‐06.ウィザーズ(Wizards)
「何があったか話をしてくれる?」
俺は美香たちが絡まれたところから話をした。
女をさらってこないと〆られると男たちが話していたこと。
放置しておいたら他にも被害者が出る可能性があること。
ナイフを平気で出してきたので相当質の悪い連中だと目星をつけたこと。
隠密を使って衣装も着替えて、まず高校生から聞き出したハローというスナックに侵入したこと。
そこで中学生か高校生の女の子が3人、今にもレイプされそうな現場に出くわしたこと。
俺はそこで思い出して、その時に撮ったビデオを部屋にある大型テレビで映し出していた。
そこには女の子たちが嫌がるのを無理やり乱暴しようとしているシーンが映っていた。
俺は頭に血が上り、この男たちの腰を砕いたこと。
女の子たちに念話で逃げて交番に助けを求めるように伝えたこと。
会話は一切されていないので男たちのうめき声と女の子たちの声だけしか録音されていない。
女の子が逃げ出したところでビデオを止めて続きを話した。
この男たちから、もともとの指示は塚本組から出ていることを知り、警官と入れ違いで外に出て塚本組を探したこと。
で、屋上から忍び込んで事務所にあったものを全部奪って全員の腰と肩を壊しておいたことを話した。
「そこまでしなくてもよかったんじゃない?」
と母さんが言った。
「う~ん。母さんには申し訳ないけど、俺本当はあいつら全部消したかったんだ。文字通りこの世から消すってことね。殺してアイテムボックスで収納して、誰にもわからない場所で廃棄することもできたんだ。
でもさすがにそこは思いとどまったよ。
レイプされかけた女の子たちを見て、美香やしおりたちがこうなる可能性に気づいたんだ。
その日はたまたま俺が傍にいたからよかったけど、他の日ならどうなったか。ほかの人はどうなるのかを考えたら、こいつらを消すしか思い至らなかったんだよ。」
「それはあまりにも短絡的ね。」
と、母さんは俺をたしなめた。
「うん。だからあの程度で済ませたんだ。もっとも二度と自分で歩けないだろうし、腕もまともに動かせない。これからは人を暴力で脅して言うことを聞かすなんてことはできなくしてやったんだ。」
「それはあなたがやる必要なないわ。警察の仕事よ。」
「確かにそうなんだろうね。けど実際にその警察の目をすり抜けて、あの店でレイプされそうになっていた女の子はいた。こいつらは元から絶たないとだめだと思ってとりあえず塚本組を全員潰したんだ。」
「……取りあえずって、あなたほかにもまだする気なの?」
「うん。どこまでやれるかわからないけど潰して回るつもりだよ。」
そこまで言ってから俺は昨日押収した薬や拳銃、銃弾を机の上に取り出した。
全員が息をのんだ。
「これ昨日一晩で押収してきた武器と薬だよ。
薬の方は錠剤になってるけどこれも立派な麻薬だよ。
俺は尋問しながら相手の頭に浮かんだことを鑑定していったら、こいつらこの町の高校生どころか中学生にまで薬を売りさばいていたことが分かったんだ。
今中途半端に俺が手を引くと、薬を切らした人達が何を起こすか予想付かなくなるんだ。
それにこの町に入り込んでいる暴力団は塚本組だけじゃない。
あと3つの暴力団がそれぞれ手を広げてるんだ。
かあさん、わかるかい?
美香のクラスメイトがそれとは知らずに覚せい剤に手を染めてる現実がここにあるんだ。
それを警察は防げてるかい?
