34.空間魔法【11/18】

 水曜日の朝、又新しいスキルを授かった。

【空間魔法】

『空間操作ができる 物に空間魔法を付与できる』

 というものだった。


 つまり、アイテムボックスがカバンやペンダント、指輪や腕時計にも付与できるということになる。

 これだけで流通革命が起こりそうだ。

 アイテムボックス以外の使い方を模索しているうちに、瞬間移動を付与した装置、『ゲート』が完成した。


 このゲートの一番大きな特徴はゲートと言いながら形は何でもいいのだ。

 例えば画びょうでもいいし、ペンでもいい。

 それに発動のキーワードと魔力を流し込むだけでそこにゲートが出現する。


 これで益々どこの軍隊にも負ける気がしなくなってきた。

 俺たちは話し合って水燃料発電システム以来の発明品を世間に公表しないことを決めた。

 全てこのジャパン・ラボと名付けられた長野の山奥に封印することにしている。


 もっともその原理の解き明かしや実験装置などの製作は相変わらず続けている。

 それらはどこに発表される予定もなく大量の論文が製作されていった。


 火魔法などの魔力を使った現象には俺たちも教授たちもあまり興味がなかった。

 なぜなら、これを使った武器などはもはや『人間兵器』と呼ぶべきもので、人間が燃料であり、弾丸の代わりになってしまうからだ。

 まして現象として変化させる魔法より魔力を魔力のままで使う方が効率がいいのは自明の理だ。

 俺たちはそれぞれの腕時計電話にアイテムボックスの機能を付けた。

 俺たちグループに入っている人たちには無用のものだが、万が一にでもアイテムボックスの存在がばれた時に、その機能が本人にあるのか、物にあるのかで生存率が変わってくるだろう。使い分けもできるしね。


 俺たちは直径10cmほどのアルミの円盤を大量に製作した。

 それにシリアルナンバーをつけて0000~9999までの1万枚のプレートを製作し、それにゲートを付与していった。

 それぞれが置きたいところにおけるプレートを10枚づつ渡され、それぞれが自宅やお気に入りの場所、実家などに置きに行った。

 0000~0100までは俺が預かっている。


 俺はジャパン・ラボの転移室に0000のプレートを部屋と同化させた。

 建築のスキルで材料の一部として扱うことができたのだ。

 0001はMITのプロジェクト・ラボにしておいた。

 ここに通うことはもうないのかもしれないが、思い出の詰まったところだ。

 教授たちは自分の自宅や研究室などに埋めてきたようだ。


 元ホープマンションの住人たちは各教授の手伝いも行いながら、アメリカで配信する予定の動画を取りだめて行っている。

 社会生活を送るうえで、覚えなきゃいけないことを中心にカリキュラムは組み立てられている。

 これは各州ごとにカリキュラムが違うので、K-12教育から幼児教育を抜いたものを動画にしていっている。1年生から12年生までだ。

 日本で言うと小学生、中学生、高校生までの年齢がこれにあたる。

 日本の高校卒業認定試験のような制度もあり、これを対象にした動画配信も考えている。

 大人の講座も同様だ。


 それと英語が話せない人たちのための英語講座も行う予定でいる。

 これは主に教育を受けれていない人たちをターゲットにしたものだ。これらは『TERAKOYA』としてまとめられ、道徳教育や人権教育などの講座も含んでいる。

 アメリカの授業で教師はよく神の話を口にするようだ。

 しかし一切の宗教色をなくしたこれらの口座は教育の基本的なことを学べる講座として認識されていくだろう。


 日本ではすでに大学受験者が55万人のところ、講座受験者は300万人に達している。

 このうち半分は大人の講座受講生だ。

 結構な割合で老人が受講しているケースがあるようだ。

 今までかなりの勢いで増えていた不登校児童のうち16歳以上の者は高校卒業認定試験を受験している。

 それ以外の不登校児童は動画配信で学習し、いじめられるような学校への登校は完全に拒否しだした。

 それらを学力テストで判断しようとしても、すでに小学校、中学校の教育を習得しているという事態になっていた。


『大人でもわかる』シリーズが好評を博したことで、現在『子供でもわかる』シリーズを編纂中だ。

 これは子供でも商売の基本が学べたり、世の中にある様々な職業やその職業になるためにどんな能力が必要かを順次シリーズ化して出している。


『いじめられっ子のための』と題した武術習得のシリーズもすでに始めている。

 どこの世界にもどんな世代にも人をいじめたり、けなしたりすることで優越感を感じたり、人間関係でマウントを取ってくる奴らは一定数いる。

 アメリカの例を出すまでもなく、こういう連中を排除してもまたそのポジションに収まろうとする連中が出てくる。切りがないのだ。


 だからこそ、自営の手段を持つか持たないかは大きくその人の人生を左右することになる。

 この武術指導には合気術を指導項目として取り入れている。

 そこに魔法操作で培った気の巡らせ方や、力を出す方法など将来魔法を習得するのに有利な体つくりを基礎に据えている。


 また、理論武装も欠かせない。

 訳が分からない理論を振りかざして暴力をふるってくるいじめっ子にどうやって理論的に防御するのか。また、その証拠をどうやって残すのか。


 誰に相談すればいいのか。どう対処すればいいのかを動画講座で教えている。

 これらの動画を見て防御武装を固め、登校する児童も増えていき、各地で子供による裁判が増えていった。


 往々にしていじめられているこの家庭では、親は相談相手にすらならない。

 心配するだけで何の手も打てないか、殴られたら殴り返せと火に油を注ぐ解決方法しか教えないからだ。


 動画サイトではそれらの事情を聴きだして、弁護士のあっせんや児童福祉相談所、警察などへ連携を取って動くことも始めている。

 事なかれ主義で動かない関係部署があれば、マスコミを使った痛烈な批判や一般動画サイトへその真実を漏洩するなどの糾弾を行っている。


 そんな場合は、動画配信サイト『寺子屋』で児童を保護することも行われだしている。

 受け入れ先は全国で購入している寺子屋専属マンションだ。

 マンションの使用料、保護した子供の食費、弁護士費用などは関係各部署やいじめの加害者に請求されていく。

 中には訴えられた教師も多数存在し、教師とは何をする人なのかということが子供の間でも議論されていくことになる。


 独自の動画配信サイト、独自の情報網を確立した寺子屋は徐々に日本の教育環境を根本から変えていくことになる。


 また同時に加害者側の情報漏洩が止まらない。

 親がいじめるような促しをしている家庭では、親が行っている所業が公開されていく。


 海外のサーバーを経由した暴露サイトが誕生した。

 このサイトは一般公開されており、海外からのいじめの報告なども後を絶たない。

 急遽国別の対策を考えてそれを動画にして暴露サイトにアップしていっている。


 200人に及ぶいじめられたり、陥れられた経験を持つスタッフがこれにあたっている。

 中に身の危険があると判断したものは、即座に保護に動いている。


 こうして寺子屋は子供を救済するサイトとして認知されていった。

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