第3話

「やっほー!来たよ~」


「お待ちしていました」


「あれ?この前の時におうちに帰してくれた人?何か…違う人みたい」


 この世界に呼ばれた時に見たのは青い髪と綺麗な緑の瞳だったはずが、今日はどちらも茶色に変わっていたのだ。


「ああ、すみません。普段は身分を隠すために髪と瞳の色を変えて過ごしているんです」


「ふーん?よく分からないけど、先に名前を聞いても良い?」


 しかしアイカにとってみれば、彼が何者か知らないので身分と言われてもピンときていない。それよりも話をするのに名前が分からない方が困る。…アイカの優先順位って何だろうか。


「シュウ、と呼んでください。僕も貴女に名前を聞きたかったんです」


「そうだったね。わたしはアイカ!これからよろしくね」


「よろしくお願いします」


 無事に魔法陣を発動してこの世界へやって来ることが出来たアイカ。知り合いが一人もいない世界へ来るため緊張していたかと思いきや、思った以上に普通に登場したアイカにシュウは興味をかきたてられていた。


「早速で申し訳ないのですが、この剣を抜いていただけませんか?」


 シュウはそう言って抱えていた『勇者の剣』をアイカに渡す。

 見た目は宝石などの装飾が多い派手な剣で、やはり少し重い。彼女には重いかもしれないと、手渡すのを少し躊躇ったがアイカはそれを軽々と片手で受け取った。そして「これ抜けば良いの?」と軽い口調で尋ねたかと思うと、するっとその剣を鞘から出した。


「!」


「これだけで良いの?」


「ええ…これで間違いなくアイカが勇者だと証明出来ました」


「ねーねー、私は何すればいいの?」


「ひとまず、ダンジョン攻略から開始しようと思っています。そのために冒険者ギルドへ行って冒険者登録をしましょう。

その時に僕がよく組んでいるメンバーを紹介します」


「分かった!冒険者って響き…カッコイイね!あ、その冒険者ギルドって…何か武器は売ってるかな?」


 実はアイカ、元の世界に戻った時に勇者が冒険をする本を一冊だけ読んでいた。…数ページだが。活字を読むと眠くなるため読みきるのは無理だったのだ。漫画を読めば良かったのに。

 そこで知ったことは、敵と戦うということ。それには武器が必要だと思ったのだ。


「売っていますが、勇者の剣では不都合がありますか?」


「えっと…もうちょっと持ちやすくて、シンプルなのが良いなーと思って」


「あぁ…そうですね、たしかに装飾が多くて重い剣ですしね。武器も見せてもらいましょうか」


「うん!装飾の割には重たさは感じなかったけど、飾りが取れて弁償しなくちゃいけなくなったらイヤだもん!あ…武器のお金ってどうしたら良い?」


「あはは。勇者に払ってなんてもらいませんよ。それに、冒険者ギルドで依頼を受けて達成すれば依頼料も貰えますから気にしなくて大丈夫です」


「そうなの?良かったー!こっちのお金を持ってないし、どうやって稼ぐのかも分からないからどうしようって思ってたの。

あ、あとね、その…もう少し気軽に話してもらえない?わたし、そんなに偉い人じゃないし…もっと仲良くなりたいなーって…」


 まさか勇者からそんな言葉が出てくるとは思わず、シュウは驚いた。


「すみません、これは癖なので変わりません。でも、仲良くはしましょう」


 ニッコリとあまりにも綺麗な笑みでシュウが言うので、アイカは思わず口に出してしまっていた。


「シュウの笑顔って何か黒いっっっ!」


 アイカには黒い笑みに見えた。するどい勘は勇者ならでは、かもしれない。あながち間違っていないのである。


「そんなことはありませんよ?では行きましょうか」


「う、うん。よろしくお願いしますです…」


≪転移≫


「え?」


 アイカがシュウの手を取った途端、ふっと二人の姿がその場から消える。そして二人は冒険者ギルドの建物の前に立っていた。

 シュウが転移魔法を使ったのである。扉の前でキョロキョロキョロキョロと挙動不審な行動をするアイカはそんなことを知らない。そんなアイカを見ながらくすくすと笑うシュウ。先ほどのアイカの言葉に報復をしたのである。やはりちょっぴり腹黒なのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る