43.マップ【1/20】

 俺たちの授業は議論が議論を呼び、ユリウスさんから相談を受けた。


「ほかの授業をしている教授たちからも、ぜひ特別講義としてうちに来てやってほしい。」というリクエストが頻繁に来ているらしい。

 ユリウスさんはそれを聞いて、俺たちの触媒効果に気が付きこうやって相談に来たそうだ。


「いいですよ。」

 と、二つ返事で請け負ったから、今週は大変だ。

 みんな朝から晩まで、どこかの授業に顔を出して、討論をしている。


 俺たちにとっても知識だけではなく、生の声を聴ける機会はそうそうない。

 だからできるだけ多くの授業に出て討論しているんだけど…。


 またやりすぎたかもしれない…。


 特にキリスト教やユダヤ教の研究をされている講座では紛糾した。


 俺たちが神を否定するからだ。

 それも何の躊躇もなく。


 そしてその根拠を宗教の始まりから、どのように利用されてきたのかを解くと教授たちも黙り込んでしまう。

 思い当たる節があるのだろう。


「神がいるから、神が救ってくれるからって人類全員が思ってたら、科学技術なんて進歩しないんですよ。誰も謎を解き明かしてくれない。だからこそ自分で解き明かしてみたいって人がここMITに多く集っていると思うんですが、違いますか?」

 この問いかけは学生には特に効くようだ。


 宗教の根深いところは親から聞かされた世の中のことと密接につながっているからだと思う。


 殺人を忌避すべきことだというのなら、大量虐殺を繰り返してきた宗教はどうなの?って感じで一つずつ歴史を紐解いて、根拠を示していくとみんな考え込んでしまう。


 左手が血まみれなのを後ろに隠して右手を差し出して握手を求めて仲良くやろうと言っている殺人鬼にしか俺には見えないからね。


 まあ、そのうち明らかになっていくだろう。

 変な妨害さえなければだけど。


 今日はようやく水曜日だ。

 今朝授かったスキルは【マップ】というものだ。

『周りの状況を地図化する。 使えば使うほどその範囲が広がる。』


 …これって感覚的には索敵と気配察知で俺たちが今までにも使ってたやつだよね。

 あ…頭の中に視覚化できるのか。

 それに索敵、鑑定と合わせるとどこに誰が潜んでいるかまでわかるな。

 これは結構便利かも。


 俺はさっそく全員に使い方を教え、みんなに使ってもらうようにお願いした。


 …さすがに今週はもう宇宙軍の部隊は来てないな…。

 ……しかし、中共のおかしな連中がいるよね。


 これって誘拐目的なんだろうな。

 所持品が、ナイフにスタンガン、タイラップってか。


 …いやいや、学生に化けても、掃除夫に化けてもその持ち物はおかしいよね。

 鑑定で調べていくと、やはり中共の工作員のようだ。

 俺は遠慮なしに丸裸にしていった。

 マップの効果もあって、はかどるはかどる。


 ここんとこMITのキャンパスでは全裸の変態が出没することで有名になっているので、警備員にすぐに取り囲まれて、逮捕されている。


 俺は念のため、ボストン市街をELWでぐるぐると走り回って、それらしいやつを片っ端から鑑定をかけて工作員なら丸裸にしていっている。

 今では半径1㎞ほどは索敵範囲に入るので、諜報拠点などもサクッと丸っと中身をアイテムボックスに放り込んでいる。


 …俺のアイテムボックスの中に武器弾薬が相当数溜まってるんだけど、これって使いようがないよな。

 そのまま死蔵するしかないか。


 ユリウスさんには特別講義は今週までと断りを入れて、来週からは自分たちの講義だけを受け持てばいいことになっている。

 俺たちが一度でもかかわった講義は、あとがつらいだろうな。

 同じように討議してもケンカばかりになるし、受けるのが馬鹿らしくなっている学生も多いだろう。

 俺はそのあたりをユリウスさんに話しておいた。

 出来ればこちらがピックアップした何人かは、授業免除で単位を渡し、専門科目の研究に専念したほうがいいと思う。


 俺は日本に夜戻り、日本の昼間に寝ることになっている。

 昼夜逆転しているけど、何とかなってるな。

 これも身体強化の影響なのだろう。


 日本ではWitchのNoriとしてではなく、マジカル・ワールドの社長として取材が入っているようだ。

 現在、俺たちのファミリーで表に出れるのはホープ・マンションの住人ぐらいなので、現在では彼女たちがマジカル・ワールドの運営を行っている。

 そこからの報告だ。


「日本で『寺子屋』という動画配信サイトを展開して、日本の教育の是正を訴え、それを見た生徒たちは、ぐんぐんと学力を上げている。その上、最近アメリカでも同様なサイトを使って、特に貧困層や生徒の学力が大学レベルにまで上がっていると物議をかもしている。その運営会社の経営者に話を聞きたがるのは当たり前と言えば当り前よね。」

 と、順子さんが言ってきた。


「う~ん。これって取材を受けた方がいいのかな?」

「もしノリ君が日本の教育を変えたいんであれば、ぜひ受けてみるべきね。」

 俺はそう言われて、それもそうかと取材を受けることにした。

 但し、インタビュークルーは柴田洋子さんのグループだ。


「それでは、改めまして。今日はWitchのボーカル兼ギターのNoriではなく、巷で話題に上っている教育動画配信サイト『寺子屋』の運営をされている会社『マジカル・ワールド』の社長としての玉田紀夫さんにインタビューさせていただきます。今日はよろしくお願いします。」

「せっかく本名は伏せてCDデビューしたのにこれでは台無しですね。いつかこういう日が来るとは思ってましたが。私が玉田紀夫です。株式会社マジカル・ワールドの代表取締役社長をやっています。」

「今日はよろしくお願いします。さて、ぶしつけな質問から始めるのは恐縮ですが、玉田さんは現在16歳ということですよね。」

「はい。本来ならば高校一年生でしたね。9月に退学して、MITに留学して、現在機械工学の博士号をいただいています。1月から教授に任命されて授業も受け持っています。」

「え?すでにMITの教授ということですか?」

「そうです。現在も特別カリキュラムとして3か月限定ですが、授業をさせていただいています。」


「16歳でMITに留学するのはもちろんですが、入学してたった3か月で学位を取得して博士号まで取るなんて…。失礼ですが、どんな方法で取られたのでしょうか?」

「う~ん。まず、私たちの行動はアニメ「Witch」でも描かれていたと思うので省きますが、あの後、私たちは渡米して、MITの教授に直談判しにいったのです。

 もちろん事前に自分たちの興味がある分野の論文を書いて送っておきましたが。

 その論文を気に入ってくれて、私たちは特別聴講生として迎え入れられました。

 そのあと必要な書類をすべてそろえてもう一度渡米して、学生になり、教授と日夜討論して論文をいくつもまとめました。

 私だけでも30は書いたんじゃないですかね。

 それらが認められて学位をいただき、博士号も取得しました。

 今は学長と事務局に頼まれて、3か月限定での特別講義を行っています。」

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