40.会話術【12/30】

 今日も新たなスキルを授かった。

【会話術】

『会話がうまくなる。 言い回しがうまくなる。 たとえ話がうまくなる。』


 …俺、別にお笑い芸人目指してないんだけど。


 とうとう明日は大みそかだ。

 年が明ければ大統領選も本格的になる。

 ようやくのんびりとした年末が迎えられそうだ。

 今年はいろいろあったなぁ。


 ただ、この年末年始には、みんなの第二弾CDの録音が入っている。

 ジャパン・ラボに急遽スタジオが作られて今も録音が進められている。

 美智子さんに楽曲を書いてもらっているので、またそれに詩を載せなければいけない。

 悪戦苦闘する中、どうやらSkipping DogとFairy Feastでもアルバムを出すらしい。

 作曲、作詞は俺たちでこなさなければいけない。


 そんな時、ユリウスさんが尋ねてきた。

「こんなこと言うのも今更なんだけどね。君たちの進級についてなんだが…。」

 と、浮かない顔で話し出した。

 ん?確かに俺たちはほとんど大学も行っていなければ、一般授業というやつを受けてもいない。その上まだ入学したといっても3か月ほどだ。

 今、進級の話が出るってどういうことだろう?


「実は君たちを担当している全員の教授から、『進級なんてめんどくさい。もう学位を与えても十分な成績どころか実績を残してるじゃないか。論文をいくつ書いてると思う?一人頭30はくだらないよ。そんな学生がいるかい?』って言われちゃってね。学長とも話したんだが、君たちMITの教授になる気はないかい?」


 いきなりすぎるいきなりな話で全員目が点になっている。

「とりあえず学長の許可は下りたし、教授方30人からの推薦も取れている。だからそれぞれに学位と博士号、それに教授の任命証を授与しておくよ。」


 そう言っていきなり賞状と盾を授与されてしまった。

 それぞれが専門分野の教授になってしまった。


 あらら。短い大学生活だったな。高校も短かったが。


「で、さっそくなんだが、来年の1~3月まで一人1講座受け持ってくれないかね。

 教授たちがああだからね。」


 教授たちが喧々諤々討論しているのを指さしていった。

 俺たちは広いフロアの真ん中で6畳ほどの畳を敷いて、その上にこたつを出して、こたつの上にはミカンが乗っている。

 この広いフロアでその6畳ワンセットが10ほど点在している。

 それぞれに教授たちが陣取り、こたつに入りながら熱い討論を繰り広げている。

 みかんを片手に…。


 いや、すっかり日本に染まってるよね。

 みんなどてら着てるからね。


 …なるほど。今日授かった会話術はこのための布石だったのか…。


 学位は俺たちだけじゃなく俺たちの仲間全てに授与された。

 これで俺たちはMIT卒って履歴書にかけるね。

 …え?いつ履歴書を書くんだ?って?


 …こんなこと長くは続かないと思うんだよね。

 お金があって、学習環境が整ってて、おまけに魔法が使えるんだよ?

 そんなに長く…。


 …そういえば、俺が授かっているスキルっていつまで使えるんだろ?

 まさかとは思うけど、一生使えるのかな?


 気の鍛錬なんかはみんな欠かしてないから、たとえスキルがなくなっても、もう使いこなせると思うんだよね。

 身体強化もある程度は身体が改変しちゃってるから、そのまま維持し続ければ問題ないだろうし。


 そう考えるとスキルの恩恵がある分、それぞれの技術が覚えやすいし使いやすいってことはあるけど、たとえスキルがなくなっても、もうほとんどの技術は身体が覚えてるんだろうな。

 ……つまりこれって、本来人間が使ってた能力ってことになるんじゃないだろうか?


 古代人からの遺産?ってやつなのかな?


 そういえば脳科学の教授が言ってたな。

 魔力が残り70%の脳を使うためのカギだと。


 それならなぜ今まで使えなかったんだろう?


