-03.動画配信の有名人?

 俺は押入れをあさって、昔買ったゴムののっぺらぼうのマスクを取り出した。

 もう古くて、ゴムにひびも入っているのでアイテムボックスに入れて修繕して復元。そして今の俺の顔に合うように少し大きくした。

 このマスクは肝試しするって時に俺が買ってきたもんなんだ。

 目と口のところだけ開いてるマスクなんで結構息苦しくなる。

 俺はそれを改良して、端の当たりも口回りも目の周りも細かなメッシュが入るようにして、基本すべて白いゴムでおおわれているように見えるものを作った。

 そうそう、耳の部分もメッシュにしているから音はクリアに聞こえる。


 これと、あとは服装だな。

 クロのパーカーに黒のTシャツを着こんだ。

 ジャージの黒の下を作ってそれを履いた。

 スニーカーも黒一色に改造して、足音が出ないようにソールを工夫しておいた。

 隠密をかけて、音を消したんだ。


 あとは手袋がいるな。

 俺は掃除のときに使った緑のゴム手袋を改造して、黒でぴっちりしたものにした。

 汗がこもるのも嫌なので、これも細かなメッシュ状にした。

 こうして全身黒ずくめで顔だけ白という、絶対に街で会いたくない人になった。


 …鏡で見てみるとどこぞの動画配信者のように見えなくもない…。


 俺は部屋でその格好に着替えて、隠密で姿を消して、窓から外に出た。

 今の俺の身体能力だと音もたてずに飛び降りることも簡単だ。ましてすでに隠密で全身が見えなくなっている。


 俺はそのまま駅に向かって走り出した。

 駅の商店街を抜け、ハローというスナックを探した。

 10分後、そのスナックを見つけた。

 俺はそのまま扉を開けて中に入った。


「いらっしゃい。」

 と、声をかけるも誰もいないことにいぶかしがりながらも、店員のホステスはそのまま客の応対をしていた。

 なるほど。元締めはこいつらか。

 いかにもやくざな格好をした連中がそこで5人ほど飲んでいた。

 横には震えながらおびえている高校生か中学生ぐらいの学生服を着た女の子が3人つかまっていた。


「おいおい、姉ちゃん。そんなにおびえてないで、俺に酌でもしろよ。俺たち怒らせると、なにするかわからないぞ。」

 と、怯える女の子をもっと怖がらせようとするかの如く、女の子たちに酌を強要していた。


「兄貴、もういいでしょ?もう待ちきれませんよ。」

 と弟分のような若いチンピラが兄貴分に言った。

「おう、そうだな。まだ武たちは戻ってこねえのか。」

「へい、兄貴。連中夕方あたりから駅前でナンパしてくるって行ったきりでさ。」

「あいつら自分たちだけで楽しんでるってことはないだろうな。」

「かなり脅しつけておきましたんで、今頃必死でいい女探してますよ。そういえば兄貴。塚本組と話はついたんで?」

 兄貴と呼ばれた男はグラスに入っていたウィスキーを一気に飲み干した。


「ふぅ。それがうまくないんだ。上納金が倍額になって、しのぎの店も一つ取られちまった。お前らにはもったいないからうちで使ってやるだと。クソ~、飯島の野郎め。」

 男はブルブルと震えだし、怒りをこらえているようだった。

「お前らは今から可愛がってやるからな。おい、店の看板消してカギ閉めて来い。」

 男はそう言ってカチャカチャとズボンを脱ぎだした。


 俺はそれまでの状況をカウンターの上に立ち、ボックス席で飲んでいるその男たちを映していた。もちろんこのカメラにも隠密は掛けてある。俺はアイテムボックスから三脚を取り出して持っていたカメラを固定した。そのまま録画は続行している。

