-02.シークレットライブ

 それとほとんど入れ替わりで俺に来客があった。


 出迎えると残念教師としおりと義男の担任の先生だった。

「始業式がようやく追わったんで、急いできたわよ。あなたたち本当に合格したのね。教育委員会にもMITの事務員のユリウスって人から電話があったそうよ。それと学長からも入学を許可したので彼らをリリースしなさいって、まるで拘束しているみたいに書かれてたって教育委員会の人が言ってたわよ。」

「プレジデントが連絡入れてるって言ってましたからね。あ、プレジデントというのは学長のことなんです。MITの理事会はコーポレーションと呼ばれていて76人の各界で優秀な人たちが名前を連ねていてそのトップだからプレジデントなんだそうです。」

「そんなことはどうでもいいんだが。君たちはいったいどうやってMITの入学を勝ち取ってきたんだ?確か2週間ほどしか渡米していなかったはずだが。これはここの人に確認したから間違いないはずだ。商店街の騒動が起こった時に一度内容を確かめるためにここに訪れたからな。」

 その件に関しては報告を聞いていた。


「何って、死ぬほど勉強して、論文書いて14人が14学科のそれぞれ志願した教授に送ったんですよ。そのあとに会いに行った。どうしてもMITに入りたいとお願いしたら、すぐに入学試験を受けさせてくれて。」

「あなた方9人以外にも合格者はいたわけね。」

「ええ。ちなみにそこにいるうちの妹は中学一年生ですが、彼女もMITの聴講生として入学を許可されましたよ。もちろんいろいろな書類を用意しなければならず俺たちと一緒に帰国しましたが、書類が届き次第MITに提出して、本学生として入学します。」

 美香を見ると胸を張っていた。

 美香たちも本日付で中学校からMITへの飛び級を伝えたはずだ。

 日本の中学が許さなくても相手が入学を許してくれてるんだからね。


「あ、そうそう。みんなの母さんたちも入学が決まっていますよ。美香と同じで必要書類ができ次第渡米しますけどね。」

 京子先生たちはさらに驚いていた。


「なんで…なんであなたたちはそんなに勉強ができるの?」

「違いますよ先生。日本の教育のような詰め込み教育じゃなくて、理解させるための教育を俺がしたからですよ。そうそう。前に俺が言いましたよね。俺の手法を広めたら教師がいらなくなるって。その方法を見つけましてね、今日から配信を開始するんです。」

 といって、今日の18時から配信する予定の小学校、中学校、高校の動画配信講座のHPの画面をタブレットで見せて、ミラーリングで大型モニターにも映し出した。


「この動画配信サイトが私達教師を廃業に追い込む武器だというのか?」

「違いますよ先生。あくまでも今までのように学習要綱だけに頼っているというような教師には誰も生徒がついていかなくなるというのが正解です。生徒に考えさせて解かせるための教育方法がこの動画配信サイトで放送する動画なのです。もちろん営利企業なんで有料ですよ。1動画100円ですけど。」

 食い入るように見つめる先にはなぜこの動画配信を始めたのか。なぜ今必要なのかを俺が説明している動画だ。

「先生がご存じのあの模試を実施している大手予備校が共感してくれましてね。そこでもこのサイトを紹介してくれることになっているんです。あの予備校も大きな方向転換をして、大学入試模試の専門機関になるようですよ。」

 俺がそう言うと大型ビジョンの隅に写り込んでる予備校名を指さした。


「これが今日から配信だと?」

「はい。初年度だけ1学期の学習範囲は無料で動画を公開する予定です。これでみんなの復習もばっちりですね。」


「ふざけるな!じゃあ、私達教師話生き残れないというのか。」

「だから先生には夏休み前に言ったんですよ。教師を辞めてうちに来ませんかってね。もしよければお二人もどうですか?まあ、今年度末まで教師をしてみて俺の言ったことが本当になるかどうか見極めてからでも3人なら受け入れますけどね。ああ、その時はMITに入学しなおしてもらいますから、長期滞在ビザやI94、トーフルのスコアなんかも用意してもらいますけどね。」