 そこまで考えた時、頭の中で今までの人類の歴史が思い起こされて、気づいたことがあった。


「あっ。古代文明の痕跡や伝説。中世の魔女狩り。ひょっとすると宗教の始まりの人物の奇跡って、このスキルが発現した人のことなんじゃないだろうか。」

 と、思い当たったのだ。


「私もそう思うよ。おそらくスキルメールなんかもちろんないだろうから、どこまで気づいていたかは不明だけどね。」

「どこまで気づいて…。つまり、スキルメールはその人が持つスキルをひとつずつ気づかせてるってことなのか?」


 俺はそこまで考えてもう一つ思い当たる点があることに気づいた。


「あっ。そういえば今までのスキルってよく「それってもうできてるよ。」ってことがあったよな。あれって、無意識にほかのスキルの発動条件を満たしていたのかもしれないな。」

「確かにそういうことは多かったわね。でもスキルとして発動したほうが使い勝手はよかったわよ?」


「だからこそだよ。スキルメールってスキルを自覚させるための合図なんだと思う。もちろん太古にはメールなんてものが存在してなかったんだから、そんな人には…。」

「『鑑定』でしょうね。あのスキルだけちょっと異常だもの。誰がどこから知識を引っ張り出してくるのかわからないもんね。それになんか誰かの主観が入ってるし。」

「つまり、俺にスキルを気づかすためにどんな能力が培われたのか、眠っているスキルにはどんなものがあるかを鑑定して俺に知らせてくれている存在がいるってこと?」


「そうね。それも神なんて大それた存在じゃなくて、いわゆる監視者ってところかしら。」

「心当たりがあるとすれば…。」

「やっぱり?」

「うん。やっぱり父さんしかいないと思うんだよね。でも、先日NYの住所を訪ねても留守だったみたいだし、母さんに聞くと世界中飛び回ってるらしいから、なかなかNYにも戻れないそうなんだよね。」


「…それってすでに変よね。」

「え?変って?」

「だって2年前だっけ?もう3年ほど前になるのかな?おじさんがアメリカに出張に行ったのって。」

「そうだな。単身赴任の時に一緒についていってどんな部屋に住むのか見せてもらったんだ。」

「で、それから会った?」

「…山田さんちを買うときにテレビ電話で話したぐらいだね。そういえば直接会ったわけじゃないな…。」

「さっきの変なところっていうのはそこなのよね。NYに転勤になってNYでバリバリ働いているならわかるんだけど、世界中を飛び回ってるって、日本にいてもできるわよね。なんでわざわざNYに拠点を移したのかしら。」

「アメリカ支社の所属になったからだと思うけど。」

「それならなおさら『日本に立ち寄る』ぐらいはできるでしょうに。世界中飛び回ってるんでしょ?」

「…そこまで忙しいってことじゃねぇ?」

「う~ん。何か解せないのよね。」

 しおりと俺がそんなことを話し合ってると、義男がそれを聞いていて話し出した。


「それって、もともとの話じゃね?」

「え?もともとって、何がもともと?」

「いやさ。呉竹市って都心部まで3時間ほどかかるだろ?そんなところに引っ越してきたってことがすでに変なんだよな。」

「え?どういうこと?」


「う~ん。俺も就職したことあるわけじゃないからうまく言えないんだけど、大体そんなアメリカにも支社がある商社の社員がわざわざ都心を離れてまで住む町じゃないだろ?呉竹って。」

「そう言われて見ればそうだけど…。父さんは畑仕事もやりたくてあそこの土地を譲ってもらったって言ってたんだよ。」

「でもさ。俺たちの同級生の親でアメリカに支社がある商社に勤めてたお父さんなんてそんなにいないぜ?っていうか紀夫んとこぐらいだぞ。」


 …確かにそうかもしれない。

 千秋ん所の親父さんは貿易会社をしてたけどほとんど都心に単身赴任だったらしい。

 翼のところは輸入会社だったから、特に居所はどこでもよかったのかも。


 考えてもきりないな。

 そのうち会えるだろう。親なんだしね。

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