-10.オーディション
俺たちは階段を下りて店のドアを開けた。
入ってすぐに2人ほどが入れるチケットカウンターがあり、そこに一人の女の人がいた。
「いらっしゃい。君たちオーディションに来たのかな?」
「はい。南高の軽音部の部長に誘われて受けに来たんですけど、部長たちはこれなくなったそうで…。」
「ああ。さっき電話があったよ。で、君たち結構多いけど何人なんだい?」
「全員で10名ですね。」
「えらく多いね。ふつうは5人ぐらいの編成なのに。」
「ええ、まあ。」
「まあ、ステージには立てると思うけどそんなに動けないだろうね。じゃあ、君たちの出番は最後だから、客席ででも見てるかい?あいにく楽屋はいっぱいでね。」
「はい。じゃあ、客席で見させてもらいますね。」
俺はそう言ってみんなで客席に入ってテーブルを囲んで座った。
このテーブルは4人掛けだな。3つのテーブルを使うことになる。
しばらくしたら客席の電源が落ちて、オーディションが始まった。
主催者の話によると今日オーディションを受けるのは5組だそうだ。
早速演奏が始まった。
この人たちも高校生なのだろうか。
う~ん。なんだろ。テンポが合ってないっていうか、ギターが走りすぎてるのかな。それにつられて、ドラムとベースもがたがただな。歌もただがなりゃいいって感じの歌だな。
そこまでの感想を持った時、演奏が止められた。
「君たちもっと練習してから来てくれるかな。」
と先ほどあったオーナーらしい女性に言われてしょんぼりしてステージを下りていった。
「下手だと最後まで演奏させてもらえなさそうだな。」
と義男が言ってくるので
「そりゃそうだろ。店も金とって客入れるんだからな。下手な演奏する奴ら使うと店の評判がた落ちだろう。」
俺たちがそんな話をしているうちに次のバンドがスタンバイしていた。
…………
「これなら私たちの方が演奏うまいよ。」
「美香ちゃんバンドか?」
「そんな名前じゃない。今考え中なの。」
「美香ちゃんバンドでいいじゃないか。覚えやすいし。」
「いやよ。なんかもっとかわいいのがいい。」
「美香ちゃんバンドもかわいいよ。」
俺たちは次々に演奏を止められているのを見ながらそんな話をしていた。
「あ、思いついた。『ブレーメン』なんてどうだ?ブレーメンの音楽隊。」
「あの絵本の?豚と猫と鶏?ほかにもいたっけ?」
「…豚じゃないよ。ロバ。ロバと犬と猫と鶏。お前たち5人だからついでにひよこでも一番上に足しておけばいいじゃない。」
「う~ん。…いいね、それ。よし、私たちのバンドはブレーメンだ。」
「次、…ああ、あんたたちだったね。えっとバンド名は?」
「Witchです。」
「Witchね。魔法のような音楽を聞かせてくれるってかい。どうぞ、ステージは空いたよ。」
そう言われて俺たちは各自ケースから楽器を出して、ステージに正面から上がっていった。
美香はまだ客席のままだ。
「じゃあ『アウトレイジ』って曲を。」
俺がそう言い終わらないうちに義男がタイミングを取り出し、たたみかけるようなビートで演奏が始まった。合間合間にホーンセクションが入り、イントロが進んでいく。
ふっと音が止み、俺が歌いだす。又ドラム先行でビートが刻まれていく。
ところどころでしおりのギターのソロが入り、俺はリズムを刻みながら歌っている。バックではキーボードも入り、音の厚みが増していく。そこにホーンセクションとパーカッションが入りサビになだれ込んでいく。
この曲はここ最近俺が感じている「怒り」を表現している。
荒々しく、暴れだしそうなほどの感情を胸に秘めてる。そんな曲だ。
結局止められもせず、最後まで歌いきった。
ステージにはライトが当てっているのでオーナーの女性がどんな顔をしているかわからない。
何も言われない。
俺たちは戸惑っていたけど、どうせならやっちゃえと美香に手招きしてステージに呼んだ。
「何も言われないんで、まったく違うカラーの曲を。フラワー。」
今度はホーンセクションの迫力ある音で一気にはじけ飛ぶように始まった。キーボードとパーカッション、ホーンセクションだけでイントロ部分は進み、しおりの歌が早口言葉のように、メロディを紡ぎながら進んでいく。
Aパートを歌い終わった後にドラムがバン!とベースとギターも入りだす。
このあたりを大分、苦労して考えたんだよな。
つぼみから開花するその一瞬。
そういうのが表現したくてこのフラワーという歌は出来上がった。
しおりがこだわりにこだわった歌だ。
学生時代の自分たちはまだ蕾で、それが開花するのがいつなんだろう。
大学に行くことなのか、社会に出ることなのか。
じゃあ、高校生でも起業した私たちはもう既に開花してるのかな?
