‐08.侵入そして撤収

 みんなが一通りの動きを考えているのを見ていた。


「次はBチームが橋田組です。橋田組は大きな敷地にドーベルマンが放し飼いしてあるそうです。気配遮断はしていても、においなどで察知する可能性もあります。そこでこういうものを作ってあります。これはBチームだけではなく全チームに支給しますが、唐辛子と胡椒が中に入っています。これを犬の鼻先で割ってください。」

 と俺は小さな風船の中に胡椒と辛子を詰めて膨らませたものを取り出した。


「これは今日襲撃する予定だった橋田組対策として、水風船のポンプを使って作りました。なんでもリサイクルショップで買っておいてよかったです。」

 みんなはため息のような笑いを漏らした。


「みんなのジャンプ力はおそらく3階建てのビルなら登れるぐらいジャンプできます。大体15mほどですかね。自分の身体能力がどこまで上がっているかはそれぞれが確認しておいてくださいね。橋田組も後はAチームと同じです。屋上に上って上から下に襲撃していきます。なぜ玄関から行かないかというと、玄関には襲撃対策がされているからです。下手すれば中に入ることもできなくなります。そんな時は気配察知で中の人間を探って持っている武器を片っ端から収納します。そのあとに扉も収納しちゃえば突破できます。みんなのアイテムボックスは既に制限が取れていますので、家一軒であっても収納できるはずです。ただ生き物は入れられない仕様みたいなんで、人がいるとどうなるのか怖くて実験していません。機会があれば実験してみてください。おそらく生き物だけがはじかれて、収納しようとしたものだけが収納できる気もしていますが。」

 ここで話を切り、コーラを一口飲んだ。


「さて最後のCチームですが、これは厄介なことに地下に木本組の本部があります。少し離れたところから全員で片っ端から収納していって、最後に地下室ごと収納してもいいし、扉を収納してもいいです。地下室ごと収納すると、上のビルが落ちてくる可能性もありますから、やはり地道に収納していった方がいいと思います。あとは潜入方法ももうお話ししたとおりです。何か質問はありますか?」

 と俺は見まわしながら聞いてみた。時間は22時になっていた。


「なければここでレクチャーは終了です。駅への最終電車が0時51分なので、それまではまばらに駅前にも人がいるでしょうから出発は午前2時としますね。午前3時が襲撃開始時間です。それまで各自公園などで自分の身体能力を試しておいてください。それと不測の事態が起こったら俺に直接念話をください。恐らく俺のところは30分もあれば一応終わると思います。ああ、それと尋問した後ですが、みんなが無事ならそのまま隠し場所などを襲撃していきます。本部付けの方は聞いた傍から地図で場所の特定をしていってください。セキュリティのしっかりしたマンションなどは、逆に昼間の方が侵入しやすいかもしれませんね。その判断も本部でしてください。わからなければ現場の実行部隊にわからないとだけ伝えてください。実行部隊は無駄足でも確認に向かってくださいね。ほとんどが本部に詰めていればいいですけど、下手に本部にいない連中が明日以降にお金や武器、麻薬を移動することになるとまた手間がかかりますからね。」