 店のホステスが、閉店の札を下げて、看板の明かりを消して、ドアに鍵をかけた。

 既に待ちきれなかった男たちが女子学生に群がっていた。


 俺はまずホステスの女から意識を奪った。

 その女を引きずってカウンターの中に寝かせた。

 それから男たちの腰骨を一人ずつ砕いていった。

 最近気の鍛錬も始めているため、正拳突きで砕いて回った。

 女の子たちはキャーキャーと抵抗しながらも覆いかぶさってきている男たちを排除できないでいる。


 俺は以心伝心を使ってその女の子たちをリンクして念話で話しかけた。

『騒がないでくれ。今その男たちを無力化する。君たちが騒いでいると君たちを誤って殴りつけるかもしれないので少し静かにしてくれ。もう既にその男たちは立つこともできないし、いろいろと漏らしてるからね。』

 俺がそう頭の中に話しかけると急に女の子たちは抵抗をやめて覆いかぶさっている男たちを観察しだした。


「うぅ、何だ急に。腰が痛い。痛い。」

 男たちは下半身に一切力が入らなくなり、その場で漏らしていた。

「おい、明美。救急車だ。救急車を呼んでくれ。」

 と兄貴と呼ばれていた男がわめきだした。

 俺はその間に一人ずつ首筋に掌底を打ち込んで、意識を刈り取っていた。

 そして3人の女の子の上から男たちを引きはがした。


 急に身軽になった女の子たちはびっくりして、何が起こっているのか確認するために辺りをきょろきょろと見まわしていた。

『もう大丈夫だから逃げなさい。駅前に交番があるからそこのおまわりさんに助けを求めて。いいかい?よし、GOだ。』

 俺はそう話しかけている間にドアのかぎを開けて、扉を開いておいた。外の明かりが見えた女の子たちは必死に店の外に出て、駅の方に向かって走り出した。


 さて、尋問を始めよう。

『おい、起きろ。』

 俺は兄貴分の股間を踏みつけて起こした。

 男は絶叫しても体が動かなくて悶絶していた。

「だ、誰だ。どこにいる。出て来い!」

 男はわめき散らしたが、俺の姿をとらえることはできない。

『わめくな。お前たちの仲間はこれで全部か?』

「俺たちの仲間だって?もっとたくさんいるよ。必ずお前を見つけ出して八つ裂きにしてやるからな。覚悟しておけ。」

 男は口から泡を吹きながらも、そう言った。

 俺はその姿を見て少しあきれた。

 鑑定さんがばっちりそのあたりのことまで情報を出してくれている。


 まずは、駅前のチンピラと同様に丸裸にして、財布なども奪っておいた。

 ついでに思い出して、さっきカウンターの中に寝かしたお姉さんも同様に裸に剥いておいた。

 この状況を見つけたお巡りさんはここで何があったと思うだろうか。

 残念ながらお姉さんはうつぶせに倒れてたから何にも見えなかった。

 見えなかったといったら見えなかった。


 俺は間もなく警察がここに駆けつけるだろうと大事なことだけ聞くことにした。

『さっき話してた塚本組の飯島って男の話を聞かせろ。お前らの兄貴分なのか?』

 すると、その言葉に刺激されたのかわめきだした。

「そ…そうだ。お前なんか飯島さんに〆てもらう。飯島さんは俺たちのケツもちなんだ。今にここにも駆けつけてくるぞ。」

『そうか。その塚本組ってのはどこにあるんだ?』

「このすぐ近くだ。今に大勢がやってくるぞ。お前は囲まれて終わりだ。ハハハ…。」

 男はだんだんと笑い声が大きくなっていった。うるさいから気絶させようかと思ったが、もうすぐ警官たちが来るだろうと思いなおし、カメラと三脚をしまい、レジらしいところにあった現金を数枚床に散らかしながらすべて奪っておいた。

 レジの下にあった金庫も同様だ。

 これで強盗の仕業にでも見せかけられるだろう。


 俺は高笑いしている腰砕けの男の両肩も壊しておいた。

 高笑いが絶叫に変わった。

 その声を聴きながら店の外に出ると丁度そこに警察官が警棒を手に駆けつけたところだった。

 俺はそのままその店から離れた。わめき散らしている兄貴分の男の声が商店街中に響いていた。女の子たちは無事に交番にたどり着けたのだろう。


 俺はそれから付近に塚本組がないか探した。

 スナックハローで起こった騒ぎはすぐに広まり、塚本組と思しき建物からいかにもチンピラというようないろんな色のスーツを着た若者が躍り出てきた。

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