32.火魔法【11/4】

「ここが日本の基地なんだね。」

 柾田教授は目を輝かせていた。

「ここでいろんな開発をしていたんです。」

 俺は先生方に説明しながら、隠れ家の中を案内していた。


 今、日本に残っていたスタッフは全員で高校卒業認定試験を受けに行っている。

 これはスタッフからの強い要望だった。

 防御装置の使い方などはレクチャーしたが、心配は心配だ。

 夜には全員が帰還したのでほっとしたが…。

 既にトーフルなどの試験は受けていて、まもなく自宅にスコアが届く予定だ。


 教授たちには基本的にはプロジェクト・ラボからここに転移してきてもらうことになった。

 グループには入れてないので、スキルは使えない。

 そこで魔道具を使った転移にすることにした。


 場所はプロジェクト・ラボと、この隠れ家の転移部屋としている部屋だけの行き来だ。

 事務棟スタッフは基本大学運営の事務を執り行っているので、MITで何かあればすぐに知らせてもらうことになっている。


 これも腕時計を用意して、念話の魔道具に作り変えている。これは男性用と女性用で似たようなデザインのものを購入して来て改造したものだ。


 携帯電話だと履歴を探られてしまうからね。

 腕時計に話しかけるのがみんなにバカ受けしたようで、用事があればすぐに腕時計電話を使うそうだ。

 音声認識してるからね。周りが普通に見ればスマートウォッチだと思うだろう。

 履歴はどこにも残らないし駆動エネルギーは魔力だ。腕から魔力を補充する。


 教授たちにはMITにある様々な論文をインプットしてある。

 スタッフにはアメリカでの経理事務や法律的なもの、税務的なもの、そして大統領選挙に向けての準備ができる知識をインプットしている。


 それぞれにスカウト料として、100万ドル、日本円で10億円程を各人に手渡した。

 100ドル札で一万枚入りのトランクを用意してそれぞれに持って帰ってもらった。

 くれぐれも銀行口座に入れずに扱ってくれとお願いしたところ、ここに保管しておいてくれと言われて、各人の個室を急遽作った。


 総勢200名に上るスタッフが追加された。


 教授たちはそれぞれが学会発表のためなどと偽造して、休暇もかねてそれぞれが出張申請を大学に出している。それぞれ3か月ほどだ。

 そのあとは授業を受け持たない方向で考えているようだ。

 まもなくそれぞれがアメリカを出国し、出張先の国から姿を消すことになる。

 俺たちがピックアップに行くのだ。


 11月3日アメリカの大統領選挙が行われた。

 マイクは落選し、次期大統領にはバイエル前副大統領が当選を果たした。

 そのうちあいさつにでも行くとしよう。

 2期連続で1期しか大統領が務められないだろうからね。

 学長が参加する大統領選挙は4年後だ。

 しかし、すでに次の予備選挙に向けて動き出している。


 今日は11月4日水曜日だ。

 今日は【火魔法】のスキルを授かった。

『火にまつわるあらゆる魔法が使える。』


 ……うん。知ってた。

 これで火、水、風、土の魔法がそろったことになる。

 どこの誰が俺に何をさせようとしているのか…。

 既に精いっぱいやらかしちゃってるけどね。


 教授たちには例のアメリカからもらった資料の内容もインプットしている。

 連日議論を交わし、ようやく理解が追い付いてきたようだ。

 追いついたところでようやく俺たちがすでに開発している重力制御装置と水燃料発電システム、そしてそれらを組み合わせたフライポットをお披露目することができた。

 教授たちはそれらのシステムを前にして、その先のこれらの技術の応用についての議論が始まっている。

 やっぱりこの人たちはすごいや。

 絶え間なくアイデアが湧き出してくるし、それを拾ってメモするスタッフが今はいる。

 日本のスタッフだ。

 彼女たちが教授の傍らで、教授たちが口に出した可能性や必要な資料などをメモして、すぐに用意していく。


 数日後、入り口付近に立てかけられた竹ぼうきに『ニンバス2020』や『ファイヤーボルト2020』などの名前が入っていることに気づいたが、気が付かなかったことにした。


