42.テイム【1/13】

 俺たち全員でそれぞれの教室でまず行ったのは生徒の選別だ。

 一人一人鑑定をかけて、中共のスパイやアメリカ政府のスパイなどを除き、隠ぺいをかけたラーニングでエリア51の資料から見つけ出した鍵をそれぞれの頭に埋め込んでおいた。

 これで、俺たちの講義を聞いた後には飛躍的に発想が伸びるだろう。


 今週も水曜日が来てスキルを授かり、俺たちはMITの授業をしに出掛けている。

 今日のスキルは【テイム】というものだ。

『生き物をテイムすることができる。 生き物に好かれやすくなる。 生き物が話している内容がわかる。』

 というものだ。

 …これって意識したとたん、やかましく聞こえてくる鳥の鳴き声がそうなのかな?

 集中して聞いていると、なんだか最近変なのが俺たちの縄張りに侵入してきている。注意しろ。というものだった。

 鳥たち同士で警戒しているのだろう。


 先日の忠告が裏目に出たのか警戒している人数が増えているような…。

 せっかく宇宙軍に協力しようとしてもこれだもんな。

 まあ、俺の行いも褒められたものじゃないので、仕方ないんだけどね。


 俺は全員から武器弾薬、装備一式をアイテムボックスに収納した。

 勿論服も下着もだ。

 そこらじゅうで悲鳴が聞こえてくるが、無視する。

 今回は忠告を聞かなかった罰なので、指揮車両も残らず収納している。

 これで鳥たちもしばらく静かに暮らせるだろう。


 今週2回目の講義だけど、すでに才能の片りんを見せている人もいるね。

 チェックしといて、ユリウスさんにでも知らせておいてあげよう。

 MITが確保するべき人間としてね。

 そのうちプロジェクト・ラボまでぐらいなら、入校許可を出してもらえば、いよいよ能力が活性化するだろうね。


 俺たちは少しでも大統領選挙の追い風になるようにと、アメリカでの教育動画配信事業をスタートさせた。

 勿論、推薦人として学長の紹介動画も載せている。

 あらゆる層のあらゆる人が『勉強する』には最適でコストパフォーマンスが高いことをアピールしてもらった。

 1講義1ドルだからね。

 これなら子供でも受けられるよね。


 日本と違って、遠慮はしないので、K-12までの学習は年齢を問わず、だれでも受講できるようにしている。

 1学年で学習する講義は1教科50講義ほどにしている。

 それを教科別に必須科目の数学,国語,理科,科学,社会,公民の6科目を用意した。


 他にも『大人でもできる』シリーズを用意し、単語などの意味を口頭で話しながらつづりを画面で表示して覚えていく講座はかなり人気のある講座となった。

 結構な割合で識字率が低く、その層が学習しだしたのだろう。


 アメリカ国籍を持たないものは、当然だけどアメリカの教育を受けられない。

 医療も、福祉もそうだ。

 選択科目である演劇,音楽,美術,技術,ジャーナリズム,外国語(スペイン語,フランス語,ドイツ語,日本語),家庭科,リーダーシップなども学習講座を開いている。


 しかし、一番人気は『英語』の講座だ。


 大人でも日常的に使っている言葉が書けなかったり、言い回しに苦労することも多いようだ。

 多民族国家ならではの現象なのだろう。


 学長がTVショーでこの動画サイト『TERAKOYA(寺子屋)』の話に言及していた。

 日本で開発したシステムをMITでアメリカに合うようにカスタマイズしたもので、誰でもいつでも学習機会を得られると視聴者に勧めていた。

 この学長の説明もラーニングを使って視聴者に呼び掛けていたので、その日から登録者が激増した。


 あっという間に1,000万人の登録を超え、まだまだそのいきおいはとまらない。

 試してみた人が、知り合いに勧めるという口コミ効果で広がりだしたのだろう。

 この分だと来年は飛び級を求める生徒で大学はパンクするだろう。


 俺たちは日本でも行っているように、武道なども動画配信している。

 気の巡りがよい人ほど健康で、頭もよくなると知れば、ほぼ全国民がやり始めるだろう。


