-02.防御策

 俺たちが姿を現したのは長野の山深く。

 その地下に新たな拠点を作り出していた。


「さて、水燃料発電システム(Water fuel power generation system:WFPGS)を作るか。」

 と俺は今までの知識と道具作りのスキルを発動させた。


 燃料は水。それを電気分解し水素を取り出し、その水素の電子を取り出すことで発電するシステム。熱から電気を取り出すのではなく、初めから電気が取り出せるシステム。

 俺は頭の中で今までの知識と理想の完成形を思い浮かべてスキルを発現した。

 目の前の軽トラックほどある装置が水燃料発電システムWFPGSだ。


「よし、できたな。次は重力制御装置だ。」


 重力から切り離し、空に浮かび自由に航行できる乗り物。その膨大なエネルギーにはWFPGSを小型化して組み込むことで解決させる。


 俺の目の前には卵型を長細くした様な形状のポッドが現れた。

 上部にはハッチがついており、そのハッチを開けて乗り込んでみた。

 操縦方法は足の左右のペダルで上昇と下降。操縦桿で前進後進、左右移動。

 操縦桿をひねることで左右の旋回ができる。

 俺は試験飛行を行い、操縦性を確かめた。


 この飛行ポッドには気密性も高めてある。

 燃料として積み込む水を分解してできる酸素も供給できる。

 宇宙空間、水中にも対応している。


 後は武器…なんだけどな。

 レールガンかレーザー銃ぐらいなんだよな。

 これはすでに実用化されているんだけど、ちょっと発想を変えるとこういう具合に高出力、低電力で改良できるんだよな。


 一度単体を作ってしまえば、改造で組み込むこともできる。

 レールガンの玉は…パチンコ玉でいいか。


 …アメリカで乗っていたELWを改造してバッテリーの大容量化、高出力化。

 左手での拳銃タイプのガンで射出。

 後はこのバイクにつなげられるように改造した、大容量バッテリーをアイテムボックスに入れておけばいいか。


 道具作成と各種魔法を組み合わせて魔道具化できそうなんだけど、まだ手の内を全部さらすわけにもいかないよな。


 俺は別にアメリカと戦争したいわけじゃない。

 しかし奴らは必ず報復のために俺たちを狙うだろう。

 そのための備えを今のうちに準備しておくのだ。

 戸籍はすでに全員分偽装している。

 そしてカモフラージュと変装で、他人に成りすますことにも成功している。

 その姿で俺たちは東京やNYの街をぶらついている。


 FBIの捜査もCIAの諜報も街角にある防犯カメラやキャッシュカードの履歴、衛星からのライブ映像などを使うことで、素早く対処できている。

 それに一切引っかからない集団など彼らが捜査出来はしない。


 俺たちは気に入った国の戸籍を取得し、それぞれが拠点を構えている。


 ほとんどが日本だが、中にはフランスやイタリアなどにも住んでいる人もいる。

 戸籍を偽装するといってもその基幹システムに侵入し、根本の履歴から作り上げているので、ばれることはない。

 もっとも一人ずつ、経歴をさかのぼって友人関係を調べようとして、誰もその人物のことを知らないと気づくまでだけどね。


 疑われたと気づいた時点で、別の戸籍と別の顔と別の拠点を用意すればいいだけの話だ。

 これらは地元警察で、その個人名が検索されたとわかった時点でこちらには察知できるようにしている。

 もっとも、近いうちにMITに全員で返り咲こうと考えてはいるんだけどね。

 そのためにも今は全員を守るための武装を作り出す必要がある。


 俺たちは自動防御装置と言えるものを開発した。

 これは気配察知のスキルと土魔法のスキルが連動しているシールドと呼んでいるものだ。

 索敵の範囲を半径300mまで伸ばせたことで、弾丸などを瞬時に察知し、それと同時に鉄のシェルターをドーム状に展開するというものだ。


 これはペンの形で胸ポケットに常に挿している状態で使う。

 手で引っ張るぐらいじゃとれないように服に取り付けている。


 他にも念話を使った警報を鳴らすシステムや周囲の無機物を瞬時にアイテムボックスに収納する装置も作った。これは発動すると相手の武器どころか服まですべてアイテムボックスに収納してしまうため、使うときは注意が必要だ。

 建物まで収納しかねないので一応の重さ制限はつけてあり、3㎏以下のものなら何でも収納してしまうが、その重さも変えれるようにしている。


 全員のフライポットとELWの改造車も作った。

 200台のELWを注文したら、コービーは文字通り倒れた。

 …まあ、あれでコービーは全米一ELWを売った男として表彰されるだろう。

 売り上げだけで6億円だからな。

 次に行った時には店長をやってるかもしれん。


 俺たちは日本でも偽造国籍を作っていたので、新たにバイクの限定解除と車の免許を取っていた。

 今度アメリカに行ったときに全員で車の免許とバイクの免許は取得する予定だ。

 新たな国籍でも口座に100万円ほど入れて、株の売買で資金を増やしている。

 これは銀行にこだわりがなかったのでいろいろな銀行でそれぞれが作った。

 そして株の口座の申し込みをそれぞれで行っている。

 後は新しいスマホを手に入れてアプリをインストールすればいつでも株の取り引きができる体制が整った。


 俺たちが敵の戸籍を奪ったのと同じような方法で口座の凍結や取引の停止をいつされるかわからない状態なので、早めに動いていた。


 俺はMITの学長と再度交渉するために学長室に飛んだ。

 俺がソファーに座って姿を現すと、満面の笑みで俺を出迎えてくれた。


「Norio。君には感謝しているよ。君がアメリカ大統領になれといった意味が今ではよくわかるよ。」

「それはよかった、プレジデント。早速だが、俺たちの復学の相談に来たんだが、今は忙しい?」


「何、復学?これでようやく教授たちが働いてくれるよ。君たちがいなくなってから情熱が覚めたのか、それまで研究していたテーマですら、ほったらかしにしている始末だからね。問題は…。」


「そう。問題はアメリカがどう動くかなんだけどね。俺たちは俺たちなりに自分たちの命を守るための手段は作ってきているよ。」

「そうか。あのレポートを読み解いた君が作った手段なら安心できるのだろうね。問題は教授たちか…。」

「そこで、教授たちも俺たちのファミリーに入ってもらおうかと考えているんですよ。」

「何?彼らもすべてかね?」

「もっとも俺たちと共同では研究したくないという人がいれば別ですが。そうそう。事務棟の方のスタッフも加えておいた方がいいのかもしれないね。」


「う~ん。」

「次の大統領選には出馬するんでしょ?優秀な選挙スタッフは今から作っておいた方がいい。」

 俺たちは顔を見合わせて笑った。

 俺は用意しておいたリストを差し出した。


「このリストに書いてある人だけを極秘にどこかに集めてください。このリストにない人は絶対に来させないでくださいね。すでにアメリカ政府と内通している人たちですから。」

 学長は顔色を変えた。


「すると、この学校も監視されてるということかね。」

「勿論ですよ。約半数の学者と職員は政府のひも付きですね。もっとも俺たちが師事していた先生方はそのくくりには入りませんけどね。日本からくる前にそのあたりの調査はしていますから。」


 俺たちはまずラーニングで学習してもらった先生方を含むスタッフを日本の隠れ家に転移させて研究することにした。

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