37.電子魔法【12/9】

 とうとう12月に入った。


 今日授かったスキルは【電子魔法】だ。

『あらゆる電子を自由に扱える。』


 う~ん。これは危ない魔法だな。

 原子の周りをまわる電子のことも扱えてしまう。

 しかし、そんな危ないことに使うとは思えない。


 つまりもう一つの言葉上の電子。

 あらゆるコンピューターなどで使われる電子を指すのだと思う。

 つまりElectronics、電子データやプログラムのことだ。


 この魔法は翼が気に入ったようだ。

 既に様々なプログラムを駆使してハッキングなどを行っていたが、それらの苦労をせずに電子情報を書き換えたり、侵入できるようになるらしい。


 高度なハッカーがその腕前を称して『ウィザード』と呼ばれることがあるが、翼はまさにそれになったと言える。


 俺は電子魔法の原子の周りを高速で回るとされている電子を集めて、指向性を持たせることで重力制御装置の重力操作が行われていることを突き止めた。


 いや、今まで物はできてもその理論までは解明できていなかったんだよな。

 電子魔法で電子を扱えるようになって初めて分かったことだ。


 発達した化学は魔法に見えると同じように魔法は発達した化学に似ているということなのだろう。


 しかし、この電子の動きにどうやって指向性を持たしているのか。どうやってそれを人間が目にすることができるのかというところは相変わらず到達していない。

 電子魔法を使い重力操作を見ていると『わかる』という程度なのだ。

 この魔法は教授たちには使わせないようにしている。

 実験でまかり間違っても核爆発だけは御免だ。

 そんな実験を平気でやりそうな教授は一人や二人ではない。


 そんなわけで一部のウィザード以外は封印することにした。

 その人たちにも原子核の周りをまわる電子については干渉できないように制限をかけている。


 俺は各国の代表と面会しながらお願いしていることがある。

 それは『国連の解体』と『世界連邦政府の樹立』だ。

 各国でそれぞれ自治を行うことを認めながらも、総意としての地球での決まりごとが決めれるような組織を作るべきだということを訴えていた。


 これは俺がそこはかとなく抱えている不安からくるものだ。

 それはスキルを授かり続けて一年たった時、これらのスキルを使わないと対抗できない何かが現れるのではないかという不安なのだ。

 そのためには地球を一本化しておく必要性を感じている。

 決して富を一部の権力者にもたらすためのNWOではなく、世界を平和にするための世界連邦政府の樹立だ。


 実は無理やりになら、このプランを実現する方法はある。

 スキルを使えばすべての国の国民を一度国から解放してまとめ上げる術はある。

 しかし、そこまで強引に進めるほどの根拠がない。

 やはり、一年後を迎えるしかないのだろう。


 自分の周りの人たちの命を守るためだけでアメリカと交戦状態にまでならないと殺されてしまうのだ。

 俺たちにも敵を殺すという選択肢は常にある。が。

 まだ俺たちはそこに手を出してはいない。

 そこまでせずとも回避できる方法があるからだ。


 もし俺たちにそこまで余裕がなくなった時、相手を殺すことも選択しなければいけないのだろう。

 各国に立ち寄った際、必ずその国の高等学校までの教科書を入手している。

 それらをラーニングしていると一つの真実が浮かび上がってくる。


 真実が歴史を作っているのではなく歴史が真実を生み出しているということだ。


 ヨーロッパは特に略奪の歴史でしかない。

 その延長線上の実験国家がアメリカで、そのアメリカに実験に使われているのが日本なのだ。


 こいつら、どの口がそれを言うというほど、ひどい歴史の国が多い。

 しかしどの国もそれらを無かったことにするか正当化している。


 いっそのこと全国民を対象にラーニングした方が早いのではとも思ってしまう。

 さすがにそこまでの力は今の俺にはない。


 俺は母さんたちの助けも借りて『真実の人類の歴史』という本の執筆作業に取り掛かった。

 有史以降残っている様々な古文書を始めとする文献や口伝などの取りまとめから始め、現存している資料などから世界中の国の歴史を取りまとめていった。

 この本が世に出ることはないのかもしれない。


 まずこの本を執筆する過程で明らかになったのは『神』の存在の否定だ。


 そして世の中に蔓延している常識と言われているものの打破だ。


 これは独り歩きして広まってしまった様々な学説や実証実験によるものを、その母数と共に表すからだ。


 この編纂作業においても翼の作り出す電子魔法が威力を発揮した。

 あらゆる国の電子データから情報を集めていき、それを文章にまとめ上げていくのだ。


 キリスト教の歴史を調べると面白いことがわかる。

 突然誰かが『私は神の奇跡を見た』と言い出し、それが聖書に書かれていく。

 そしてそれの繰り返し。

 ユダヤ教をその教えの根本にしているにもかかわらず、自分たちが信じる以外の神を否定する。

 そしてその神の名のもとに異教徒を皆殺しにしていく。


 まさに略奪者のための宗教だ。


 その教えを守っている人々が世界中に20億人以上いるという異常さ。

 根拠すら求めない、神をたたえるいいことならすべて受け入れているのが今のキリスト教だ。


 その嘘かほんとかわからないことが書かれた聖書に手を置いて大統領の就任を宣誓する国がアメリカなのだ。

 キリスト教の神父が祝福するために就任式を行う国がアメリカなのだ。


 考えれば考えるほど、事実を見つければ見つけるほどにおかしくなり、笑ってしまう。


 よくこんな世界で人類は平等だとか、世界の平和を祈るとか言ってるよね。

 ちゃんちゃらおかしくなってくる。


 世の中は嘘でできている。

 その嘘をただすことが正義でも何でもない。

 人は信じたいことを信じる。

 そういう生き物なんだな。

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