33.無魔法【11/11】

 俺はそれからすぐに念話で洋子さんを呼び出した。


『洋子さん。Noriです。返事はしなくていいです。今あなたの傍にいるわけではないんです。頭の中に直接語り掛けてるので、同じように頭の中で話しかけてくれると俺にも伝わります。今大丈夫ですか?』


 俺はしばらく反応が返ってくるのを待った。


『Noriって、WitchのNoriなの?どうやって頭の中に話しかけてるの?』

『それはあとで説明します。今はそれより急がないといけないことがあります。今洋子さんの身の周りに人はいますか?』

『先日一緒に渡米したクルーがいるわ。山田君と浜崎さん。』

『今どこにいますか?』

『SETVの6階の会議室よ。いったいどうしたの?』

『できるだけ早く上司の許可を取ってそこから逃げ出してください。そうですね。俺の密着取材をするとかどうとか。できるだけ早くそこから出れるようにしてください。もちろん山田さんと浜崎さんもね。』


 俺はそれだけ念話で伝えると横浜にあるSETVの玄関ロビーに転移した。

 勿論光学迷彩とカモフラージュで姿は見えなくしている。

 俺はそのまま6階までエレベーターで昇り、洋子さんたちを探した。

 すぐに洋子さんたちは見つかった。

 山田さんと浜崎さんはカメラとバッテリーや充電器の用意をせわしなく行っていた。

 洋子さんは上司に掛け合っているみたいだ。

 上司はかなり渋っている。おそらくすでに大手広告代理店の手が伸びているのだろう。

 俺は浜崎さんと山田さん、それに洋子さんに一斉に念話で話しかけた。


『その上司にはすでに大手広告代理店からあなたたちの身柄を押さえるように指示が出ているんだと思います。先ほどまで会議していた部屋にすぐに集合してください。山田さんと浜崎さんはカメラは持たず身の周りのものだけで集まってください。』

 俺はそう呼びかけて、洋子さんの後をついて、会議室に入り込んだ。

「どうなってるんですか、今の?頭の中に直接響くような声でしたが、あれって…。」

 俺は姿を見せた。

「はい。俺の声です。騒がないでくださいね。今から3人を連れて移動しますから。」

 俺は3人を魔力線でつないで瞬間移動を発動し、タワーマンションの3501号室に転移した。


「え?え?…ここは?」

 洋子さんたちはパニック状態だ。

「落ち着いてください。ここは呉竹市にあるタワーマンションの最上階にある俺の会社のオフィスです。騒がないでくださいね。今から説明しますから。」

 俺は洋子さんたちがいかに危険なことをしたかを話した。


 俺が言っていたことは嘘でもほらでもなく、実際にすでに洋子さんたちの上司は大手広告代理店に取り込まれていたことを話し、置いたままにしておいた大型TVにドローンからの映像を映し出した。


「例のスタッフにはまだ逃げられていないだろうな?」

「指示通りそこの会議室に3人とも入っているよ。急に同行取材に出かけたいと直談判してきたがね。手続きもあるからしばらく待ってくれと話して待機させている。」

「よし分かった。それじゃ、その会議室に案内してくれ。」


 洋子さんの上司である報道局長とその男たちは、洋子さんたちがついさっきまで使っていた部屋に入ってきた。


「おい。いないじゃないか。我々をだましたのか?」

「…いや、確かにこの会議室に入っていたはずだ。入退出記録を見ればわかるはずだ。」

 と、局のセキュリティと内線電話を使い話をしだした。


「今ご覧になった通りですよ。あなた方は拉致、もしくは殺害されるところでした。」

 それを聞いて3人は青ざめた。


 こうなったらこの3人はこれからファミリーになってもらうしかないな。


「まず、俺の秘密を話します。俺は人と違った特別な力を持っています。あなた方をここに転移した力のようなものをね。あなた方には俺たちのファミリーになってもらいます。それしかこの地球上で生きていける保証はできません。そしてこれらの力をあなたたちも使って、今日本や世界で起ころうとしていることをジャーナリストの視線で克明に記録してもらいます。そのためには基礎知識が必要です。」


