第2話

 約束、と言われてもどこまで信じれば良いのか王家の魔導士は考えてあぐねていた。

 勇者の言葉に答えなければならないが、王家の魔導士といえども召喚魔法は一級を超える特級の魔法のため、一日に何度も出来るものではない。今日は帰せないと伝えて、そのままこの国へ居てもらえないかと考える。

 しかし、そんな魔導士の思いとは裏腹に王子があっさりと勇者の要望を了承してしまう。


「良いですよ。僕があちらの世界へお送りしましょう」


「ホント!?嬉しい!ありがとう!」


「いえ、こちらが呼んだのですから当然です。そして、元の世界からこちらの世界へ来る時はこの魔法陣を使用してください」


 そうして王子から彼女に渡されたハンカチサイズの小さな布切れ。そこには先ほどの魔法陣が描かれていた。


「どうやって使ったらいいの?」


「勇者ならば念じれば発動されると思います。

ただし、一日に一度のみですので、その日のうちに行ったり来たりは出来ません。

そこまでは出来ませんでした、すみません。

ドヨウ?に使ってみてください。ではあちらの世界へ送りますね」


「分かった!本当にありがとう!また来るね」


 そう言いながら、王子がさくっと作った召喚の魔法陣の上で『ばいばーい』と手を振って彼女は光の中に消えていく。


「何をしておるのだ、シュートリッヒ!」


 呆気にとられて呆然とただただ目の前の出来事を見届けていた王様が、ハッと意識を取り戻し王子へ向かって叫ぶ。


「何って…勇者を帰しました。帰りたがっていましたし、週末になったらこちらへ来ると言っていましたしね。

彼女ならまたこちらへ戻って来ると思いますよ」


「ぐっ…しかし、本当に戻って来れるのか?お前が言うなら間違いはないと思うが…」


 シュートリッヒと呼ばれた王子は爽やかに微笑みながら、父である王に向かって答える。


「大丈夫です。予定した日に先ほど渡した魔法陣が使われなければ、次は僕が召喚の儀を行いましょうか?それでも、他の人ではなく彼女がやって来ると思いますが。

…勇者の剣が震えていましたから」


「!それなら間違いないな。ちょっと…想像していたよりも小柄で…女性だったが…お前が言うなら信じよう」


 先ほど彼女に渡せなかったが、シュートリッヒが持っているのは『勇者の剣』。王家に代々伝わる家宝とも言える剣である。誰でも使えるわけではなく、その名の通り勇者にしか鞘から抜き出すことすら出来ない。

 その勇者と一対とも言える剣が震えていたのだ。持ち主が来たことを喜ぶかのように。


 この『勇者の剣』はこちらの世界しか存在出来ない物で、この剣を鍵として繋がる者を呼び寄せるのだ。召喚の儀で使用した魔法陣や、先ほど勇者に渡した布に描かれていた魔法陣はまさにそうだ。


(彼女が勇者で間違いないです。嘘も吐いていないので必ずあの魔法陣を使ってこちらに来てくれます。…が、名前を聞くのを忘れていました)


 名前すら分からない彼女と早くまた会いたいなと思いながら剣を抱えなおす。


 シュートリッヒ・ランデイはこの国の第三王子である。第三王子でありながら召喚の儀に参加していたのには理由がある。

 彼は王家の魔導士を超える魔力の持ち主であるのだ。しかし、その良さを帳消しにするかのような魔法能力。

 それは、補助系魔法のみしか使えない魔導士なのである。治癒能力やサポートは天下一品だが、攻撃は全く出来ないというこの世界では何とも残念な魔導士なのだ。

 とはいえ、そのおかげで勇者はあちらとこちらの行き来が出来る物を手に入れることが出来たのだが。

 勇者の剣がキーとなるとはいえ、召喚魔法はかなりの魔力が必要となる。あっさりと行えるシュートリッヒはちょっと規格外なのだ。

 ちなみに彼女の嘘の有無も見抜くことが可能だ。そのため、あれほど自信を持って彼女が戻ってくると父である王に向かって言えたのである。


 そんな女子高生の週末勇者と残念な凄腕補助魔導士王子とプラス2名で結成されるパーティの魔王討伐物語である。


 ………たぶん。

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