無理なんだよ。
だって犯人の人権まで考えてたら悪いやつが悪いことし放題になっちゃうんだもの。
だから、俺は美香が襲われそうになってるのを見た時に決意したんだ。
この町からそういうやつらを一掃するってね。」
俺の話に全員が黙ってしまった。
自分たちが暮らしているすぐそばで静かに進んでいた犯罪。これは誰でも怖い。
かあさんはふ~っと息を吐いた。
「わかったわ。あなたはあなたに授けられた力を使って平和な町を作りたいのね。じゃあ親として私も協力するわ。だから勝手に無謀なことはしないと約束して。」
「…うん、わかったよ。母さん。」
すると全員からそれぞれに声がかかった。
「本来俺たち大人の方がこういうことに敏感で、排除しなきゃいけないんだがな。」
「そうよね。でも気づかないより気づいた方がましだわ。そして気づいたからにはゆるしちゃいけない、ううん、許すべきじゃない悪は徹底的に駆除しなきゃね。」
「私たちはこうしてのりちゃんのおかげでかなり身体能力も上がったし感覚も鋭くなったわ。他の人たちより断然強いもの。合気道や太極拳、杖術も習ったしね。」
そこで俺は一つ思い出した。
「あ、俺が今週授かった力が【グループ】っていう力なんです。今からここにいる全員にグループに入ってもらっていいですか?この力はまずグループ内ならだれとでも念話ができます。それと俺のスキルをみんなに使ってもらうことができるんです。すでに学習はしてもらってますけど、おそらく力が跳ね上がると思います。隠密、気配察知、気配遮断、身体強化、感覚強化鑑定、ラーニング、アイテムボックスはそれぞれ制限なく使ってもらえます。豪運は今のところ制限を掛けさせてもらいます。豪運は21人で割ってもそれほど影響ないとは思うんですが、念のため。これが俺たちの資金稼ぎの肝なので。」
俺はそれらを言い切った後、みんなをグループ化し、それぞれにスキルの使用許可を出した。
「おぉぉ、すげえ。これが紀夫が感じていた力ってやつか。今まで学習したものと比べると全然違うな。」
「原付バイクがレーサーになった感覚みたい。」
「たとえがバイクなのな。」
俺たちは笑った。
「それと、今までは必要なかったですが、逮捕術やほかの武道、銃器の取り扱いなどもラーニングで学習してもらいたいんです。これらは使わないで越したことはないですが、いざというときに知っているのと知らないのとでは大きな違いがありますから。これは今日の夜中に始めますね。1時ごろにはみんな寝るようにしてください。」
「ちょっと待った。のりちゃん、今日も行くつもりだろ?」
「はい。なるべく早く排除できれば、それだけみんなが安全に暮らせますから。」
「じゃあ、今からラーニングで学習させてくれ。今日は俺も手伝うからよ。」
「それなら私たちもよ。この身体強化で一晩ぐらいへっちゃらみたいだしね。」
「それはありがたいです。実はあと3件の暴力団は今日中に壊滅してしまいたいんです。こんな奴らにいちいち手を取られるのもばからしいですからね。それに同時多発的に起これば、俺にかかってる嫌疑も薄れると思いますんで。」
「そういえば、警察はどうするの?」
「ほうっておいていいでしょう。向こうも俺が犯人と断定して追いかけてるわけじゃないでしょうし、第一証拠がないんです。万が一検挙しようとしても過剰防衛が関の山ですが、連中が裸だったのに俺はその路地から何も持ち出してないんです。」
「そうか、アイテムボックスか。」
「はい。だから俺を捕まえようとしてもかなり無理があるんです。じゃあ、俺が考えていた作戦を話しますね。」
と俺はホワイトボードに書き出した。
「まず服装です。隠密を掛けると透明になるというか認識されなくなりますから、どんな服でもいいんですが、万が一服を破かれて遺留品として残るのもまずいです。だから昨日俺はこんな服装で潜入しました。」
俺はそう言ってアイテムボックスから直接潜入コスチュームに着替えた。
これにはみんな驚いたようだ。
「アイテムボックスってそんなこともできるんだな。」
「かなり素早くやらないと下着姿をさらしちゃうからね。注意が必要。でもこれができると便利だよ。」
下着姿で固まった自分の姿を思い浮かべてみんな笑った。
「で、このゴムのお面は昔肝試しで使ったまま、押し入れに入れてあったものを改造してるんだ。目と鼻と口と耳の部分は細かなメッシュを入れて通気性を上げてるんで、外から見たらぴったりして見えるけど、実は結構通気性もいいし音もちゃんと聞こえるんだ。それとこれの一番いいところは顔の輪郭を作っておけるんだ。」
「確かにのりちゃんが仮面かぶってるようには見えないわね。」
俺は一度アイテムボックスの中にマスクだけを収納した。
「これを応用するとこんな風にもできる。」
「うわ、猫ちゃんだ。」
「明日以降にでも、このマスクを買いに行って全員のものを作っておきましょう。どんなマスクがいいかも考えておいてくださいね。それとこの服はもともとジャージだったんです。それを黒く染めてパーカーに仕立て直したんです。その姿で暗闇に立つと顔だけ浮いて見えますからね。結構不気味だと思います。それと靴はスニーカーを改造しました。手袋は掃除用のゴム手袋をメッシュにして通気性と柔軟性を上げてます。これで何かに触っても指紋も残しません。みんな家に何か余ってるものありませんか?セルロイドのお面でもいいですし目出し棒でもいいです。どこまでできるかわかりませんが、改造して使ってみましょう。それと、今日襲撃する場所の地図とかはみんなが学習している間に用意しておきますね。ではそれぞれのベッドで寝てください。ベッドがない人はこの部屋ででもいいです。」
それぞれが寝に行った。この部屋に残ったのは男性陣だけだ。
俺はみんなが用意できたのを確認して、ラーニングを発動した。
あらゆる武術、鍵開け、知識もいろいろと入れておいた。呉竹市の地図も学習させておいた。
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