そんな感じの歌だ。
これも実体験をもとにして歌が作られている。
しおり独特のかわいい声が振り絞って歌うことですごく必死にもがいているのが伝わってくるんだ。
やがて歌が終わった。
用意していたのはこの二曲なので俺たちはステージを下りようとしてマイクに言った。
「え~っと。だれにも止められなかったんで調子に乗って2曲やらせてもらいました。用意してたのはこの二曲だけなんで、終わらせてもらいます。Witchでした。」
俺がそう言うと、今までオーディションを受けてた連中も、オーナーからも拍手をもらった。
俺たちはそれだけでうれしかった。
俺たちはアンプを切り、シールドを抜いて、巻き取りながらステージを下りていった。
満面の笑みで、少し泣いたようにも見える顔で、オーナーが近寄ってきて声をかけてくれた。
「いやー。久々に感動したよ。最近はよく音だけデカいバンドがあるけど、うんざりしてたんだ。なるほど10人でやるわけが分かったよ。あんたたちの音楽にはあのホーンセクションもパーカッションも必要なんだね。音の厚みがすごかった。メロディも演奏もすごかったけど、やはり歌に合わせてボーカルが変わったのは衝撃的だった。同じようなリズムを持ちながらも全然違う音の世界があった。あの曲は君が作曲したのかい?」
「いえ。メンバーのお母さんが作曲してくれてるんです。それぞれのテーマ曲というか。うちのバンドは全員が1曲ずつカラーの違う持ち歌があるんです。歌詞はそのボーカルを取る人間が書いてます。」
「す…すごいね。そのお母さんが作る曲の世界観がすごい。それに二曲目で入ってきた女の子ってまだ中学生ぐらいよね。」
「はい。まだ中一ですね。俺の妹です。」
「あの子のギターもすごかった。主張しすぎずそれでいて個性は十分だせてアピールしてきていた。いや~。久しぶりの掘り出し物だよ。」
オーナーさんは俺に握手を求めてきた。
「まだ自己紹介もしてなかったね。私の名前は仲間美智。このライブハウス、グースネストのオーナーでインディーズレーベル『グース』のオーナーでもある。君たちレコード出してみないか?オーディションはもちろん合格だよ。来週から早速出てもらいたいぐらいだけど、すでに今月は出演バンドが決まっているからね。」
俺はギターケースにギターをしまいながらギターケースのポケットに入れておいたCDを取り出して渡した。
「これ、俺たちの今のところ出来ているオリジナル曲が9曲入ってます。これは演奏しているのもWitchで9人です。今日の妹は飛び入りでして。そしてこっちのCDは男3人のユニットで作った曲です。ユニット名はまだ考えてません。そしてこっちは女性だけのユニットで作ったものです。」
「これ、全部オリジナルなのかい?」
「はい。Witch名義の曲はすべて作曲は徳田美智子さんが作曲して作詞はそれぞれが書きました。2つのユニットの方はすべて俺たちのオリジナルですね。」
「これ、聞かせてもらってもいいのかい?」
「はい。もし演奏をとちってできなかったり、途中で止められたらこれを聞いてもらおうとして作ってきたんです。ぜひ聞いてみてください。あ、それとこれが俺の名刺です。」
「マジカル・ワールド代表取締役社長?あんた高校生でしょ?」
「はい。高校一年です。今年南高に入学しました。」
俺もオーナーから名刺をもらい、必ず電話するといわれ、俺たちは引き上げていった。
「う~ん。俺たちのデビューも近いかも。」
と、義男。
「確かに、あのオーナーさんの表情見たら相当感動してたよね。涙の後もあったし。」
と翼。
「そういうのは気づいても言わないの。」
と都。
それぞれが楽しんでオーディションは終わった。
あ~楽しかったな。
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