 一通り遊んで満足したのだろう。

 教授たちは自分たちがもともとしていた研究に魔力や魔法の概念を応用して次々に発明を重ねていった。


 しかし、これを世に出すためには魔法の存在を明らかにしなければいけない。

 ある脳科学の教授は

「魔法の存在こそが脳の使われていなかった部分を活性化させる要素だったのだ。」

 と論文を書いているが、どこにその論文を出そうというのだろうか?

 気が狂ったとしか思えないだろうな。周りの脳科学者からしたら。


 一計を案じ、俺が魔力時は近いものだと説明して、東洋における『気』を研究することに収まった。


 俺はたまに呉竹市にあるタワーマンションに立ち寄っている。

 その時ポストも確認しているが、今日は大事な要件の手紙が2通着ていた。

 一つは新しい大統領からの会見の申し込みだ。

 これはまたあとでいいだろう。


 もう一つは美智さんからだった。

 俺はその手紙を読んでアイテムボックスから大型テレビを取り出して、電源とアンテナをつないだ。

 日本のテレビでは俺がインタビューを受けた様子やMITでの生活がすでに放送されていた。

 そしてそこで俺が話したことが物議を呼んでいた。


「NoriさんはここMITで何を勉強しているのでしょうか?」

 インタビュアーの柴田洋子さんが画面の中の俺に質問していた。

「そうですね。知識としての勉強はすでに終わっていますので、今は創造のための勉強をしていますね。例えば新しい技術理論とその実践であるとかですね。」


「その開発されている技術の中にはどういったものが含まれているのでしょうか。」

「う~ん。現代では実現不可能と思われている現象が多いですね。」

「例えば、その一端を教えてはもらえないのでしょうか。」

「そうですね。例えば夢の発電システムとかね。あんまり大きな声で行ってしまうとメジャー辺りに殺されかねませんが。」

「え?殺されるって…。そんなに危険な開発なのですか?」

「開発自体は危険じゃないんですよ。問題は既得損益を守ろうとする人間が人類の進歩を邪魔するんです。そうやって殺されていった人たちがここアメリカでは大勢いますからね。ああ、もちろん日本にも大勢いますよ。」

「それはいったいどういう意味でしょうか?」

「そのままの意味ですよ。日本で国民の皆さんはあまり意識していませんが、新発見や発明が起こるたびに、人が消えていってるんですよ。日本はスパイ大国でもあるし、日本政府は他国からの攻撃から国民や技術を守れませんからね。」


「…」


「帰化したからと言ってそれは日本人になったということではありません。帰化というのは日本国籍を取るための方便に過ぎないんです。だから国会議員などにもうじゃうじゃいますよね。本来持つ国籍の国に有利に働こうとしている人たちが。ああいう人たちから国家機密が漏れて、技術は盗まれ、人は殺されていくんですよ。」


「あまりに衝撃的な意見に思わず絶句してしまいましたが…。」


「今の俺の発言の根拠はこのUSBメモリーに保存してありますよ。これをあなたにお渡しします。でも、このことを公表できるマスコミはいないでしょうね。マスコミ自体がそう言う人たちの会社の経営者に収まっていますから。」


「…」


「日本の最大手広告代理店もその一つですしね。在日企業ですよ。その企業が日本のコマーシャルや番組を作っているんです。マスコミでそこにケンカを売る人はいないでしょうね。まあ、今の発言も使われるかどうか…。このメモリーはあなたにお預けしますね。時期が来れば自然に公表されるでしょうが…。」


 このくだりが放送されてたんだ。

 洋子さんもTV局もよく放映したよな。


 でも、このときのTVクルーってやばくないか?

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