 俺はそう言って画面を食い入るように見る3人の教師を見ていた。


 その後しばらくして3人の教師は帰っていった。

 またそれと入れ替わるようにして美智さんからのヘルプコールがかかってきた。

「だめだ。私たちでは抑えきれないわ。のり君何とかこの場を納めて頂戴。とにかく市民ホールに来て。」

 俺は慌ててメンバーに連絡を取ると作業はすでに終わっていたらしく進捗状況の確認やトーフル試験や高校卒業認定試験、それにビザ付きパスポートの取得方法などをレクチャーしていたようだ。

 みんなは会社に戻ってきてすぐにステージ衣装に着替えて全員サングラスをかけた。

 美智子さん、喜久子さん、ほのかさんが運転する車にバンドごとに分乗して、市民ホールを目指した。

 俺たちはマイクロバスで、他のバンドはワゴン車での移動になった。

 結構地下の駐車場に車が止まっていた。

 高級外車や軽バンなどもあった。

 いろいろと入手してくれたのだろう。

 俺たちは観客に気づかれないように市民ホールの裏口からホールに入った。

 美智さんと話をする。

「もういや!スタッフにつかみかかってくる男性客なんかもいて大変だったのよ。警備で排除したけど限界なのよ。テレビ局もすごい数が詰めかけてきてるのよ。」

「ここでPVながすのかとおもってたんですが。」

「あああ…その手があったか…。」

「まあ、俺たちが来たんで俺たちが収めますよ。」

 そう言って市民ホールのステージにつながるマイクを一本借りて、ブルースハープを吹き出した。

 一瞬にして静まり返り、そのあとに爆発したような歓声がとどろいた。

 俺が実際に吹いていることに気づいたようだ。

 俺はハープを吹くのをやめマイクに話し出した。

「俺たちのCDを買うために集まってくれてありがとう。聞いたところ全国のCDショップに並んでいるはずなのにすでに予約で完売したといってました。大変申し訳ないと思っています。CDはすでに増産のプレスをかけています。みんなの手元に届くまで、もう少し待っててください。この会場にお越しの皆さんは一度会場から出てください。そして入り口に改めてCDの売り場を設けますのでそこでCDを買った人だけ会場にお進みください。この会場に集まった人たちだけに送るシークレットライブを開催します。」

 俺がそう言うとまた爆発的な絶叫が聞こえた。

「係員の指示に従って一度ホールから退出してください。係員の指示に従わない場合はライブは中止します。全員で楽しんで帰れるよう、お互いに協力してくださいね。その間俺はここでずっとハープを吹いていますから、係員の誘導に従って動いてくださいね。決して座り込んだり、駄々こねたりしないように。周りのお客さんに袋叩きにあっても一切関知いたしませんのでご了承ください。」

 俺はそう言ってハープを再び吹き出した。

 俺の話を聞いて美智さんも素早く動いてくれた。

 30分かけて一度全員出てもらい徐々に観客を入れだした。

 一度ゲストクリアした時点でステージ前に防護フェンスを置いて、警備員を配置させた。

 係員からくれぐれも前に押していかないように注意が繰り返された。

 あまりに前に詰め掛けて危ないようなら主催者判断で中止しますというアナウンスも入れてもらった。


 警備の担当者には卒倒している人などはすぐに運び出せる体制を取ってもらった。徐々に会場は満員になりだし、最後の観客を入れて会場を閉じた。

 その頃には様々なところから、観客が集まりだしたが、そこまでは面倒見切れないからね。

 俺たちのシークレットライブは各バンド1曲ずつで、Michiさんが書き下ろしてくれた新曲をやった。もちろんこれはCDに入っていない曲だ。

 既に美智さんが用意していたこの会場でのCDは完売していたので早速撤収に入った。うわさを聞きつけて集まった観客などもいたようだけどそこまで感知しない。


 グースレーベルは改めてCDを100万枚プレスした。

 この100万枚は俺がアイデアを出してジャケットの写真を入れ替えたのだ。

 チラシは1,000枚、ポスターは300枚印刷していたが、どれもこれもネットでプレミアがついてしまい、販売できなくなってしまった。


 俺は面白がってマジカル・ワールドの販売店のみで買える各メンバーの3頭身イラストを使ったビニールキーホルダーを販売した。

 あっという間に100万個を売りつくし、現在増産中。

 おかげでパワーストーンショップ『星のいのり』は連日大盛況になって、俺がデザインしたと店員から聞いたブローチやペンダントなども完売していた。


 いや~。日本人てブームに弱いんだよな。

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