51.従属魔法【3/17】

 俺たちはアメリカ・ラボの整備をしつつ、世界中から貧困に瀕している人たちや虐待を受けている人たちなどを救助していっている。

 MITの教授陣にも協力を仰ぎ、ラファエルレイフ大統領の認可も受けて、当初計画していた未来都市構想の計画を実施に移すことにしたのだ。

 地下の施設だとどうしても不便だし、子供たちはお陽さまのもとで育ってほしい。

 ニック・ブライト中将宇宙軍司令と話し合い、ピーターソン・スペース・ベースの近くに土地を確保して、さっそく建設を始めた。


 200人からの建築スキルはすさまじい。

 あっという間に都市が出来上がってしまった。


 俺たちにもそれぞれ住居を割り当てて、そこに住むことになった。

 水と電気は自前で発電している。

 巨大な水燃料発電システムも建設された。

 ここの電力は都市を維持するために使われるのはもちろんのこといざというときは全米に電力を供給することができるものにしている。

 都市内の移動はELWの改造車『上忍』を中心として独自に開発した電気自動車やバイク、魔導バイクなどでまかなっている。

 食料など自給できないものは、集配送センターを作ってそこで一括に買い入れて各家庭に配っている。

 日用品の類はここで供給することにしている。

 またそれら施設を運営するために、救助した人たちが働いているが、数はその規模に比べて相当少ない。

 全てオートメーションでコンピューターを使った管理ができているため、輸送チューブを使って各家庭に届けられることになっている。

 買い物がしたければ都市へ車かバイクで移動するか、テレポートを利用して買い物に出かけている。

 テレポートはあまりにも一瞬で到着してしまうので味気ないと不評で、もっぱらバイクや車を利用する人が多い。


 今週の水曜日には新しいスキルも授かった。

【従属魔法】

『相手を従属させることができる。従属を解くことができる。』

 う~ん。これって必要かな?

 いろいろ考察して使い道はあった。


 それまで『依存』していたものから脱却させることができるようだ。

 結構な頻度で人は何かに依存して生きている。

 それが悪いわけではないが、それも度が過ぎると依存される側に大きな負担を強いることになる。

 これはこれでまた使い道はあるだろう。


 いよいよ来週で週刊スキルメールも最後のはずだ。

 今日まですでに51ものスキルを授かっている。

 人の才能と考えるとトンデモない数だ。


 ここのアメリカ・ラボに入居している人たちはラーニングと鑑定、転移までしか教えていない。

 ほかのスキルは無尽蔵に教えると危険を伴う場合があると判断したからだ。

 もし自分に危険が起こった時にはすぐに逃げ出せるように転移だけは授けておいた。


 魔道具としてだが。


 腕時計にその人の個人認証をつけて、マジックボックスと転移と鑑定を施してある。

 いずれこの町を去ることもあるかもしれないが、その時には申し訳ないが洗脳を使ってこれらの便利道具やスキルのことは忘れてもらうつもりだ。


 女ばかりの街なので、男も増えてくれればいいなと思うけど、もともとが男性に虐待されたり虐げられていた人ばかりの所為で、それを言うのもはばかられた。

 自然にお付き合いできるようになればなと思う。

 MITの教授たちでも独身の人たちは自然に伴侶を選んでいるようだ。

 中には研究を放り出してのめり込んでいる人たちもいたのだが、従属魔法を使って依存から解放すると穏やかに収束していった。

 ほどほどの距離というのがつかめてきたらしい。


 俺としおりはいつも一緒にいる。

 俺は意を決してしおりに告白することにした。

 どうせ一度は振られているんだ。

 来週で俺がどうなるかわからないし、今告白しておかないと後悔しそうで怖かった。


 俺はひそかに一軒の家を未来都市の中に作った。

 少し小高い丘の上で、周りからは大分離れている一軒家だ。

 そこまでELWでしおりと二人で出かけて、その家を見せて俺は言った。

「俺はしおりのことが好きだ。それは出会ってから今まで変わらない。俺と結婚を前提に付き合ってほしい。そしてできたらこの家で一緒に暮らそう。」

 と。


 俺は今にも「いや!」と叫びながら逃げていくしおりを幻視していた。

「いつ告白してくれるのかと思ってたよ。」

 そう言ってしおりは俺にキスしてくれた。

 しかし、俺が弱気になっていることを見抜かれていたようで、

「この時期になって告白するってことは来週何か起こると思ってるのね。道理で最近ノリ君の資産を整理したり、全員にラーニングしてると思ってたんだ。でも、私に告白したんだから、私を置いてどっかに言っちゃだめだよ。」

 そう言って抱きしめてくれた。


 俺はよほど不安になっていたのか、涙がぼろぼろとこぼれた。


 何があっても帰ってこよう。

 俺が世界を相手取ってケンカしてまで守った家族がここにいるんだから。

 俺は未来都市を眺めながらそう考えていた。

 今この都市には5万人の保護された人たちが暮らしている。

 このままでいけばあっという間に10万人は超えるだろう。

 出来れば全員が幸せになってほしい。


 人の幸せは人によってさまざまだ。

 俺は俺のできる限り、虐げられている人を救っていきたい。

 しかし、『平等に』とは思っていない。

 それは俺たちにできることには限りがある。

 俺たちの気づかないところで虐げられている人もまだまだたくさんいるだろう。

 だから俺たちは「相手を尊重し敬える」教育をして、啓蒙活動を続けていくつもりだ。


 世界中のウソを暴き、罪を償わせて、その先は仲良くなればいい。

 そんな世界が来ないかなと思っている。


 人を殺した人間は同じように殺されてもおかしくないだろう。

 そこまでの覚悟が必要だ。


『怒り』の感情だけで相手を傷つけたり、『優位』を保ちたいがために相手を貶める。

 そういう相手には断固として暴力を使ってでも、やめさせる。

 俺たちにはその力がある。

 力を振うものには力で対抗する。


 人は平等ではないし、差別は実在する。

 これからも格差社会はどんどん加速していくだろう。

 しかし、努力し続ける人間にはそれなりの世の中が待っている。

 そうしないと誰も努力しなくなってふてくされてしまう。


 人はお金がないと暮らしていけない。

 そういう社会構造になっているからだ。

 これは一人の人間では生きていくのに十分な食べ物や家、物などがすべては作れないからだ。

 誰かと交渉して生きるための様々なものを自分の努力を対価として交換していく。

 その繰り返しが人の歴史になる。


 そして人間は元来ナマケモノにできている。

 何とかして少ない努力でそれらを賄えないかといろいろと考える。

 それが技術の発展を促し、人類を進歩させている。


 人を救うのは神じゃない。


 人を救えるのは人間だけなんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る