38.治癒魔法【12/16】

 俺は今週になって【治癒魔法】を授かった。

 いつか出てくるのではと期待して待っていた魔法だ。

 これでファミリーにけが人が出てもすぐに癒してあげられるようになった。


 治癒魔法には代償がいる。

 その人の持つ脂肪や老廃物を代償に、身体を治癒していくみたいだ。


 癌なども治る。手足の欠損も治すことができる。


 しかしその代償としてその人の身体から不足分を作り出すためにあらゆる筋肉がしぼんだり、骨が薄くなってしまう。

 大病を患った人を治すためには少しずつ、食べさせながら治していくしか方法はなさそうだな。

 怪我の止血や臓器の損傷などはその場で治せるだろうけどね。


 う~ん。これまた使い勝手が微妙だよね。


 しかし、源蔵さんは新たな使い道に目覚めた。


『毛根の復活』だ。


 少し薄くなっていたのを気にしていたんだろう。

 源蔵さんは自分の頭に治癒魔法をかけた。

 見事毛根は復活し、今では産毛が生えてきている。


 なるほど。こういう使い方はありだよね。


 俺はMITの学長はじめ教授方の髪もふさふさにしておいた。

 みんな若返ったように溌溂としている。


 母さんたちは肌の活性化に興味を示していろいろと試しているようだ。

 見る見るうちに母さんたちは若返っていった。

 皮膚の下の脂肪を代償にすることを意識するだけで肌に張りと艶が出てくるらしい。

 あいにく16歳の俺たちには無用な方法だけど、いつかお世話にはなるだろう。

 その効用をしっかり聞いておいた。


 これも身内以外には封印だろうな。

 末期患者が群れを成してすがってくるのをすべて治していくことは無理だ。


 さて、学長はどうしているのやら。


 今回の大統領選挙は特殊なものになった。

 それは大統領選で競り合っていた対立候補が軒並み辞退したからだ。

 これには議会もあわてた。しかし誰も議員の中で名乗りをあげる者はいない。

 公然と大統領が暗殺されたのだ。それも守る側のSPと民衆の代表として取材している記者から。

 これはアメリカが起こしたアレルギー反応でもある。

 過去に起こした不都合な真実に蓋をし続けたアメリカのアレルギーだ。

 このため、大統領選挙はやり直すことになった。

 しかし、副大統領も現在のアメリカを収拾するだけで手いっぱいで、むしろ能力が足りていない。

 そこで早急に大統領選出を行うために連邦法を特例として3か月で日程を消化する法律に書き換えた。

 つまり2月までに新しい大統領を決めなければいけなくなった。

 通常ならば各州ごとに党員集会や予備選挙が行われるが、準備不足のため、何とか党員集会はできても候補者を擁立できないでいる州も多々あった。

 それもそのはずで4年に一度の大統領選挙を終えた一月後にまた大統領選挙を行うほど資金的にも人材的にも余裕のある所はなかったのだ。

 マサチューセッツ州の共和党代表として学長であるリチャード・ラファエルレイフは選ばれた。


 そのような混乱の中今までアメリカに押さえつけられ、利用されていた国々が反旗を翻した。

 公然とTVでアメリカに対するテロを宣言する国や団体も出てくるようになった。

 俺たちはそのような国や団体に対して、武器の押収や資金源の壊滅、資金の押収を行った。


 俺たちはそれぞれが魔力操作で覚えた魔力線を伸ばして相手に密着させて、そこから魔力(気)を一気に出すことで相手を気絶させる技を習得している。

 それらを使って、どんどんとテロ行為を起こす母体とその先兵となる工作員を片づけていった。

 結構時間がとられる作業になったが、場所さえ突き止めればあとは簡単な作業でしかなかった。


 この際、フライングポットや魔導ニンジャ『上忍』が大活躍した。

 今や世界中に設置してあるゲートを拠点にして、それぞれのアジトへ潜入し、情報を抜き出し、武器などを押収していった。


「う~ん。この人たちも救ってあげないとね。」

 俺はテロ組織にとらわれていた女性を多く発見していた。

 源蔵さんと義男に頼んでジャパン・ラボを増床し、とらわれていた女性を保護していった。


 治癒魔法があってよかったよ。

 手足を切り飛ばされて逃げなくされていた女性や犯されて精神に異常をきたしていた女性も多くいた。その数は30数団体から合わせて1,000人を超えていた。


 俺たちは重症の人から治療に取り掛かったがとても手が足りず、軽症の人も併せて治療していく班を作ることで、その人たちにも手伝ってもらいながら治療を続けていった。

 一度に治せる人たちはいいが、何度も治療していかなければいけない人たちは、心がことごとく折れていた。

 そういう人たちを励ましながら、必ず治るという暗示にも掛けながら懸命に治療していった。


 テロ組織の人間は全員裸にして手足をタイラップで拘束して砂漠に放置してきた。

 俺たちがあからさまに殺意を抱いた最初の相手だった。


 どうしてこう女性ばかりが被害者になるのかね。

 男はみんな既に殺されているということを知り、生きているだけでも良かったと喜ぶべきなんだろうけど、死にたいと叫ぶ女性たちを治療することに俺たちの心も折れかけた。


 しかし、これが日本で起こっていればどうだろうか。

 そのターゲットに母さんや美香、しおりたちが成ってしまったらどうだろうか。

 俺たちはそれを考え、何とか治療を続けていた。


 中には俺たちを罵るものも出てきている。

 なんでもっと早く救助してくれなかっただの、男は近寄るなだの。


 俺はその人たちに言った。

「勘違いしないでもらいたい。別にあんたたちを救助に行ったのではない。俺たちが邪魔な奴らを排除していく過程で、あなたたちがとらわれていただけの話だ。助けられて助けた相手を罵る元気があるなら、あなたたちからここの記憶を消して元の場所に戻してあげますよ。人に助けられたことに文句があるなら自分で助かってみてくださいね。」


 俺がそう言うと声高に俺たちをののしっていた人たちも全員泣き出した。

 泣いて謝ってきた。

 行き場のない感情をやさしくされたことで吐き出してしまったと。


 そうなんだよな。ただ慰めるだけじゃ自分でその境地を脱していない分、怒りの行き場をなくして周りに当たり散らすことになるんだよな。


 俺は歴史で学んだよ。

 隣の国がまさにその状態だったからね。


 日本に世話になっておきながら、日本が見捨てれば餓死者しか出なかった国を日本が助けたのに、自分たちの力で独立できていないから、その怒りを助けた国である日本にむき出しにしている国。


 わかるよ。でもそれだけじゃダメなんだよね。

 自分の足で立つことから始めないとね。


 自分がどういう立場だったのかまず話思い知って、その上でこれからどうするかを考えないと周りは誰も助けてくれなくなるよ。


 俺は歴史から学んでたよ。

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