 日本でも組み込んでおいたのだが、破壊思想、殺人衝動、犯罪思想の持主には学習効果が上がらないようにラーニングで仕込んである。

 これがどこまでの効果をもたらすかは未知数だが、できるだけそういう人たちが強くならず、賢くならないことを願ってやまない。


 俺たちはMITのキャンパスに出没している小鳥やリスなどの小動物を、餌付けしてテイムしていった。

 彼らの諜報力がバカにならないと気づいたからだ。


 俺たちがキャンパスに顔を出すと、争って俺たちに報告に来てくれる。

 それがかわいいやら、騒がしいやらで、ここ毎朝の日課になっている。


 今は冬で雪も積もっているので、エサも少ないんだろうな。

 次から次に仲間を呼んでくるもんだから、かなりの数になっている。

 俺は学長やユリウスさんにも相談して、プロジェクト・ラボの裏庭に小鳥や小動物が越冬できるような小屋を建てて、そこで餌やりするようにした。

 高さ20㎝ほどに幾層にも分けた棚が設置されている。

 上の方は鳥のエリアで、下の方がリスたちのエリアだ。


 ユリウスさんたち事務職員が結構まめに餌をやってくれているようで、中央に置いたソファには職員さんがリスたちと戯れている姿をよく見る。

 癒されてるんだろうな。


 大学での授業は順調だけど、一部恩恵を受けれない危険思想の持ち主やスパイの片棒を担いでいるような人たちからは苦情が出ている。

 難しすぎてわからない、と。

 それは個人の資質の問題じゃないかと逆に問いかけると、黙ってしまう程度だけれど。


 差別はしないけど、区別はするからね。


 そんな学生たちとの授業は、基本的には社会システムについての討論をよく行っている。こういう時にはその危険思想の持ち主たちも自分の意見を言えるので、みんなから非難されながらも、熱心に議論している。


 俺たちは触媒役に徹している。


 今アメリカの若者が、社会に対してどういう疑問を抱いているのか、どういう理想を描いているのかを導き出すのに大いに役立っている。

 俺の専攻は機械工学だが、柾田教授たちも認めたとおり、その専門分野だけを勉強してもいずれ壁にぶち当たってしまう。

 その前に様々な議論や交流に慣れていれば、躊躇なく他の分野の人に教えを請いに出かけられると思い、こういうスタイルの授業にしている。


 これが結構効果を表してきているようで、学内のあちこちで、熱心に黒板に書きながらや、食堂のテーブルで議論する姿が見られるようになった。

 それについていこうとして、しかし結局論破されてしまい、病気を発動させて暴れている生徒が動画サイトを見て武道を学んでいる生徒に取り押さえられている光景もよく見かけるようになった。

 護身防御の観点から、授業を受けている生徒には動画サイトを教えておいたんだよね。

 意外にも、中等教育の勉強を動画サイトでし直したら、勘違いしていることや学年によって教え方が違うことなどに気づいて、自分がやりたい研究がはかどっているという報告も受けている。


 日本でも多いだろうな。

 コロコロ教育制度が変わってるから、年代によって学習していないことや知らないこと、嘘を覚えてしまっていることが多いと思う。

 こういうのをフラットにしとかないと基礎知識が違うんだから、議論にならないことが多々あるよな。


 後は正義感ってやつを少し勘違いしている奴らが多い。

 自分が間違っていないから正義だと勘違いしている奴ら。

 世の中で正解が一つのことなんてほとんどないだろう。

 それぞれの正義があるし、価値観や風習、日常も食べるものも違うだろう。

 それがここアメリカでは『アメリカが正義』というおかしな価値観があるからな。

 そういうのは先の大統領の記者会見で大分払しょくされたと思うけど、まだまだその正義にすがりたいやつらは多いんだろうな。


 食堂で暴れている学生が取り押さえられているのを見ながらそんなことを考えていた。


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