 俺はそう言ってみんなに休憩してもらうように促した。


 俺も少し眠るとしよう。

 俺はリビングでそのまま寝転がった。


 スマホのアラームが午前一時半になった。

 みんなは起きていたようだ。

 俺は今日で2日間徹夜だったから眠かったんだよ。

 少ししか寝てないけど結構すっきり起きれた。やっぱり寝て良かった。

 みんなも少しは寝たようだ。結構すっきりしている。


 みんなそれぞれトイレを済ませたり、準備に余念がない。

 ライトは各自にLEDライトを持たせてある。

 あくまで隠密で動いているので、ライトを使うのは何かを確認するためだろう。


 午前2時になった。

 俺たちは各班に分かれてそれぞれが出発した。

 念のため各人に拳銃と替えの弾倉なども渡しておいた。

 銃撃戦はよっぽどのことだろう。そんな時は慌てず相手の銃を収納するように言っている。銃の扱いはすでに全員学習しているので問題はないだろう。

 ナイフも各人が一本ずつ持っている。これも昨日押収した武器だ。

 コンバットナイフなどが武器庫と思われるところから大量に見つかったので、それらをリペアして渡している。念のためそれらも刃も含めて真っ黒に改造している。


 目的地に行くまでに公園があったので各人そこで、飛んだり跳ねたり走ったりして、自分の運動能力を確かめた。やはり15mぐらいは全員飛べた。


 午前3時になった。

 俺たちは美香を残して跳躍し、3階建てのビルの屋上に降り立った。


 俺は気配察知で階下の気配を探ってみた。

 うん。やはり2人程度だな。

 俺はドアに隠密を掛け、ドアをねじ切った。

 まず俺だけが下りるから合図してから一人ずつ降りて来てくれと念話で伝えて俺は気配遮断が効いている状態で階下に降りていった。

 ドアがあり、ここにも隠密をかけてねじ切った。

 ドアを開けて素早く中に入った。やはり、ここは炊事場とかバックヤードあたりなのだろう。そのまま中に侵入していった。


 すると話し声が聞こえた。すでに胸元のカメラは作動している。

「塚本組が壊滅されたってことはまた俺たちのシマが増えるってことだ。あそこがなかなか駅前の利権を離さんかったからな。なくなってくれてせいせいしたぞ。」

「へい、親分。しかし、どこの誰が塚本組を壊滅状態にまで追い込んだんでしょう。」

「恐らくあの地下で違法カジノを開いとる木本組の連中だろう。

 最近連中は羽振りがよかったらしいしな。どっかの金づる捕まえたか、それともどっかと手を組んだのかもしれん。」

「それだとうちもうかうかしてられませんね。」

「だからこそ、若いもんに塚本組のシマ荒らしに行かせとんじゃ。今晩中には片が付くじゃろ。」

 俺はそこまで聞いて、部屋の中に入り、まず若頭とみられる男の意識を刈り取り、その倒れた男に気を取られた親分の首筋を掌底で打った。俺はさっそく拘束を開始しながら念話でみんなを呼び寄せた。美香にもこの念話は届いているはずだ。


 まず第一フェーズ終了。早速親分には猿轡、目隠し付きで拘束。

 しおりさんは目につくものすべてを収納していっている。俺は親分と若頭を身包み剥いだ。

 おぉ。スゲー掘り紋だな。

 俺は若頭に目隠しして、尋問を開始した。


『おい、起きろ。大きな声を出すとお前の命はすぐになくなる。今外に出ている組員は何人ぐらいだ?』

「う…うぅ。お前は誰だ。どこにいる?」

『質問は俺がしてるんだよ。外に出ている組員はどれぐらいいる。』

「そんなの知らねぇよ。」

 鑑定は尋問中ずっと使っている。嘘ではなさそうだ。こいつが全体を把握してるわけじゃないようだな。


『質問を変える。ここのビル以外にお前たちが隠している武器や金、麻薬の場所を教えろ。』

「そんなこと言えるわけねぇだろ。俺をだれだと思ってるんだ。」

 俺は念話を通して鑑定で読み取った場所を、本部に伝えるようにすみれさんに指示した。


『そんな態度だとお前もすぐに死ぬな。組長の後をそんなに追いたいのか?』

「く…組長を。お前なにしやがった。」

 この若頭は周りの状況が見えないので、焦りだした。

「おい、おめえら、襲撃だ!こいつを殺せ!」

 と大声を出した。

『じゃあな、約束守れなかったようだな。』

 俺はひざとひじの関節を足で踏み抜いて壊した。

 親分の方も同じようにした。親分にも目隠しはしている。

 若頭の声を聴いて若い衆が組長の部屋に殺到してきた。


「おめえらどこから入ってきやがった。…あれ?若頭?」

 誰もいないことと何もなくなっていることが不思議でその男もきょろきょろしだした。俺はその男も意識を奪ってタイラップで拘束し、目隠しをつけた。

 俺は階段を探り、階下へと向かったこの2階に一人いるようだ。

 俺は念話で、源蔵さんに2階の組員の意識を奪って拘束しておいてほしいと頼んで俺は3階に戻った。


 さっきの男を起こして尋問を始める。

 すると実働部隊の男だったようで、様々な隠し場所が鑑定で分かってきた。

 どれだけ分散してるんだ?

 これは一苦労だな。

 俺はその男の肘とひざも壊して猿轡をはめて、下に降りた。


 下の階の制圧は終わっていた。しおりさんは徹底していて、壁の中や天井にあった武器や麻薬なども押収していっていた。

 念話で源蔵さんに聞くとこの男からもいくつか情報は取れたが、さっきの男の情報とほぼ重なっていた。この男の女のところだけが重なっていなかった。

 俺も鑑定で見たので確かめられた。


 う~ん。全部で20か所ぐらいか。

 今俺のアイテムボックスの収納って30mぐらい先ならいけるよな。

 マンションやアパートなら家の外から丸っと収納していこう。


 俺は1階に行った。

 そこには7人ほどのチンピラ風の男たちが酒を飲んでポーカーをしていた。全員で手分けして一斉に意識を刈り取った。

 こいつらも拘束して猿轡と目隠しをして、尋問してみたが、新しい情報は出て来そうになかった。


 しおりさんは回収ができたと合図してきたのでそのまま玄関から俺たちは撤収した。

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