50.洗脳魔法【3/10】

 今日は3月10日水曜日だ。

 朝からスキルを確認してショックを受けていた。

【洗脳魔法】

『人を洗脳することができる。人の洗脳を解くことができる。』

 これはまたやばい名前がついた魔法だな。

 でも、この『人の洗脳を解くことができる。』という部分は結構使えるだろう。


 でも、確かに洗脳に近いことはやってた自覚がある。

 遮二無二命の危険を回避するためとはいえ、それがスキルになって表れたのか…。


 今日はWitch、Drop、Brainmen、そしてSkipping Dog、Fairy Feastの5バンドから一斉にCDが発売される。


 ネットでの販売に限定し、PVなどもネットですでに流していた。

 先行予約だけで100万枚を軽く超え、米国市場向けの英語バージョンと合わせると300万枚を超えるセールスを記録している。

 美智さんのところのスタッフは増員に増員を重ねて先行予約特典のフライヤーとソフビ人形を同封する作業に追われていた。


 アメリカにも同様の部隊はいるが発送のみの作業をしている。

 ここで手伝いを申し出てくれたのが保護をした600人を超える女性たちだった。


 俺は彼女たちが少し苦手だ。

 始めにかなり罵りを受けたこともその一因だが、治癒魔法でなりふり構わず治療したことで、まるで神にあった人のように俺たちのことを崇拝してしまっているからだ。

 ちょうどいい機会だから彼女たちを集めて洗脳を解こう。


 神という名の洗脳を。


 俺は洗脳魔法をかけて、なぜ神など存在しないのかということと、俺たちを慕ってくれるのはいいが、敬うのだけはやめてほしいとお願いした。


 効果はてきめんだった。

 全員が生まれた時から何かと神と関連付けて教えられてきたので、無理なのかもと思ったが、理由を話し、一つ一つ宗教が起こした戦争や悲惨な出来事。ましてや彼女たちをとらえて、慰み者にしたやつらが熱心な教徒だったことなど宗教はそれを教える側にも教わる側にも都合のいい『言い訳』として作用していることを話して聞かせた。


 神などいなくても幸せになれるし、穏やかに暮らすこともできる。

 女性を押さえつけるための風習や決まり事からも解放された彼女たちは、はじめ魂が抜け落ちたように呆けていた。

 しかし日を追うごとに徐々に活力が戻り始め、様々なことに意欲的に取り組みだしたのだ。

 特に今までの宗教の経典や古文書なども熱心にラーニングして討議しており、宗教にどっぷりつかっていたからこそ、その宗教の粗探しに熱中していた。


 まだ中学生になるかならないかという子供から、旅行先で事件にあった人たちまで、こう言っては何だが、最後まで生き残っていた人たちだけあってみんな若くて美人だ。

 このまま元気で健やかに暮らしてほしい。

 出来れば要望もなるべく聞いて、生まれ故郷に帰ったり、家族にも会わせてあげたいな。

 彼女たちはなかなか自分の家族のことを話したがらない。

 一つには自分が事件に会った時に誰も助けに来てはくれなかったということが大きな原因だとは思う。

 しかし、普通の家族がテロリスト集団のアジトまで潜入して彼女たちを助けることはできない。

 徐々にではあるがそういうこともわかってきているのだろう。

 それでも彼女たちが家族に会いたがらないのは、家族が持つ宗教観や価値観が、被害者にもかかわらず彼女たちを攻める可能性があるせいだろう。


 いいさ、ここでみんな家族として生きていけば。


 俺は毎朝1,000人以上にまで膨れ上がった大家族と共に目覚めて八極拳の套路をしながら鍛錬し、その日一日のスケジュールを思い返し、全員で食事の用意をして朝食をいただき、そのあとは洗濯や家事仕事を行い、好きな分野の勉強をしている。

 お金があってこそできることだが、お金ならいくらでも生み出せるし、既にみんなが一生使いきれないほどの資産はある。


 今朝みんなには俺が使えるすべてのスキルを開示し、ラーニングで教えていった。


 もうすぐ週刊スキルメールが届きだして一年がたつ。

 俺は最近特に考えるようになった。

 一年たった後、俺は生きているんだろうか?

 生きてはいても何か怪物のようなものになっているんじゃないかという気さえする。

 そこでそうなっても大丈夫なように、今のうちにみんなにスキルを開示したのだ。

 しおりなどは俺の心情を察してくれていると思う。

 美香も義男も翼も…。

 しかし、考えていても仕方がない。わからないものはわからない。

 なるようにしかならない。

 そう思って、最近は自分の貯め込んだ資産をみんなが使えるように特別に部屋を作ってそこにアイテムボックスに死蔵している様々なものを出して行っている。

 バイクや車は呉竹市にあるバイク博物館予定地の地下に収めていった。

 軍産複合体などから奪った資金はその通貨別に部屋を作って収めていっている。

 後は武器だが、これは俺としおりと義男しか知らない拠点を別に作ってそこに収めることにした。

 指揮車両やライフル、ロケットランチャー、軍服に無線など様々な軍事物資が並べられている。すべて新品に復元している。


 世界中を回るついでに各地の鉄くずやゴムなどのごみを集めて回った。

 それらを使って、家族全員分のフライングポットもすでに作成済みである。

 これらはそれぞれに渡して自主的に訓練するように伝えている。

 勿論光学迷彩を使って人に見られないように注意はしている。

 そのフライングポットを使って家族の様子を見に行っている人たちもいた。


 よかった。少しは前向きになれたんだろう。


 俺はライフポットも人数分用意した。

 これも材料としての鉄とゴムなどの資源ごみがあれば作ることができた。

 一種の道具製作と同じで、材料さえあれば作り方はわかっているというものだ。

 このライフポットがあれば瀕死の重傷からも行き返ることができる。


 別人になり替わることもできるので、みんながこぞってより日本人に近い風貌になっている。

 日本で暮らしたり活動するには外人は目立ちすぎるからだ。

 勿論元の自分に戻るように願って入れば、元の自分に戻ることもできる。

 全て魔力を使って行われるので、これまで同様気の鍛錬は必要だが。


 これで新しい人生を歩むこともできるし、若返ることもできるだろう。

 フライングポットを渡したときからみんな頻繁に外に出るようになった。


 聞くと自分たちと同じような人たちがまだいるはずなので、そんな人たちを救いたいという。

 俺たちはジャパン・ラボを拡張して、その受け入れ態勢を作っておいた。

 世界各国から悲惨な目にあっている子供たちや女性などが集められていった。

 俺たちは急遽アメリカにも龍脈の上に拠点を作って、そこにどんどん収容していった。

 ホープスタッフがそれらのケアをしてくれている。

 ラファエルレイフ大統領にもそのことは話をつけてある。


 彼らも時折アメリカ・ラボを訪ねては、困ったことがないか聞いてくれているようだ。

 俺たちの施設出身者にはラーニングを終えた人から順にグリーンカードが発給されて行っている。これは当然試験を受けてもらっている。

 英会話や社会常識としてのルールなど、アメリカで生活するのに十分な知識を学んでいる。

 しかし、彼女たちはアメリカ・ラボから外に出て暮らすという選択肢は考えていないようだ。

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