いオーラが見えた気がしたアイカはお口にチャックをして、大人しく椅子に座り直す。
そんなアイカを見てシュウは気を取り直し、コホンと軽く咳払いをして二人の方に向き直す。
「驚いたとは思いますが、正真正銘『勇者』です。この…勇者の剣が証明になると思います。
アイカ、この剣を抜いてもらえますか?」
ゴトリと収納バッグから取り出した勇者の剣を机の上に置く。
シュウが言った言葉の意味を知っている二人に緊張が走る。
「ん?また?いいよー」
しかし、アイカはそんな気の抜けた返事をして、またしてもあっさりとその剣を鞘から抜いた。
「「!!!」」
認めざるを得ない。本当に勇者である。勇者でなければ勇者の剣は抜けないのだ。
「…と、いうわけでこれから僕たちときちんとパーティを組んでもらいたいのです」
「そりゃ、断れないだろ」
「わたくしも構いませんけれど…わたくしでよろしいですの?」
「それはもちろん。僕の能力ではアイカの力にはなれません。
それに、まだアイカの能力は未知ですし」
またお口にチャックをしたアイカは二人に向かって首振り人形のようにこくこくと首を上下させる。
「ありがとうございます。…アイカはもう喋っても良いですよ。
さ、それでは冒険者ギルドに登録に行きましょうか。アイカの冒険者登録とパーティメンバーの登録です」
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