 俺はそこにベッドを3つ取り出した。

 何もない空間から現れたベッドに3人ともが息をのんだ。


「ここに横たわってください。学習している間は体がだるくなるからその方が楽になるんです。小学生から高校卒業までの学校教育の学習をした後に護身術や武術の学習、それに撮影テクニックや編集方法、編集ソフトの使い方なんかも学んでもらいますね。では始めます。」

 俺はそう言って立ち尽くしている3人に以心伝心でつながり、ラーニングでの学習を始めた。

 かなり頭と身体が重そうになりうずくまりかけたが、一人ずつベッドに誘導して寝かせた。


 俺はその間に美智さんも拉致してきた。

 事情を説明して、今俺たちが置かれている状況までを説明した。

「急にボストンからいなくなったから私は全米CDデビューのための打ち合わせを終えても、契約できなくて困っていたのよ。すぐにこの契約書にサインして頂戴。録音音源はすでにあるから、これで全米CDデビューを果たせるわ。」


 ……すっかり忘れてたよ。そういう話を美智さんに振ってたことを。

 そういえば、既に学長の手も離れて、大手レコード会社を紹介したってとこまでは聞いてたな。

 それどころじゃないんだけど…これはこれで面白いかもね。

 俺は契約書にサインをして、美智さんをもとの場所に戻し、そのままCD全米発売のための仕事を進めてもらうように頼んだ。

 その際、俺のスキルをいくつか使えるようにしている。

 身の危険を感じたらすぐにこのマンションに転移してくるように伝えておいた。


 ほどなく3人は目を覚ました。

 時間は1時間ほどだろうか。

 ここもそろそろ危ないかもしれないな。

 俺は説明を省いて長野の基地に3人を連れて転移した。


 その後状況説明の後、3人ともが納得してくれて、ファミリーに加わった。

 3人にはドローン、光学迷彩、気配察知、気配遮断などほとんどのスキルが使えるようにして、ここでしばらく訓練してもらうようにお願いした。


 俺はこうして優秀なインタビュアーと撮影クルーを手に入れた。

 それぞれが変装して買い物に出かけ、高性能パソコンや動画編集用機材、動画撮影用の機材を調達してきた。

 予算はそれぞれ一億円を現金で渡し、それぞれがアイテムボックスで管理してもらった。

 着替えなども買ってくるように伝えている。


 今日は水曜日だ。

 授かったスキルは【無魔法】というものだそうだ。

『魔力操作を使った魔法の発現ができる』

 …これはどういうことだろう?

 例えば魔力の塊をそのまま打ち出すということだろうか?

 やってみたら出来てしまった。

 これは目で見えない分、対処が難しい。

 それに銃のように打ち出す方向を相手に悟られないからいいな。

 それにこれ…この魔力をらせん状に出して、同じくらせん状の軸を回すことで…。

 俺たちは魔力エンジンともいえる動力を作り出すことに成功した。

 しかし、これには大きな欠点がある。

 人がずっと触れていないと動かないという点だ。

 逆に『人が触れていれば動き続けるエンジン』であるなら、とても使い勝手のいいものがある。


 そう、バイクだ。

 人体からバイクを通って又人体に魔力を回収することで、魔力の消耗を押さえることにも成功した。

 試作機はニンジャ400を改造した。

 並列に魔力スクリューを置くことで、出力も上がる。

 従来にギアチェンジペダルはこの魔力スクリューを何本回すかというチェンジペダルに改造された。

 右手から流れ出した魔力が魔力スクリューを通って左手に回収されていく。

 ガソリンタンクはダミーとなり、その中に小型の魔力スクリューが設置されていった。

 そのうちの一つはモーターと接続し、ライトやハザード、ウィンカーなどの電力を生み出した。

 俺たちはこの魔力バイクの改造にしばらく取りつかれることになる。


 やがて、空を飛び、透明になれて、魔力操作のみで走るバイク『上忍』が出来上がった。


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