27.魔力操作【9/30】
研究室との往復にも慣れて、ホープ・シティ構想を模型化して、ボストンの拠点は毎晩教授たちの巣窟になる勢いだ。
みんながそれぞれの研究室での作業を終えて、教授と共に拠点に帰ってくる。
半地下のプレイングルームには、巨大模型と壁中に貼られた設計図を前にして、いつも誰かが討論している。
いや…、もうこれ以上は入らないって…。
俺は学長に掛け合って、旧校舎を貸し出してもらった。
そこを合宿所として改装するのだ。
俺たちは夜中に全員で、片っ端からアイテムボックスに突っ込んでは修復していった。
最近気づいたんだけど、アイテムボックスの解体、修復、復元、改造とあるが、復元には新品にする効果がある。今更何をと言われたけど、これが新品にしている原因だったんだ。つまり、修復までで止めておけば古いものを修復するという程度で止めておけるんだ。
全部が新品になってると怪しまれるからね。
みんなには建物周りは修復で押さえておくようにお願いした。
但し、トイレや水回り関係はかなり老朽化も激しかったので、復元してから建築で最新の設備に生まれ変わらせることができた。
材料はそこにあるからね。
他にも設備として、巨大模型を置いて討論できる広間も、プレイングルームでの段差を利用した座るところなどを作って、環境を整えていった。
基本、みんな家に帰って寝てもらうのだが、中にはそのまま眠りこける教授たちも出だしてるんだよね。
だから、仮眠室として野戦病院の病室のようにベッドが並べられた部屋も作っておいた。
後は、食事を作るためのキッチン、食堂を新設して、調理道具なども並べた。
日本のリサイクルショップで買ってきて、直した業務用厨房設備や会議机、会議椅子などもリメイクして並べている。
翌日からこの旧校舎をメインに討論の場を拠点から移しておいた。
みんなにもそっちに教授たちを連れて行くようにお願いしておいた。
その旧校舎は≪ホープ・シティ・プロジェクト・ラボ≫と名付けられ≪プロジェクト・ラボ≫と呼ばれた。
俺は今週もスキルを授かった。
【魔力操作】
『魔力を操作できる』
……いや、そのまんまやんけ。
それにしてもここにきてとうとう『魔力』か。
…いや、実際に空も飛べたりしてるから、なんとなく魔法みたいだなという気はしてたんだよ。
でもはっきり魔法とは書かれていなかったし、魔力の存在は意識していなかった。
それと気づいたことがある。
俺がこのスキルを授かりだしてからちょうど半年。
つまり52週のうちの26週が経過したことになる。
スキルを授かるのもあと半年。
そこにきての『魔力』の存在。
これはあと半年は魔法についていろいろと授かるんじゃないかと思うんだ。
俺は何度も体内の魔力を感じようとしているうちに、感じることができるようになってきた。
…これって…拳法でいうところの『気』だよな…。
今まで気は身体を循環する血液のようなイメージのエネルギー流で、それを固めて打つと相手の『気』を乱し、ダメージを与えるということは実体験として知っている。
魔力を感じだしたときにこの『気』の応用範囲がとても広いことに気づいたんだ。
身体の外まで気の線を伸ばしていける。
これをそのまま応用すると、手を振れないでも物を持つこともできるようになる。
……どこまで今の俺たちに必要かと言われたら疑問しかないが、便利なものはみんなで共有して訓練しておいた方がいい。
まだスキルは25個も授かるはずなのだから。
俺がまず魔力操作を完全に覚えてから、メンバーには俺からラーニングした。
義男は魔力操作を使って、遠くの本を取ったりと兎角ものぐさになりつつある。
俺はその様子を見て、こういう奴ほど早く使いこなせれるんじゃないかと思った。
それはさておき。
プロジェクト・ラボには夕方あたりから教授たちが連日通うようになってしまった。
一応決まりを作ってある。
〇食事は各自で取ること。
〇後片付けは各自ですること。
〇自分の家に帰って寝ること。もしくは仮眠室を利用すること。
〇研究資料など部外秘なものも含めて、各自が厳重に管理すること。
…いや…3日ぐらい持たそうや。
3日目ですでに討論素ながら寝落ちる先生方が増えてきた。
そんな先生方はカアサンズに1週間の出入り禁止を言い渡されて、追い出されていた。
校舎前のボードには、謹慎中の教授の名前が張られることになった。
まったく、子供じゃないんだから…。
プロジェクト・ラボに学生も出入りしたいという要望も上がってきたが、これは拒否した。
まず、セキュリティの問題。
MITにも2割ほどあちらの国の学生が留学してきている。
その大半の目的は『最新技術の盗み出し』だ。
今までもかなりの被害が出ているようだ。
このラボはあくまでマジカル・ホープ・シティInc.が借り受けている。
そして中で行われている検討もマジカル・ホープ・シティInc.のための検討だ。
そこに他の学生が入り込む余地はない。
中には忍び込もうとした奴らもいたそうだが、学長自ら、警備体制を強化してくれた。
学長自身も2日に1度はプロジェクト・ラボに立ち寄っている。
そしてそこで討論されている内容に目を見張った。
「Norio。これはすごいことだぞ。ここで討論されている内容は、そのまま月面や火星での都市計画の構想までが含まれているじゃないか。如何に地球を汚さず、使えるものはリサイクルして、循環させていくかということをジャンルを超えて教授たちが真剣に討論している。」
学長はそれらの討論に入ることが楽しいようだ。
そりゃそうだろう。
ここでは最新技術のその先の可能性が討論されているのだ。
つまり、誰も見たことのない世界、未来がここで作り出されているのだ。
技術者として、経営者としてこの討論に興味のないやつはいないだろう。
俺たちは専門家とは違う、マルチプレイヤーとしての発想を期待されている。
物理学をどこまで突き詰めても、主婦が毎日悩む夕食の献立のアイデアは出せない。
しかし、夕食の献立のアイデアから物理学の発想のヒントが生まれることがある。
つまり、俺たちはある意味「発想の触媒」の存在価値が出てきているようだ。
教授たちが書き飛ばした発想のメモだけでこの二週間だけでも膨大な量に上る。
それを毎回保管分析して、翌日専門の先生方に投げかける。
するとまたその専門の先生方がラボに立ち寄る。膨大な発想メモが出る。
俺はそれらを見た時にいくつかのツールを作った。
一つはメモのフォーマットを作ったことだ。
これはそれぞれの教授用に印刷されており、名前は一切書かれていない。
しかし、1㎝程のマークが書かれている。
そのマークはいろいろな動物のマークで、デザインは花梨だ。
これで誰が書いたメモかはこちらで把握しておけるので、その分類のための書類棚も作った。
その書類棚の横の机には日付のスタンプと打診要請と書かれた書類が置かれている。
日付は各メモにスタンプするものだ。
打診要請はそれぞれがどの分野のどういう研究をしている人にこういうことを聞きたいという打診をするための依頼書だ。
この打診要請の書類は、毎朝ユリウスさんが集めてくれて事務局で取りまとめ、各担当教授に配られている。
後は、日本の道場にあるような出席札だ。
これをエントランスホールに設置して、各教授は自分の動物が書かれた札を表にひっくり返しておく。
先生方はこの絵札をすごく気に入り、自分のトレードマークとして愛用しだした。
俺たちにもこのマークはある。というか、俺たちが始めたものを教授たちが欲しがったという経緯がある。
俺はオオカミだ。義男は満場一致で猿であり、源蔵さんは酒徳利を持った信楽のタヌキだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます