24.光学迷彩【9/9】

 今日は9月9日(水)。


 新しいスキルは【光学迷彩】というものを授かった。

『光の屈折を利用し、姿を消せる。』

 某アニメのまんまだな。


 これはすでにできているんだが…。

 でも、この応用には驚いた。

 先週授かった変装と合わせることで様々なものを擬態することができるようになったのだ。


 光学迷彩という技術はそもそも透明になることだけが目的ではない。

 これを使うと、延々と道路が続いているように見える景色が実際は崖で道が途絶えているというような状況も作り出せる。

 まあ、どういう使い方ができるかは今後次第ということで。


 さて、刻一刻とドーム公演が近づいてきた。

 美智さんはさっそくチケット販売を今週の月曜から始めた。


 売り出したチケットは5万人分/日×9日間で45万人分のチケットだ。

 これが受付開始と同時に回線がパンク。2時間後チケット受付センターのサーバーを増加させて受付を再開したが、30分経たずに完売したようだ。


 俺たちは呉竹市郊外にあるスタジオを借り切って、ニューアルバムのレコーディングとファーストアルバムの英語バージョンも録音した。これはMITの学長へのお土産だ。

 しかし、美智さんがそんなことを許してくれるわけもなく。

 ドーム公演限定で英語バージョンの発売が決定した。


 こちらは入場とは別の窓口を用意してそちらで販売することになったそうだ。

 それぞれのバンドのオリジナルグッズも続々と届いている。

 これらのデザインはパワーストーンのデザインチームと三頭身キャラのメインデザイナー花梨さんとの合作である。タオル、マグカップ、キーホルダー、ポストカード、ボールペン、レターセットなどあらゆるものが出来上がってきたのだ。


「これってWitchの分もあるの?」

「もちろん。」

「使うところあるのかな…」

 俺が手に持っているのはサイリュームやペンライトだ。

 女の子バンドのDropやPOPバンドのBrainmenならわかるんだけど…。


 俺たちWitchはSkipping dogとFairy feastでのステージもある。

 出番としてはFairy feastが初めに5曲、で俺たちが合流してWitchとして5曲、Skipping dogとして5曲、そして最後はまたWitchとして全員で8曲やる予定だ。

 当日は母さんたちもスキルドローンで撮影してくれる予定になっている。

 それを後で編集して美智さんに渡し、ライブDVDで発売する予定だ。

 その映像の中からカットした写真集も発売されるそうだ。


 東京ドームのステージ図が上がってきた。

 早速誰かが模型を製作して、カアサンズがカット割りやドローンの飛行計画など、余念がない。

 日本での節目のお祭りではあるからね。

 みんなが楽しんでくれるならうれしいな。


 そうそう、ようやくしおりのお父さんが合流することになった。

 今まで世界中飛び回っていてなかなか捕まらなかったんだ。

 さすがに妻と娘がアメリカに留学すると聞いて帰国してきたようだ。

 しかし、すでに夫婦間での価値観もばらばらになってしまっていたようで、お父さんには現地に子供もいるようだ。

 残念ながら離婚を選択された。


 うちの会社離婚率がものすごく高いよな。


 俺考えたんだよ。

 俺の力って実は不幸ばかり生んでるんじゃないかって。

 でもしおりたちと話して分かった真実が少しある。


 それは日本の男性はプライドが高く、女にその領分を侵されることに我慢できないということ。

 これっていまだに武士の精神を引きずってるってことなのかな。

 女は家でおとなしくしていろ。女がいちいちでしゃばるな。俺の言うとおりにしておけばいいんだ。


 こういうセリフをこの半年いやというほど聞いた。


 これは女性が知識をつけて世の中を回しだすと男性に不都合があるから怖がっている証拠でもあると思うんだ。


 そして例外なく離婚した女性は生き生きしだす。

 男性の方は落ちぶれていく。

 何だろうね世の中って。

 16歳にしていろんなことに悟りが開けそうだよ。


 俺はいまだにしおりのことが好きだ。

 エッチなことをしたいというより、一緒に人生を歩いて行きたいって気持ちが強いね。

 この部分は仲間みんなに共通しているんだけど…。

 もちろん機会があればエッチなこともしてみたいけど、なんか今は違うっていう気持ちが強いんだよね。

 なんだろうな。


 知識が増えれば増えるほど、世の中ってやつが少しずつ分かってきて、衝動的な欲望というやつがなくなっていくというか少なくなってくるんだよな。


 …なるほど。これも一つの真実かもしれない。

 知識が少ないほど人は暴力的になるし、お金も稼げなくなる。

 この推察だけで一つ論文が掛けそうだ。


 暴力的に人を支配している奴には理屈で言っても暴力で屈しなければならなくなる。

 逆に言うと暴力的な奴らにはそれ以上の暴力でしか抵抗出来ないってことになるんだよな。


 何でこの行動原理に近いことが法律に組み込まれてないのかね。

 人権を過剰に主張する人たちや戦争を不潔なものとばかり毛嫌いするような人は、暴力そのものを否定しようとするからダメなんだろうな。

 その挙句衝動で暴力振うから過激な団体だとみられるんだよ。


 ふ~。


 考えると気が滅入るね。


 俺たちはもともとIQが高いわけでもない。

 俺たちはただ『知識が多い』だけなんだ。


 だから知っていても失敗する。

 覚えているはずなのにど忘れする。


 知っていることに気づけないという現象がよく起こっている。

 同じ時間を体験したといっても決して同じ経験をしているわけではない。

 つまり、その時どう判断したのか、どう行動したのかはその人のノウハウであって、同じ時間同じようにそこにいたとしても、他のことを考えて行動していると同じ経験したことにはならない。


 以心伝心でラーニングを使うと、こういう当たり前なんだけど気づけない真理に気づくことがある。

 あ、この時この人はこんなこと考えてたんだとか、気づいてしまうんだよね。

 それは些細な会話にも出ているし、その後の行動にも出てきていると思う。


 これは友人関係でも、仕事関係でも言えることだろう。

 しおりの家の離婚を機会に、俺はいろいろと考えていた。

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